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短期滞在計画で必要な研究者

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

農業という面で見れば、一番最初のフェーズ1は種を撒き、育てるだけに近い。

確かに収穫期まで短い野菜は収穫して食べられたが、宇宙、特に月や火星で土壌を使っての農業の本命ジャガイモはギリギリ新ジャガが食べられる時期で任務が終わる。

フェーズ2のメンバーは収穫を謳歌出来る。

だが、研究面からいえば、一番つまらない時期とも言える。

一番順調にいく時期なのだから。

研究面で一番充実する、つまり問題にぶつかると予想されるのがフェーズ3である。

フェーズ1、フェーズ2と連作している。

無論研究である為、輪作、別な作物を植えて土壌の栄養や成分のバランスを崩していないプラントもある。

輪作をしているプラント、連作をしてあえて連作障害を起こそうとしているプラントと、7ヶ月費やして作っているのだ。

そして連作障害を起こす頃にフェーズ3が始まる。


無重力でかつ一から管理された土壌で人工光を使った農業をしているから、地球上とは違う状態になる可能性がある。

具体的にはカルシウムである。

月や火星には「土壌」は無い。

栄養やミネラル、さらには窒素を固定する土壌細菌を入れて「土壌を作る」作業が必要となる。

植物の成長に必要なカルシウムも、人為的に土壌に吸着させる必要がある。

月には液体の海はなく、石灰質のバクテリアの沈殿による石灰岩は期待出来ない。

火星は海がかつて存在したから、もしかしたら……の可能性もある。

NASAの調査の結果、石灰岩はないが、かつての火星の海はカルシウムリッチな水で満たされていた事も分かっている。

とはいえ、まだどれだけ使えるかは不明で、今のところは石灰を使う形での土壌作成を考えている。


植物は根を伸ばし、葉を茂らせる茎を作る。

これにカルシウムが使用されるのだが、茎に関しては無重力では大して重要じゃなくなる。

茎が細かろうが、重力が無い為、葉の重さで倒れてしまう事がないからだ。

一方で人工光による紫外線量の少なさを補う為、葉の量は増える。

ここでカルシウムが使用されてしまう。

トマトはミニトマトを栽培しているが、それにしても葉の割に実が少なく、実にはカルシウム不足を示す尻腐れ症状が見えるものもあった。

カルシウムは葉面散布剤をスプレーでかけて補う事は可能。

収穫には問題が無い。

現在見られている症状は

・発芽からの成長期にカルシウムの使用が少ない

・葉を茂らせ、実をつける時点で植物内のカルシウムを使い切ってしまう

・茎が細い為に根からの運搬効率が悪く、実は成長不良の兆候を示す

であった。

それでも、初期は土壌を「地球で栽培する上で最適の状態」にしていたから、影響は少なかった。

地球と同じ栄養価の補充を行うと、次第に植物が成長時に使わない分が残る「カルシウムが多過ぎる」土壌に変わる。

アルカリ土壌である。

アルカリ土壌は、根から栄養の吸収効率が悪い。


こういう「兆候」が見られ始めた以上、農学者としてはここからが本番だ。

そのままあえて連作障害やカルシウム異常を発生させて分析する。

異常は予測されている為、それを補う調整を数値を記録しながら行う。

この値を、あえて異常を起こさせた結果のものと比較するのだ。

これはトマトに限った話ではない。

葉の異常が見られたキュウリや主力のジャガイモについても調べる。


食糧生産という面では、水耕モジュールが本格稼働し始めたので、そちらが補う。

水耕は地球上でも実験済みで、栽培液の調整が土壌に比べてしやすい為、研究よりも生産メインである。

なので、研究が主の農業に関しては

「これ、増員した方が良くないか?」

という議論が出始めている。

ただ、農業モジュール用の研究員を増やすとしても、簡単には出来ない。

宇宙ステーションの定員では役割が決まっているからだ。

土壌農耕モジュール、水耕モジュール、物理・化学モジュール、厨房モジュール(宇宙生活の為の研究扱い)でミッションスペシャリストは決まっている。

それに宇宙ステーションの運用専任の船長と副船長がいて、交代で地上と交信したり、船外活動を行う。


「となると、短期滞在チームに交代で農業関係のメンバーを入れましょう」

その意見が採用されたが、そうなると日本人ミッションスペシャリストの枠が1つ埋まる。

現在6週間で2回の短期滞在プロジェクトを考えている。

これはアメリカ民間宇宙企業の7人乗り宇宙船を利用してのものである。

この時、外国人5人と日本人2人の組み合わせになるが、その日本人の内1人が農業系になる。

短期滞在は、宇宙ステーションの食糧事情や二酸化炭素除去能力の容量から、2週間を限度とする。

「2回、ジェミニ改を使っての短期滞在打ち上げをするとして、全部で4人の農業研究要員を送り込む事になりますね」

その要員4人と、辞退者や訓練での脱落も含めて8人の研究員を招集する事になった。

だが、時期が極めて悪い。

大学院生で応募して来た者の中には、博士論文の大詰めを迎えているものもいる。

教員系では転勤シーズンにかかってもいる。

さらに3月の学会に向けて論文作成にかかっている研究者もいる。

そんな中から、3月丸々潰して訓練に入って貰える人をピックアップする。

「いつもは応募多数から絞り込む作業で大変だけど、

 今度は忙しい中で手が空いている人を見つけ出す、別な作業で大変ですね……」


土壌農耕モジュールは、土壌細菌を生かすプラントを取り扱う。

宇宙ステーションは無菌が基本だ。

故に土壌農耕モジュールに出入りする際は、バイオハザード施設に入る、汚染を防ぐ訓練を行う事になる。

それを踏まえて、今の時期に手が空いている研究者を探し出すのだ。

審査の時間は無い。

応募済みの中から、見込みをつけて誘ってみる。

つまり、電話やメールで当たってみるのだ。

慣れない業務が始まった。

土壌、カルシウムに関しては素人の妄想ですので。

そういう結果は出ていません。

大規模な土壌農業の実験もしていませんが。

火星のカルシウムリッチについては、一昨年の学会発表にあったので、使いました。

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