注目浴びなくてもすべき事はしよう
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
「あっち、忙しそうだね」
「そうだね」
CADで円筒内のレイアウトをしながら、居住モジュールでは無いモジュール開発班が呟く。
2月にはアメリカで開発された天文・測地・太陽観測モジュール「ホルス」が打ち上げられる。
そして4月には輸送船中継モジュール「うみつばめ」が打ち上げられる予定だ。
「うみつばめ」は、今までの経験から共通結合機構(CBM)を使う「HTV-X」、ロシア式結合機構を使うプログレス、イプシロンロケットで打ち上げられる小型輸送機、全てのドッキングポートをまとめた。
異なる規格の輸送機に対するドッキング管制室が設けられ、複数の機体が来ても対応出来る。
また、輸送機からの荷物積み下ろし時の一時置き場にもなる。
最悪、自動ドッキング時に事故を起こしても、ここを切り捨てる事で全体への被害を防げる。
「うみつばめ」の中は管制卓以外は伽藍洞である。
ドッキングポートしか無い。
自動で半衝突気味にドッキングポートに突入して来るプログレス用の衝撃緩衝装置、「こうのす」から離れた位置で把持してから与圧室に運び込む機体制動用拘束鉤というドッキング装置が備わっている。
逆に、地上に成果物を送るカプセル射出機と、途上国の要望に応える小型衛星射出機、そこに与圧室からセット出来る装置が在るくらいである。
ドッキングさせる、射出する口が多数在るだけで、中で何かをする予定は無かった。
無かったのだ、この前までは。
「中で電子工作出来るようにしよう」
「作業者が宿泊出来るように簡易個室を設置しよう」
と、既に機体をメーカーに発注してから変わった。
軟式拡張与圧室が使えるようになったお陰で、荷物置き場には困らなくなった。
そこで、「小型衛星を射出するだけでなく、そこで作ったらどうだ?」という考えが出た。
日本では、宇宙塵になりにくく、大気圏再突入で燃えやすい木造人工衛星のアイデアが出ている。
木のフレームの中に入れられる機械を電子工作で作り、太陽電池か一次電池と結合した後、木箱に入れて接着剤で固める。
今までに比べて人工衛星製作のハードルが一気に下がる。
部品にして宇宙に持ち込み、軌道上で最終工程を迎えさせても良い。
……言うは易し。
既に機体はほぼ完成し、強度確認や電気の導通試験等をしている。
その中に後付けで色んなものを入れるのだ。
入り口のサイズ、使える電気容量は定まっているのだ。
そして重量配分も計算しなければならない。
そこで、担当職員があーでもない、こーでもない、とレイアウトを考えているのだ。
「電子基板を洗う溶剤とかどう始末する?」
「ハンダは使わないにしても、接着剤も結構臭うし、換気をどうにかしないと」
「出来た衛星のプログラミングや、その動作シミュレーションするコンピューターが欲しいが……」
「電気の容量が無いから、市販のPCでどうにかしよう」
「室内照明はこれ以上明るくはならないから、ピンで当てられる電灯欲しいね」
決まり切ったサイズ、決まり切った電源を使うのも中々難しいのだ。
与圧モジュールだけ開発されている訳ではない。
外部にカタパルトも設置される事になった。
これは「うみつばめ」とも関連する。
成果物を地上に送るには、大気圏再突入小型カプセルを使う。
これは「うみつばめ」から射出される。
このカプセルの他に、有翼型無人機も計画されているのだ。
以前実験機はコースを逸れて海上に墜落した。
だが、それで諦めた訳ではない。
機体そのものの実験も行う。
その為の射出機、カタパルトが設計されている。
カタパルトという以上、リニアモーターカー方式で対象を打ち出す。
この打ち出す対象は、有翼機だけでなく、NASAとJAXA本隊が計画している月軌道ステーションへの物資や、深宇宙探査に使う観測機(エンジンはイオンエンジンを使用する為、最終速度はともかく初速と加速は小さい)もである。
このカタパルトの制御は、「うみつばめ」の管制室から行う。
管制を如何にコンピュータ制御で行っても、射出機の精度が悪ければ意味が無い。
遠方の天体に向けて射出する時に、角度でいう秒、それもマイクロ秒単位でズレがあっても、軌道修正の為に余計な燃料を費やす事になる。
この電磁カタパルトの開発も行われている。
「電磁カタパルトが完成した時には、最初にこいつを発射して欲しい」
忙しい時こそ悪乗りと暴走を忘れないスタッフは、既に実験体を組み立てていた。
「赤いな」
「赤いですね」
「角がついてるね」
「隊長機ですからね」
「3倍か?」
「そうでなければ意味が無いのだよ」
「早く、射出したいですね」
「頑張るぞ!」
「うす!」
一方、有翼機部門も名誉挽回とばかりに、新型リフティングボディを開発している。
「多少、宇宙塵に傷つけられても折れない、亀裂が広がらないよう、機体本体の揚力を使う」
「小型機だとどうしても強度不足になる。
宇宙ステーション部門には悪いが、以前のより大型にする」
「で、カラーリングはやっぱり銀と赤なんですか……」
「譲れないね」
「名前もビートル?」
「譲れませんよ、そこは。
あれはよく計算されたリフティングボディだからね」
「でも、機首の形状をジェット機というか、スペースシャトル形状から、新幹線の最新型っぽい鼻長カモノハシに変えたじゃないですか」
「空気抵抗とかコンピュータが叩き出した形状だからね。
気流を乱さないようにするには、あの形最適なようだよ」
注目されていないだけで、あちこち動いているのだった。




