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フェーズ3始まる

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

アメリカのファルコンヘビーをチャーターし、一個のモジュールが打ち上げられた。

日本の宇宙ステーション「こうのす」に接続される多目的観測モジュール「ホルス」である。

大型のモジュールである。

だが、居住区はそれ程広くはない。

与圧室には多数のモニターやサーバが配置され、出入り口付近に仮眠スペースがある以外は、およそ生活等出来そうにない狭さである。

サイズと重さの大半は、モジュール外壁から展開される開口レーダーや赤外線観測装置、紫外線計測器、磁気計、重力計等のセンサーやカメラ類である。

ちょっとは自重しろと言いたい程、千手観音のように多数が外に飛び出していた。


このモジュールはアメリカの合理主義が作ったものである。

与圧室に籠って観測などしない。

そこは単にメンテナンス用の通路に過ぎない。

計測データの転送設定をしたら、地上に自動で送信したり、通信衛星と中継したり、あるいは「のすり」船内でタブレット端末による制御やデータ分析が出来るのだ。


「ホテルのように快適な居住区を作ろうとしているなら、わざわざサーバルームで仕事する事は無い。

 リモートにして、自室で端末操作をすれば良いだけだ」


研究用にシステム構築するエンジニアが定期的に作業をしたら、あとは遠隔でデータを拾えば良いという発想である。

そういう利用の仕方なら人工衛星で良いが、目的に対し最適化し過ぎている。

かつてスペースシャトルの貨物室に設置された宇宙研究棟(スペースラブ)は、その時の目的に合わせて計測器を組み変える事が可能だが、スペースシャトルは既に退役した。

ISSは頻繁に計測機器を組み変えにくい。

現状、外部機器を運搬出来る輸送機も限られていて、その利用予定は詰まっている。

そこで、他国の金で運用されている宇宙ステーションではあるが、自国にも利用権があり、自分で自由に計測データや対象の設定が可能な「こうのす」接続モジュールに目をつけたのだった。

日本の宇宙ステーションは、国際宇宙ステーション程は乗員のレベルを高く設定していない。

研究者というより、計測器の技術者を送って、必要な設定を都度しようというものだった。


日本でもかつて「プラットフォーム」という計画があった。

国際宇宙ステーション計画にロシアが参加する前、もっとも当時はまだソビエト連邦であったが、その時の計画名「フリーダム」における日本の構想は野心的であった。

無人小型スペースシャトルといえる「HOPE」というリフティングボディをH2ロケットで打ち上げ、宇宙ステーションに一時ドッキングして実験機器を積んだ後に分離し、長期間無人実験をする「プラットフォーム」、「プラットフォーム」での成果物は「HOPE」で地球に持ち帰る。


この構想は技術力不足で実現出来なかった。

無人制御で実験をするのではなく、宇宙ステーションに接続された日本実験棟「きぼう」に設けた船外暴露モジュールを利用する事に変えた。

地球往還用リフティングボディは未だに実用化していない。

代わりに「HOPE」より重要な輸送任務を担うようになった。

H2ロケットは、内部の複雑な配管が事故を起こしてしまった為、より簡略化された内部構造と、改良された固形燃料ブースター(推力1,560kNで93秒間燃焼のものから、推力2,262.5kNで98~116秒間燃焼のものへ)によるH2Aへと改良された。


「プラットフォーム」と「スペースラブ」の中間形態、分離こそしないが、必要に応じて観測形態をカスタマイズし、メンテナンス以外は無人で運用するのが「ホルス」の構想であった。

光学的、電波観測、赤外線、紫外線、X線天文学、全て装備しているが、地球を観測する時と太陽を観測する時と遠くの恒星を観測する時で、設定が同じという事はない。

多目的に様々な対象を観測可能、必要に応じて船外活動でフィルターをつけたり、干渉計を用意したりする。

隼神之眼(ホルス)」のニックネームに恥じない観測基地であった。


このモジュールが「こうのす」に接近する。

モジュールを把持(キャプチャ)し、ドッキングさせる山口船長は緊張する。

本格運用はアメリカ人の短期滞在飛行士が来てからになるが、それより前に試験運用が開始される。

既にモジュールはそのようにセッティングされている。

それをドッキングの際のロボットアーム操作で崩してしまったら洒落にならない。

慎重にアームを操作し、コア2の第3ポートに運ぶ。

ドッキング後、仮通電。

接続、起動に先立ってモジュールの機器に応答打診(ピング)をする。

問題無しと判定され、ふうっと息を吐いた。


「こうのす」のコンピュータにも、「ホルス」から情報送信される。

独自の太陽電池パネルが展開されたり、長大なアームを伸ばした先に観測機器を設置していたりとで、重心が変わった。

熱対策の串焼(バーベキュー)航法において、船の重心についての情報は必要であった。


なお、もしもコンピュータが停止した時は手動(マニュアル)で船を操縦する。

回転(ロール)させるのも、それを過度にしないよう制御をかけるのも人間が計算する。

その為、日米の宇宙船には「非常用」計算機が密かに装備されていた。


アメリカでは計算尺、日本では算盤という、無電力計算装置が密かに……。

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