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手持ち無沙汰でも母国の為に「自分は頑張っているよ」という放送をせねばならぬのさ

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

ギアナ高地より輸送機が打ち上げられた。

各国の小型衛星と射出の為の小型エンジンが搭載されている。

小型衛星は、大学や工専での製作の遅れもあって人員とは別での輸送となった。

小型衛星の他に、やはり大学や政府研究機関で開発した計測機器も運ばれる。

これらの中には「こうのす」の外部に取り付けられ、耐用日数という寿命が来るまで開発国にデータを送信し続けて研究に利用されるものもある。

宇宙での動作確認の後に持ち帰るものや、室内実験用のものもあり、「来れば」する事は多い。

また輸送機には、6人から13人に増えた分の食糧も積まれている。

さらにコア1とコア2の高度維持用エンジンの燃料も、契約を受けて運搬される。


この輸送機は、ロシア式のドッキング装置を使っている為、多目的ドッキングモジュール「うみつばめ」のロシア式のポートに自動でドッキングする。

ドッキング時にロボットアームで把持(キャプチャ)して姿勢を変えるような手間がかからない。

それでも、打ち上げからドッキングまではまだ時間がかかる。

この間、各国から送られる船外用計測機器設置訓練として、宇宙服の着脱、エアロックの使用、ロボットアームの操作等を練習している。

この練習は楽しい。

地上でも何回も訓練し、手順は全部頭に叩き込んだ筈だ。

しかし、実際に宇宙に来てみると無重力で勝手が違い、それが新鮮でつい1個か2個手順やチェック項目を飛ばしてしまう。

操作卓(コンソール)でハンドルを握ると、動かす反対側に体が動く。

足をストッパーにかけて踏ん張る必要性を、実際に体験して知る。

宇宙に来た甲斐があったというものだ。


しかし実際のところ、彼等はまだ成果を挙げていない。

宇宙服を着て宇宙遊泳したところで、計測機器を取り付けていない以上、遊んでいるのに等しい。

機器を設置し、動作を確認し、データが開発機関に送信されて初めて「成果」なのだ。

まだ何も成果が無いのに、本国との通信をしなければならない。

オンスケジュールなら、機器の設置をし、いくつか観測をしてから本国との通信を行う。

だが物資輸送が遅れている為、先に放送のような雑事を終わらせておいて、後半日程で設置等の任務をこなさなければならない。


コア1の船長席の反対側にある放送用スペース、ここに立つミッションスペシャリストは、軽く憂鬱であった。

Youtuberのように饒舌ではない彼等は、話す内容が有るなら色々と説明出来るが、今の状態では何も言うべき事が無い。

エンターテインメント的な人間なら、この状態でも楽しい通信が出来るが、彼等は決してそういうタイプの人間ではない。

困った表情で口ひげを撫でていた。


「テレビ中継されるのですか?」

「はい、国営放送が生放送します」

「質問はされるのですか?」

「質問、はいされます。

 まだ宇宙に来て何も出来ていないので、質問に答えられません」

正直な人のようだ。

橋田船長、古関副船長、そして森田副船長補佐の3幹部が色々と入れ知恵をする。

どうやら話す内容が出来たようで、安堵の表情を浮かべていた。



ーーーー数時間後


『〇〇国営放送です。

 日本(ヤーバーニ)の宇宙ステーションに滞在している我が国の宇宙飛行士と中継が繋がっています』

おそらくこんな内容のアナウンスをしているのだろう。

中東の方の言葉は分からない。

アラビア語が若干分かる程度では、方言には対応出来ない。

(今回は居ないが、イランだとペルシャ語、トルコはトルコ語と系統が異なる)


後で何が話されたかを教えて貰えた。


『ところで、飛行士はこれまでに何をしていましたか?』

「専ら船外活動の訓練です」

『我が国で開発した計測機器を設置すると聞きましたが?』

「まだ到着していません。

 明日到着するので、それ以降の作業になります」

『では、今までの期間、日本の好意に甘えて遊んでいたのですか?

 国家予算を投じているのですよ?』


(来たな)

後で聞いた幹部も、飛行士もこの質問を想定していた。


「そうです。

 国家予算を注ぎ込んだプロジェクトなのに、遅れが発生するとただの無駄遣いになります」

『どういう事でしょうか?』

「小型衛星のコンペが、審査側の都合で遅延しました。

 その遅れが開発の遅れ、改修の遅れになりました。

 結果、本来持って打ち上げる筈の衛星が、別の打ち上げに回りました。

 そちらが天候待ちで遅れた為、予定が更にズレ込みました。

 神の御加護と皆の知恵を出し合っての結果で、幸いにも滞在期間中に任務は果たせます。

 しかし、場合によっては二週間の滞在期間に間に合わず、ただの宇宙旅行で終わった可能性もあります。

 今回の遅れは、宇宙局の依頼を受けた大学や工専の取り纏め事務局から起こりました。

 僅かな遅れが、関係の薄い部門の遅れが、タイトなスケジュールでは致命的になる事があります。

 高度技術に関わる部分のスケジュールの重要さは理解されていますが、

 些細な部分については理解が薄いように感じられます。

 今後宇宙開発を行う時は、上流から下流までスケジュールをきっちり守る事が重要です。

 どうしてもスケジュールに遅れが生じた場合、後への影響も考えたリスケジュールが必要です。

 自分だけは、ここくらい良いだろうという気の緩みが命取りなのです」


こういう話に「何やってんの?」的な批判型質問を「小さな事が大きな失敗に繋がりかねないから、我が国にも意識改革が必要です」的な話に持っていく事にした。

「国家予算使ってるのですよ」に対し「それを無駄にしない為には何が必要か」という話になる。


国営放送の方も、まあ納得したのかしないのか、この話題で終わらせないで宇宙生活や今後の展望等を質問し、まあ有意義な中継となったかもしれない。


本番は機械が到着してからである。

「上手く話せましたが、やはり実績を話したいです」

今後に期待であろう。

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