ロシア人来襲!
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
とあるテレビ番組人気司会者の父親が南極観測隊に出向いた時の話である。
ある時、日本隊が南極で流しそうめんをした。
その時にたまたまイタリアの観測隊がやって来た。
イタリア隊は日本隊の遊びに興味を持ち、自分たちの「流しスパゲッティ」をしたという。
南極は恐ろしく寒冷な事を除けば、酸素もあるし、陸続きである為、他国の観測隊と会ったり訪問されたりする事もある。
宇宙の場合、そうはいかない。
あらかじめ目的地があり、そこに計画立てて行く
筈だった。
宇宙ステーション「こうのす」のレーダーが接近する機体をキャッチする。
隕石や宇宙塵と違い、認識信号も問いかけにも応答があり、人間の乗る宇宙船と分かった。
「こちらソユーズ。
日本宇宙ステーションへの緊急ドッキングを要請する」
「こちら『こうのす』、つくば、応答願う。
ロシアよりの緊急ドッキングの要請あり。
判断を願う」
『こちら、つくば。
ソユーズ応答願う』
「こちらソユーズ、御機嫌良う」
『事態を説明されよ。
当方にも準備が必要であり、場合によってはドッキングを許可しない』
「こちらソユーズ。
病人が出た。
日本の宇宙ステーションでないと対応不可能だ」
緊張が走る。
病気とは、場合によっては宇宙ステーションを全滅させかねない。
『病状を説明せよ。
感染症であるなら、ドッキングを許可しない。
急ぎ地球に戻る事を推奨する』
「こちらソユーズ。
病気の名は『コーヒー中毒』だ。
禁断症状が出ている。
急ぎ一杯を求む」
『は??????』
要は、帰還予定にあったソユーズの船内で
「そういえば、日本の宇宙ステーションでは美味いコーヒーが飲めるそうだ」
という話題になり、
「それは飲みに行かねば!」
と3人が一致してしまったという。
質の悪い事に、コーヒー中毒者には任務終了後のアメリカ人宇宙飛行士もいた。
彼等は怒られるのを覚悟で、軌道を変えてから本国に事後報告を入れ、そのまま「こうのす」の軌道まで降下して来たのだった。
「……地球帰還まで待てないのか?」
「待てん!」
「回収班にコーヒー用意して貰えよ」
「俺に出すコーヒーは無いと言うのか?
国際問題に発展させるぞ」
「ここは宇宙ステーションであって、スター○ックスじゃないんだが」
「だから金は払わんぞ」
「あくまでも飲みに来ると言うんですか?」
「その通り!」
地上では秋山に報告が行き、NASAやバイコヌールと相談を行った。
こういうイレギュラーな事はやってはいけない。
宇宙飛行士は管理された生活をして、宇宙船はギリギリの酸素と燃料で運用されている
……のだが、
「150分の滞在を許してやって欲しい」
という思いもかけぬ返答が返って来た。
ソユーズには十分な酸素と燃料があり、あと2日は軌道に留まる事が出来る。
アメリカ人飛行士はミッションスペシャリストであり、アメリカとして命令を出せない。
運搬するロシア宇宙局の判断に委ねられる。
そのロシアは「まあ良いだろう」という判断となった。
「日本の宇宙ステーションなら、そんな深刻な事故や生物汚染を起こさないだろう」
という安心感と、帰途だからまあ良いか、という甘やかしもあった。
「随分と緩いですね。
ロシアの宇宙開発はもっと厳しいものだと思ってましたよ」
秋山はそう詰め寄ったが、
「勝手な事をした責任は取らせるさ。
だが、既に軌道を変えてドッキングコースに入ったものを、無理に軌道変更させると燃料計算が複雑になる。
現状では少なくともドッキング可能な位置まで接近を許可するのが無難じゃないかね」
と現状追認であると返された。
かくして「うみつばめ」のロシア式ドッキングポートに、帰還途中のソユーズがドッキングする。
接触は最低限の人数のみとなった。
3人は「うみつばめ」から出る事を許されない。
アントーニオ料理長がコーヒーと軽食を出す。
「ご注文は?」
「ここの宇宙ステーションのオリジナルブレンドで」
「折角だからカプチーノを」
「ブレンドで良いけど、クリームと砂糖はたっぷり入れて欲しい」
「軽食は?」
「ビネグレット(玉ねぎサラダ)を。
ビーツは入ってなくても文句言わない」
「ケーキがあれば」
「ハンバーガー一択だ!!!!」
急ぎ支度する。
遠心調理器がフル回転する。
「おおー、美味い」
「パック詰めで香りを堪能出来るのは、口に含んだ時だけなのが残念だな」
「甘い! 美味い! もう一杯!!」
「このサラダ、玉ねぎは宇宙で収穫したものだというのは本当か?
瑞々しい。
我がロシアでも宇宙農耕は力を入れるべきだな」
「チョコムースですね。
材料が少ない分、料理人の腕が分かります。
素晴らしい!」
「うめー、うめー!
やっぱカロリー万歳だな!!」
「料理長、この肉は地球からの補給品かね?」
「左様デス。
先日、着任した時に持って来た新鮮な肉デス」
「酢はこのステーションで製造しているのか?」
「酢はまだ作っていません。
油は油搾り機が到着し、オリーブの栽培も実験しはじめましたので、イズレ」
「日本、侮り難し」
「こんな美味い飯が食えるなら、宇宙勤務も良いものだ。
次またISSに乗れるか分からないけど、その時はまた寄らせてもらうよ」
(いい加減にしろ、アメリカ人!!)
能天気なミッションスペシャリストが久々のフレッシュな食事に満足した為、彼等はソユーズに戻っていった。
ロシア帰還用の軌道と、日本が使っている軌道は随分違う為、わずか2時間半の滞在であっても、ズレは大きくなるし燃料を再度予定外の量消費する事になるのだ。
(150分というのは、上手く調整可能な時間で出されたものである)
「こうのす」は思わぬ来訪者を出迎え、歓迎し、送り返し、そして日常に戻る。
後日、JAXAはNASAとロシア宇宙局から目が飛び出る額の振り込みをされる。
飛行機のファーストクラスの食事代よりも高額である。
天空のレストランでの食事は、恐ろしく高く評価されたのであった。




