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アメリカでの苦労は続く

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

老先生がアメリカに到着し、いよいよ2週間後の打ち上げに向けたチームごとの最終訓練がアメリカで始まった。

老先生、御年72歳になった、はアメリカ側の思惑もあって大歓迎される。

大統領が直接会う事はしないが、ビデオメッセージを送って来たり、側近を送って激励したりした。

更にNASAでも健康に対し気を使い、専用の医療チームも編成している。

だが、こんな扱いは老先生だけであった。


NASAからしてもJAXAからしても、日本独自の有人宇宙飛行プロジェクトは一段下に見ている。

宇宙での地産地消生活以外、特に目新しい事は一個もしていない。

先端工業に繋がるようなハイレベル研究や実験はISSで行っている。

ISSに行ける飛行士は習得言語数や学位レベル、技能習得度も日本独自(英語と日本語が出来たら可、ミッションスペシャリストは修士課程在籍級)より上を求められる。

日本独自宇宙ステーションはISSの補完機能、殺到している富裕層からの観光宿泊や同盟国からの宇宙飛行士滞在を代行して貰う先である。

ジェミニ改による訓練飛行はアメリカも恩恵を受けているが、それでもアメリカ人訓練飛行を行う際のジェミニ機長はアメリカ人か、ISS滞在可能な訓練を経た日本人宇宙飛行士しかなれない。

「こうのす」に行くミッションスペシャリストは一段も二段も低く見られているし、さらに短期滞在のみで、かつ自動制御で運ばれるだけの民間宇宙企業宇宙船を使うなら猶更である。

それでもNASAは日本人には気を使う。

補完用宇宙ステーションとはいえ運用責任国であり、また訓練飛行用宇宙船及びISSで協力をしているからだ。

相互協力関係にある国には敬意を払うし、相応の技術や研究実績を持つ者にも敬意を持つが、アメリカの宇宙機関に頼り切る相手に対しては、支払われた対価相応の対応しかしない、それがアメリカである。

今回日本が最終訓練を任せて来たのは、イスラム圏を含む(日本から見てもアメリカから見ても)外国人ばかりで、独自の宇宙技術は無い国ばかりだ。

出資国も日本であり、アメリカが気を使うのはスポンサー様である日本に対してだ。


更に昨今の疫病も良くない。

アジア人はとかく白い目で見られがちである。

NASAの職員にそういう差別的な人間はいないが、周囲との隔離施設では違った。

特に疫病問題が無くても、宇宙飛行士は打ち上げ前は世間から隔離される。

無菌室(クリーンルーム)である宇宙船に病原体を持ち込むリスクを減らす為だ。

その為の施設(ドミトリー)だが、運営はNASAが直接ではなく、嘱託している。

そこのルームキーパーや清掃員、ビュッフェの担当者は態度が露骨に出たりする。

ある意味階級社会のアメリカでは、学歴やそれの元となる所有財産によって就く職業が分かれる。

高学歴な者が、低学歴の人の職を奪うような事をすると嫌われる。

ルームキーパーや清掃員など、NASAに入省するレベルの人は就いていない。

彼等は「正規の宇宙飛行士よりもレベルが低い」「アジア人」「イスラム教徒」という事で冷淡な態度や、差別的な態度を取る者もいる。

チームには、操縦席に座り船長を勤める日本人飛行士と老先生もいて、彼等には敬意を持って接するから、なおさら外国人飛行士から不満が高まる。

日本に対して、ではなくアメリカに対して。


ホテルのルームキーパーは、各部屋のチップが収入となっている事もあり、彼等の生活の為にもチップを弾んだ方が良い、無論サービスに満足したらだが。

この施設の場合、しっかり給料は出ているし、各人へのボーナスも日本が払った。

だから入所した飛行士たちも「チップはもう払われている」という認識である。

それはそれとしてチップの欲しいルームキーパーたちは、チップを渡さない飛行士に不満を持つ。

日本人に対してはサービス満点で、2人の日本人も、外出出来ない自分の代わりに頼み事をすると、多額のチップを渡す。

サービスに不満がある外国人飛行士は、チップを渡さない。

それもあって、宿泊側、宿泊所側の関係は極めて悪くなる。

こういう諸々の苦情処理までもが小野に回って来ていた。


「どうして俺が……」

不満たらたらの彼だが、日本の秋山たちから見ても、アメリカに行ったっきりの職員たちからも、NASAやB社社員からも、なんだかんだで壊れないで対応してくれる小野は有り難い。

「俺の専門じゃねーよ……」

ぶつくさ言うし、たまに

「漁港から太平洋に向かって吠えてるジャパニーズがいる」

とシアトルの名物になりつつあるが、どうにかこうにか対応してくれる貴重な存在だ。

コミュ障ぎみで交渉事は苦手なのだが、NASAに交渉して正規の飛行士の宿泊施設と同じ所に移動させて貰い、一方で秋山に言って予備費を貰い

「彼等は国費で派遣されているから、自由に使える金が無かったんだ。

 不満があったと思うから、代わりに日本がボーナスを出すよ。

 また日本の訓練生が来た時はサービスを頼みます」

と施設に行って直接現金(キャッシュ)で支払いをする。


「金で片を付けているが、俺にはこれ以上出来ん。

 人種差別と戦いたければ、各自でやれ。

 俺はこれ以上関わるつもりはない」

彼は短期滞在で宇宙に出向く飛行士を無事に訓練させるのが仕事であり(それも本業ではないのだが……)、社会的な闘争を指導するのは仕事の内でない、そう割り切っている。


日本が金に物を言わせはしたが、その後の外国人飛行士たちは無事最終訓練を終えられた。

日本人飛行士、というか宇宙船オペレーターと老先生も含めたチーム7人は、打ち上げに向けて民間宇宙船に搭乗する。

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