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現在の短期滞在チームへの物資補給

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

第二次短期隊の訓練とは別に、第一次短期隊が滞在している宇宙ステーション「こうのす」からの要請を受け、緊急補充ロケットが打ち上げられようとしていた。

現在、漁場使用の関係で種子島宇宙センター及び内之浦宇宙空間観測所からの打ち上げは制限されている。

そこで、「数人とパソコン数台で打ち上げ前点検や管制を行えるモバイル管制」が売りのイプシロンロケットの強みを生かし、別の場所から打ち上げようと交渉している。

立候補地の中から、最終的に茨城県が決まった。

つくば宇宙センターが在る県で、東側が太平洋に面し、打ち上げ条件的にも非常時の対応的にもやりやすい。

臨時の射場設置を急ぐ一方、積み荷も調達が急がれていた。

一つはヒヨコ豆である。

この豆は中東ではよく食され、ユダヤ教徒の食事でも好まれる。

また、レンズマメのリクエストもあった。

ヒヨコ豆、レンズマメ、そしてそら豆は海外ではよく食べられる。

潰しても良し、スープの具にしても良しである。

豆なので、栽培についても検討され、「でんえん」の一部を使って栽培実験も始める事にした。


この豆輸送について、ひと悶着があった。


それは射場提供についての礼で、水戸にある県庁を訪れた時の話である。

知事に挨拶する。

最初は固い感じの儀礼的な会話であったが、要件が済むと雑談に移る。

知事は、この時は砕けた口調でこう言った。

「そういえば、君たちはいずれは宇宙でも納豆を、と目標を立てているそうじゃないか」

「はい」

「誠に結構な事だ。

 納豆は日本の、茨城の、水戸の誇る健康食材だよ。

 きっと宇宙での生活でも健康を保ってくれるだろう」

「そう期待しています」

「どうだね、今回茨城から打ち上げるんだし、1パックくらい持って行っては?」

「は? まさか?」

「まさかも何も、納豆1パックだよ。

 それくらい問題にならんだろ」

大問題である。

納豆の宇宙における問題は、糸を引きそれが漂う、臭いが籠る事の他、強過ぎる納豆菌にもある。

宇宙ステーションはある意味無菌室(クリーンルーム)で、そこで様々な精密実験をいている。

イーストや麹菌、乳酸菌ですら厳重に隔離しているのに、今の段階でそんな強烈な菌を持ち込めない。

将来的に持ち込む時も「納豆専用モジュール」なんて検討されてるくらい、要隔離対象なのだ。

宇宙ステーションならずとも、酒造、醤油醸造、製薬会社、さらにはコカ〇ーラの工場でも、朝納豆を食べた人間は立ち入りを拒否される代物なのだ。

それに、今回は積み荷が積み荷である。

「知事、残念ながら宇宙ではまだ、納豆の受け入れ態勢は整っていません」

「でも、一回やってみたらどうだい?」

「今回、ヒヨコ豆やレンズマメも輸送するんです。

 同封した納豆から漏れ出た菌が、ヒヨコ豆やレンズマメも納豆にしたら大変な事になります!」


知事は一瞬、職員が持参したパンフレットに描かれたイプシロンロケットが、納豆の藁束に見えた。

藁束(イプシロン)を開けたら、そこには糸を引く豆たちが……。


「流石に外人さんに納豆は食わせられんか」

「いや、将来的には挑戦して貰うのもありです。

 しかし今回は、彼等は『ヒヨコ豆のペースト』や『豆のスープ』を期待しているのです。

 知事も、ビール飲んでさあ枝豆だって時に、納豆が出て来たらガッカリするでしょ?」

「うむ、私も納豆は大好きだが、確かに枝豆の気分の時に納豆だと、これは違う、と思うな。

 そうか、残念ですが納豆の件は忘れて欲しい」


かくしてイプシロンが天空飛ぶ納豆入り藁束になるのは防がれた。

(豆は茹でないと納豆にはならないが)



補給物資は中東系ばかり優遇はしていない。

「ピーナッツバター?

 チンゲン菜?

 エビの塩辛、熱処理したもの……これら何?」

「フィリピン料理の食材です」

「フィリピン?

 確かに飛行士の中に居るけど、特に不満を漏らしてはいないと聞いているが?」

「不満は無いですし、彼自身極めて謙虚な飛行士です。

 ただ、中東系にばかり気を使った料理で、フィリピンを蔑ろにするのは如何なものか、

 と森田船長の方から進言が有りましてね。

 料理長もデザートではジェラートとゼリーと煮豆とフルーツで、なんちゃってフィリピンデザートを出したりしてますが、やっぱり食事の方でも気を使わないと」

「バナナケチャップとかスイートチリソースなんてのもそれか。

 少量のパックだから、使い切りだな。

 まあ、余り多く送っても、余らせて困るだけだろうしね」

「……今の時点で、イタリアンの料理長だから困ってると思うぞ」

「この件、誰か総理の耳に入れたか?」

「いえ、自分は」

「自分もしていません」

「おかしいなあ。

 さっき電話がかかって来て

『フィリピンにも気遣ってくれてありがとう。

 大統領にも良い土産話になりましたよ』

 って言われましてね」

秋山が何とも言えない表情で職員に話す。


「まさか、我々の中にスパイがいる、と?」

「いやスパイとかどうでもいいですよ。

 別に隠すような話でも無いし、いずれ私から報告入れる事ですし。

 ただ、こちらで検討中なのに総理レベルで決定事項にされると、後々我々が面倒になるから、総理に伝えているのが誰か、どんな手段なのか分かりませんが、タイミングだけ管理しましょう」

総理が先に決めてしまうと、何かと面倒になるのだ。


こうして様々な物資をびっしりと詰め込んだイプシロンロケットが打ち上げられた。

すぐに準備が出来る反面、段ボール1個分相当の荷物(ペイロード)しか運べない。

万能ドッキングモジュール「うみつばめ」が輸送カプセルを回収し、小さな貨物室を開くと、そこからはアラビア文字やアルファベットで書かれたパッケージの食材が溢れ出た。

そして使い慣れない調味料を見て、アントーニオ料理長は溜息を吐く。

「これは私にどうにかしろ、という意味デスネ……」

ツケは現場に回る……。

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