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少しは不便な生活もやってみよう

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

アメリカ民間宇宙船で打ち上げられた7人の宇宙飛行士は、宇宙ステーション到着と同時に割と優遇された宇宙生活に入る。

大きめのパーソナルスペースの確保された寝室、物にもよるが採れたてを食べられる食事、その食事もイタリアの名店から料理人が調理する。

無重力である不便さを除けば、潜水艦どころか軍隊生活よりも快適。

南極観測隊か船の二等船室くらいの生活は出来る。

これは「こうのす」運用を協力するにあたり、アメリカの希望でもあった。

耐久年数が過ぎても使用しているISSや、その次の宇宙ステーションにおいて研究スケジュールは詰まっているし、新しい希望も来ている。

そんな中で富豪やVIPによる宇宙旅行熱も高まっている。

民間宇宙船企業が旅客を募集したところ、たちどころに予約が埋まった。

その状態で十年も待たせるわけにはいかない。

ISSを使いたいが、各国宇宙機関には迷惑な事だ。

そこで日本の宇宙ステーションにそういう客を流す。

それだとアメリカから日本に宇宙でのビジネスを流すだけになるので、管制や輸送といった運用に関与し、居住モジュールについてもイニシアチブを取る。

民間宇宙企業と大手ホテルグループの後ろにはNASAと、さらに後ろ盾のアメリカ政府が居た。

「別に不便でも問題無い」という外国人飛行士だったが、アメリカは先を見越して、71歳の老人やISSに行かずとも済む程度の訓練で宇宙旅行可能となる「住環境」を先行試験しようとしたのだった。


……その割に、下の方にはそういう意向が伝わってなく、相手を見下すような態度を取らせて不快にさせる辺りアメリカらしいとも言えるが。


「打ち上げて、ホテルを目指しているモジュールに入って、ろくに観測器材、特にレーダー系を触らせて貰えないんじゃ宇宙に行く意味も薄くなりますよね」

と職員が秋山に言う。

秋山は

(余計な事考えるんじゃないぞ)

と思いつつ、話を聞く。


その職員の提案は、宇宙ステーションにドッキングするまで、1日か2日不便な宇宙生活をして貰いましょう、と言うものだった。

低軌道を傾斜の少ない軌道で周回する「こうのす」は、高い軌道をロシアの宇宙基地に合わせた傾斜のきつい軌道で周回するISSに比べて、短時間で到達する。

打ち上げ時間を調整すれば、24時間以内にドッキング可能な位置にまで到達出来る。

だが、あえてそうせず48時間かけて「こうのす」に到達する。

それからドッキングと気圧合わせやデータリンクを経て、ハッチ開放までに数時間かかる。

この間の時間、民間宇宙船にはホテルのようなベッドも、レストランの食事も無い。

良く言って飛行機のビジネスクラス、悪く言えば2列シートの夜行バス(個室無し)のような住環境で、既製品の宇宙食を摂って暮らして貰う。


「ちょっとは不便さを味わいたいんじゃないですかね」

「……別に不便さを求める必要は無いだろう。

 我々の目的は、宇宙の不便さを無くする事なのだから」

「だったらジェミニは何ですか?」

「あれは訓練機だから、あえて不便な機械式にしてる」

「訓練なら不便な事は必要なんですよね?」

「いや、不便が必要というより、コンピュータが故障した時とか、機械を操作してどうにかする為にああいう仕様になっているのだ」

「本来ならジェミニでミッションスペシャリストは打ち上げの予定でしたよね。

 それが人数多いから民間宇宙船に変わっただけで。

 宇宙に行った気分を味わう為、あえて不便な日も作りましょうよ」

「フライトスケジュールって決まっていて、軌道要素とか色々あるから、変更出来ませんよ」

「変更出来たら良いのですか?」

結局再計算の結果、1日余裕が出来てしまった。



ーーーー軌道上にて


「私、気分悪い」

「私もです」

ミッションスペシャリスト2人がすぐに宇宙酔いを発症した。

「なんか軽い興奮状態にあります。

 目の裏が赤くチカチカして、光が広がったりして、眠れません」

1人は宇宙特有の、宇宙線が目に飛び込む光や何やらで不眠に陥った。

「胃液が上がって来ているような感じがします。

 喉の辺りにも酸っぱい感じがあります。

 食欲無いので、今は食事したくないです」

1人はそんな感じで宇宙食を受け付けなかった。

残る1人は何ともなかったが、周囲の体調不良の人間を見てオロオロしたり、戻す時に袋を渡したりしていた。


「先生は大丈夫なんですか?」

「僕は大丈夫ですよ。

 うん、宇宙食も美味しいねえ。

 錠剤とかチューブみたいなものかと思っていたけど、普通に缶詰め飯なんだね」

老先生は健啖かつ健康であった。


(これは先が思いやられるなあ)

森田船長は他のミッションスペシャリストたちを見て頭を抱えた。

だが、職員がサービスとして入れるよう調整した軌道上の1日が丁度良かったようである。

「こうのす」とのランデブー飛行に入り、ロボットアームが把持(キャプチャ)し、ドッキング。

ここから空気調整や気圧調整が終わり、ハッチが開く頃には宇宙酔いしたミッションスペシャリストも一旦眠りに付き、

「眩暈がする」

と言いながらも、以降は酷い宇宙酔い状態から回復していた。

不眠になった者と食欲不振になった者は、1日半眠らずか食べずで、その後に広い宇宙ステーションと見た目にも快適な居住モジュールに荷物を移した後

「ひと眠りする」

「すみません、何か軽く食べられる物を下さい」

となった。


かくして宇宙ステーションに移乗して僅か1日、それだけの時間で適応完了し、時間を無駄にせずに翌日からは短期滞在のスケジュールに沿って任務(ミッション)を始められる事になった。

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