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仕様変更に伴う混乱

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

地上スタッフの内、新客室モジュール設計担当は、アメリカ側からの注文を入れて設計を変えた。

円筒のモジュール内を四角く使おうとして、制限がかかっていたのだ。

挿絵(By みてみん)

旧設計は、あくまでも実験用モジュールからの発展形である。

円筒形のモジュール内、与圧室は四角柱状である。

断面で見ると、外壁は円なのに内壁は正方形である。

この四辺に研究用やコンピュータのラックをはめ込む。

このラックにより、与圧室は更に狭くなる。

ISSにおいて日本実験棟の「きぼう」でステーション内遭難(上下左右前後に手足が付かず、反動をつけられないから移動出来なくなる状態)が起こるとされたのは、研究ラックを設置する前、ドッキング直後であった。

ラックを全面に設置した現状は、手足を伸ばせば必ず届く。

このラックを個室に置き換えたのが旧設計なのだ。

ラックよりも奥行きを作り、出入り口を弧にして開けやすくはしたが、良く言って日焼けカプセル、悪く言えば棺桶な形状であった。

また、窓はラックの隙間に僅かに開けられる程度である。

元々そういう目的ではないから、窓は洋上の船室より気を使われていない。


それに対し新設計は、より広く、無駄な隙間なく個室を作る。

中央部に必ず通路を設けるという制約を無くすれば、こういう設計も可能だ。

やっとカプセルホテルに進化した。

奥行きを広くしているから、圧迫感も無くなる。

そして通路。

外壁に面しているから、そこを全面窓にして、思いっきりスペースビュー、もしくはアースビューを楽しむ事が出来る。

旧設計は4部屋×2列で8部屋を想定しているが、新設計は3部屋×2列で6部屋にしかならない。

だが、お客様的な短期滞在の飛行士ミッションスペシャリストはそんなものだろう。

7人中の1人はいざという時の操縦用、もしくは交代用員の正規飛行士なので、お客様待遇ではなく、「こうのす」の通常の個室を使えば良いだけだ。


さて、アイデアは良いが問題はここからだ。

円を四角く使うのには、それなりの理由もある。

余白部分に電源ケーブル、酸素供給管、温度調整用の設備を通しておけるのだ。

こうする事で、モジュールの手前と奥とで空気や熱を循環させ、二酸化炭素溜まりのようなものを防ぐ。

軟式拡張与圧室にはこの機能が無い為、扇風機を回したりして空気を循環させているが、それでも基本物凄く寒い。

寒いから荷物等を置いていて、用事が無い限り人間は使わないし、使う場合も一人での使用は禁止である。

円を有効に使ったこの設計では、個室と個室の間とか、与圧室の窓で無い部分等を、空気・熱・電気用の通路として使う事になる。

円と四角の組み合わせに比べて余裕が無い。

上手く設計しないとならない。


次に窓に大きな問題が有る。

窓は宇宙ステーションの防御上の弱点なのだ。

宇宙塵(デブリ)微小天体(ダスト)が衝突しても、外壁は防げるが、窓はヒビが入る。

ヒビは放っておくと拡大し、空気漏れや、最悪割れて宇宙ステーション全体を危機に晒しかねない。

次に窓は熱の放出口になってしまう。

断熱材を充填した外壁に比べ、窓は熱を素通りさせる。

窓用の断熱素材を用意する必要がある。

さらに、窓は内部の人間に紫外線を直接当ててしまう。

「柱の」とか「仮面の」を抜きにして、紫外線は生物の遺伝子を傷つける強力なエネルギーである。

地球上に居てさえ、高地での紫外線は害になりやすい。

ましてオゾン層の遥か上の宇宙船では致命的だ。

基本的に、狭くて小さい宇宙船の窓から、太陽を直視はしない。

だが、壁一面窓ともなると、太陽の方を向いてしまえば防げない。

これをどうするか?

フィルターも良いが、薄いフィルターでは強力な紫外線を防ぎ切れないし、分厚くすると視界が悪くなる。

窓の強度を増す為に金網の入ったものにするが、これも目が細かいと視界の問題が出る。

窓の外には、防御用の蓋を付ける事になるが、どのような形状が良いか?

蓋の開け閉めにはコンピュータ制御が必要かどうか。

こういう問題を、素材は良いのがあるか、加工技術は有るのか、予算は?納期は?と調べていく。


そしてメーカーに発注する。

メーカーも困る。

今までは研究室の仕様で、それを拡大したり、前後を短縮させるかだけの変更で済んでいた。

これは大きな仕様変更である。

打ち上げは4月とは言え、実際はそんなに悠長に作っていられない。

実物大模型(モックアップ)を作る。

そして試験に出して各種チェック(空気漏れや強度不足という根本的なミスを洗い出す一次チェックと、実際に中で生活してみて問題点を洗い出す最終チェックまで)をクリアさせねばならない。

「納期がきつ過ぎる。

 工員に全力を出させるから、もっと購入費を上げろ」

「それは秋山さんに言って欲しい」

「見積書出して下さい」

「あと、1機だけの生産では足が出るから、何機か作って全部買って貰わないと採算が取れない。

 1機だけなら作らない」

「秋山さん、どうします?」

「見切り発車だが、5機でどうか?」

「もう少し欲しい」

「では6機」

「7機以上にして欲しい」

「………………分かった、8機発注する」

「良いのですか?

 試験機や展示機入れても、そんなに使う用事も無いでしょう?」

「総理に言ってセールスして貰います。

 アラブの金持ちとか、アメリカのセレブとか買うと思います」


こんな感じで宿泊モジュール開発は年明けから切羽詰まっていた。

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