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フライトサージオン

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

地上スタッフの中に、フライトサージオンという者がいる。

宇宙飛行士の体調管理を行うスタッフである。

単に軌道上の飛行士の各種情報(バイタル)監視(モニター)するだけではない。

無重力環境から有重力下に戻って来た後のリハビリも指導する。

JAXAにはこのフライトサージオンが5人居て、日本人宇宙飛行士がISSに滞在している時、1人はアメリカで出張勤務する。


非正規(イレギュラー)な有人宇宙計画である秋山たちの部門であるが、宇宙医師ともいえるフライトサージオンの指導は受けている。

フライトサージオンにしたら、仕事が増やされてしまった形になる。

増員の為、現在応募をしているが、すぐに採用されるものでもない。

宇宙飛行士の身体の変化を知る為に、宇宙飛行士と同じ訓練を受けるからである。


「こうのす」フェーズ3において、退官した老教授が飛行士となる可能性がある事に、フライトサージオンは難しい顔をした。

現在の健康状態を見る。

既往症は無い。

生活習慣病も無い。

筋力も年齢よりはある。

良いようにも見える。

「帰還時の方が要注意です」

フライトサージオンは言う。

「無重力から地上に降りて来た時、体は無重力に慣れ切っています。

 二週間程の滞在でも、カルシウム排出による骨強度の低下も予想されます。

 力の入れ具合も感覚がずれている場合があります。

 ふとしたはずみで骨折とかすると、年齢的には厳しいものがあるでしょう」

危険は宇宙に居る時だけではないのだ。

「筋力の衰えはあっという間ですからね。

 1日ならどうという事もないですが、2日、3日で大分衰えます」

「……中学校のサーキットトレーニングの文句みたいですね」

「無重力は継続的にかかっていた筋肉と骨への刺激が無くなるものです。

 成長期のサボりよりももっと深刻です」


帰還時に危険なのは、他には着水の時の衝撃がある。

意外に強いのだ。

パラシュートを3枚展開していても、所詮は制御された墜落である。

真っすぐ着水する事は稀で、大概は斜めに着水し、急激に抵抗が増えた面からの反動で激しく揺さぶられる。

また、宇宙船は落下速度で一回水中に沈みこんだ後に、反動で押し上げられる。

ロシアのソユーズ宇宙船の場合、着水でなく着地なので、衝撃緩和の為に着地数秒前にエンジン逆噴射を行っている。

この辺り、退役したスペースシャトルは素晴らしかった。

基本、旅客機の着陸と大差ないのだ。

油圧式の脚についたゴムタイヤとは偉大である。


宇宙で病気を発症する心配は今の所薄い。

なので、地上帰還後を想定して軌道上にいる時から肉体の衰えを防ぐ事にする。

カルシウム錠剤やその他ミネラル剤をきちんと調合する。

筋トレのメニューも特別に組む。

また、正式に搭乗が決まったわけではないが、今から手を打っておいた方が良いと

血管強度増強の為の運動

血圧の急変動を防ぐ投薬

腰骨や脛骨を守るギプス

を計画した。


「なるほど、訓練して体作りが出来ないのならば、

 人為的に宇宙飛行士としてやっていける体に作り上げるって事か」

「人聞き悪い言い方しないで下さい……。

 否定は出来ないのですが」


なお、南極越冬隊は涙を不凍液にする注射、ヒマラヤ山脈で登頂を目指す者は低酸素に体を慣らす宿泊、深海作業員は作業前後で気圧を徐々に調節するカプセル入りと、人為的な体の調整は極限環境に赴く者へは普通に行われている。


そして大先生用の訓練メニューが組まれた。

正直、宇宙飛行士に必要な英語力と選抜に足る学力は問題無い。

コミュニケーション能力も、二週間の滞在という事で大目に見る。

代謝が衰えた体を活性化させるトレーニングと、怪我をしない為の訓練に徹底的に重きを置いた。

フライトサージオンだけでなく、専属のスポーツインストラクターもつけられた。

「これで最終的に落選したら、凄い予算と人件費の無駄遣いだな」

職員はそう言ったが、老先生は行く気満々、若返っているようにも見えた。


柔道の受け身、パラシュート降下からの受け身、少し激しい運動で起きた動悸からの回復、水泳からの肺活量回復など、スポーツトレーニングをする。

このトレーニングはフライトサージオンも付き合い、自分の体を使って同じ作用を確認する。

正式選抜に向けて、二人三脚? 三人四脚? いやもっと多くのスタッフを巻き込んで体作りを進めていった。




「いやあ、70歳を超え、研究では第一人者の老教授が宇宙ステーションにって聞いた時は驚いたけど、上手くいっているようだね」

総理が秋山に聞く。

「現在は中間報告ですので、最終的にどうなるかは分かりません」

秋山の返答はつまらない。

愛想の無い返事だが、総理はちょっと嬉しそうだった。

「この訓練メニューで宇宙に行けたらいいね」

「そうですね」

「これで70歳オーバーの人間が宇宙に行ける前例が出来たなら、

 私でも行けるって事だね!?」

「は??????」

「だから、70歳が大丈夫なら、アラウンドセブンの私のような政治家でも大丈夫だよね」

「総理、まさか行く気なんですか?」

「男子たるもの、いつまでも夢は持っていたいものだよ」


秋山は頭を抱えた。

冗談であって欲しいものだ。

同じ思いをNASAの長官も抱える。


日本(ジャパン)では老人新人飛行士(オールドルーキー)飛行訓練(フライトトレーニング)が進められているようだね。

 それが上手くいったら、私も宇宙に行けるのだろ?」

「大統領閣下! 冗談ですよね!!??」

「某映画では大統領自ら戦闘機に乗って、宇宙人(インベーダー)の円盤と戦うじゃないか。

 男はいつまでもそういう意気を持っておくものだよ!」


血気盛んな七十歳児がここにも居た……。


丁度JAXA(本物)が良い動画を配信してくれました。

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― 新着の感想 ―
[一言] まずい、元首相が宇宙で急死なんてことが起きたらとばっちりで宇宙開発が50年は止まってしまう……!
[一言] 諦めてた夢が実現可能かもしれないとなったらまた夢を持つのは仕方の無いことですよね、うん。
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