お掃除事情
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
人類最初の女性宇宙飛行士は旧ソ連のワレンチナ・テレシコワである。
その後女性宇宙飛行士は増え、全飛行士の16%程が女性である。
増えてはいるが、やはりまだ宇宙は男性の職場であろう。
放射線が地上より強い環境に、出産という男性には絶対出来ない事が出来る女性を危険に晒したくない、というのもあるだろう。
だが、基本的に男社会だから、というのが強いのだろう。
「こうのす」には現在、石田船務長と川名飛行士という2人の女性が長期滞在している。
料理人とミッションスペシャリストなので、宇宙船を操縦する飛行士ではない。
そういう飛行士の主な供給源である航空機パイロットに、そもそも女性が少ない。
研究職には女性が増えている為、それを反映して女性ミッションスペシャリストは増えていた。
川名飛行士も、食品会社の研究員として優秀で、そこから選抜された。
よって彼女は、男性ミッションスペシャリストと大して変わらないメンタルで、やる事をやり、サービスで何かするような事もしない。
極めてドライなプロフェッショナルであった。
一方石田船務長は、「船務長」という仰々しい役職をあてられているが、基本「学食や総菜屋で何でも作れた料理人」という特別枠だ。
フランス料理、イタリア料理のプロの料理人を上回る臨機応変の応用力に、JAXAの方から頼み込んで宇宙に来て貰った。
その為か、本人に「エリートである宇宙飛行士」という思いが無い。
「そりゃ、周りは凄い子がいっぱいだけどねえ」
と、自分以外は凄いから、その面倒を見に来たおばちゃん的な意識であった。
そして、料理と通信当直以外の仕事は「しなくても良い」という状態が、どうにも落ち着かないようだ。
空いた時間、積極的に掃除、洗濯、整理整頓をしてしまう。
実は余りよろしい事ではない。
彼女は研究・任務に関わる物に触らないが、そうでない日常的なものでも、自分のものは自分で管理する事が望ましい。
船長、副船長もそう説明し、スケジュール外のサービスをしないよう説得した。
理解はして貰えたが、代わりに自分の清掃・家事の時間を増やすようにも要請されたのだった。
単に主婦だった飛行士が暇を持て余しての事ではない。
「こうのす」の基幹モジュール「コア1」と「コア2」、ほぼ同型だが若干の違いがある。
先行して軌道上に生活空間を置く必要があった「コア1」は、トレーニングスペースや太陽風に対する避難シェルターも置かれ、個々の区画が必要最低限の大きさで作られている。
「コア1」の成功を受けて内装が変更された「コア2」は、女性飛行士が内定していた事もあって、女性用スペースが作られた。
女性用スペースといっても、特殊なものではない。
ブラインダーで仕切れる更衣室があったり、浴場・トイレを少し大きく作ったのだ。
僅かな大きさの違いではあるが、女性ならではのゴミ箱を置いたり、化粧用のスペースがあったりする。
機能というより、プライバシー配慮のものでしかない。
それ自体は良いのだが、プライバシーの関係で男性が立ち入って掃除し難いという空間が出来るという不都合が出来た。
そこで石田船務長が提案したのは、女性専用スペースが多く、6人中2人の女性飛行士が占有しているコア2の清掃を自分に任せて欲しいというのものだった。
無論、ノルマ的に川名飛行士も清掃当番、自分の物の洗濯や整理整頓は行う。
研究というメインの任務がある川名飛行士のこういう作業は、雑ではない、丁寧な部類だが、
女性が共有区画・男性専用スペース(基本的には無いが)・女性専用スペースを2交代で清掃し、
男性が共有区画・男性専用スペースを4交代で清掃する為、作業量に差があった。
まして川名飛行士は、受け持ちの研究モジュールの管理もある。
それを考えれば、手空きの石田船務長が女性専用スペースを清掃する時間を増やしたいというのは合理的な理由だった。
山口船長は納得し、一方で「では、男性専用スペース、主にトイレだが、ここは我々だけで清掃し、女性陣の負担を減らしたい」と言った。
石田船務長は首を横に振る。
「川名飛行士はともかく、私には掃除させて下さい」
「清掃用ロボットもあるし、そこまで拘らなくても……」
「もうはっきり言いますね。
貴方たちの掃除、見ちゃいられないんです!
ウ○チがちょこっとついていても、水洗が流してくれるのに任せているじゃないですか!」
「いや……実は小便の標的にして、洗っているのだが……」
「だから壁に黄色い沁みがつくんですよ!
宇宙に限らず、立ってのトイレはやめて下さい!」
「申し訳ない……」
井之頭副船長が、恐縮する船長に代わって口を開いた。
「しかし、我々はプロフェッショナルとして貴女を調理主任として招いた。
船内の清掃等について、船務長として指導する権利はありますが、清掃業者のようにして貰うわけには……」
「分かっていますよ。
だから皆さんの『スケジュール』としての清掃や洗濯、担当する場所については手出ししません。
私の時間を増やして欲しい、それだけです。
私は私の時間内で徹底的にやりたいだけです。
清掃業者のようにして貰うわけにはいかないとか仰いましたが、馬鹿にしないで下さい。
皆さんの掃除は見る人から見れば、全然ダメなんです。
料理をプロに任せるというくらいなら、掃除も洗濯もプロに任せましょう。
研究だけが立派な仕事じゃないんです」
彼等は家事系を意図せず下に見ていた部分があった事を認め、石田船務長の進言を受け入れる事にした。
杓子定規に決める事もない。
「家事のプロ」である主婦の意見を重視し、任せてみた。
身内の不幸で更新停止してました。
多少落ち着いたので更新復帰します。
月末、引っ越しするのでその頃、また休むかもしれません。




