もう特に予定のない1月
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
宇宙ステーション「こうのす」は日常業務に戻った。
あえてクリスマスにケーキとチキン、大晦日に年越しそば、元旦にモチと御節、正月七日に七草がゆと鏡開きという行事を詰め込まなければ、常に同じ温度、雪も降らない寒くもない90分置きに朝と夜を繰り返すので季節感は全く無い。
だからこそ地上スタッフはイベント食をスケジュールに入れたり、金曜にはカレーを作って欲しいと石田さんに頼んだりしている。
グルメガイドで星を貰える料理人ではないが、どんな料理でも作れる、材料が足りないなりに応用で何とかする石田さんは、こういう任務に打ってつけだった。
ミッションスペシャリストの研究は全く問題が出ていない。
農業モジュールの方は、予想通り連作障害の兆候が出ている。
土壌を扱っている、もう3世代目の収穫が終わり、4世代目に入っている為、予測出来たことだ。
この状態での栄養価の変化や土壌細菌の状態が、重力下と無重力でどう違うかが研究課題である。
その一方で、予測された以上対策も出来ている。
輪作をしている土壌との比較、それも重力下と無重力での比較も行う。
地上の研究していた大学とデータをやり取りして、中々忙しそうにしている。
この点、第一次長期隊は立ち上げと、実際に収穫出来るようにするのが任務だった為、研究よりは農作業の方が主だった。
二次隊の松本飛行士は、作物の世話よりも、土壌・根・葉のサンプルを擂り潰し、試薬を使って検査したり、そのサンプルを遠心分離機にかけたりと研究者らしい事をしている。
(遠心分離機はこういう使い方が正しい。
決してコーヒーを淹れたり、炒飯を作る為に使用する為に使うものではない)
水耕モジュールの方は、順調に食糧生産をしている。
宇宙ならでは実験というと、紫外線及びそのフィルターの確認である。
水耕自体は、地下でも工場の室内でも可能だ。
成長に必要な太陽光の代わりに電灯を使えば良い。
しかし、宇宙には別に電灯を使わずとも、そこに太陽光はある。
ただし強力過ぎる。
地上に届くまでに紫外線はオゾン層で相当に吸収され、届くのは一部だけだ。
「こうのす」はオゾン層の遥か上に在る。
強過ぎる紫外線は植物を枯らしてしまう。
そこで紫外線をカットするフィルターを使って栽培してみる。
これと栄養素不足を比較する。
無重力ゆえ、茎は細くても成長する。
葉野菜用、茎野菜用で配合した栄養と光合成に必要な紫外線量が変わると見て、実験をしている。
物理、化学モジュールは様々な実験にフル稼働している。
これは、本格的な研究はISSで行っている為である。
自分の研究もするが、宇宙に来なくても「無重力で作られた材料があれば地上で実験出来る」研究者はミッションスペシャリストの選考から外した為、彼等の分の材料製作も仕事の内である。
そろそろ成果物を地球に送るカプセルが不足して来た為、補充が必要になって来た。
宇宙ステーションの運用専任の正規飛行士2人も、研究に全く関わらない訳ではない。
彼等は研究をせずとも、宇宙塵防護網外部に設置した望遠鏡を特定の天体に向ける。
その際、特殊なフィルターが必要だったりすると、船外活動で設置したり、取り外したりする。
大小望遠鏡の観測希望は多く、フィルター換装はそれ程は無いが、単純な方位設定は頻繁である。
例えば、地球では昼になっている時間帯に観測したいというものである。
宇宙ステーションも動いている為、自動追尾の必要もある。
そうして撮られたデータが地上送信されているかの確認も行う。
ある意味、忙しいが作業としては単純なものが多い。
メリハリ付けたいと地上スタッフが考えたのは、これが理由でもある。
こういうのは南極観測隊も似ている。
南極観測隊と同じようなのは他にもある。
南極観測隊はオーロラの綺麗さによって心を和ませる事がある。
無論、観測もする。
同様に宇宙ステーションからもオーロラを見る事が出来る。
見える方向は下(地球側)であるが。
無論、宇宙ステーションそのものの計器を使って観測もする。
オーロラの他、雷や台風も見る事が出来るが、1月の北半球はその辺は少ない。
流星群もまた宇宙ステーションから見下ろして観測出来る。
ただし、流星群の極大期は船外活動は禁止である。
宇宙側の窓も閉じられる。
流星群の元は1ミリ程度の彗星の欠片で、防御力が高い宇宙ステーション本体は問題無い。
ただし、宇宙塵防御網はそのサイズであれば通してしまうし、船外活動服や窓は傷つく可能性がある。
気象ショー、天体ショー以外の娯楽では、最近は三次元羽根つきならぬ、三次元ジュ・ド・ポームが流行りつつあった。
先日の子供たちへの放送で対戦したものだが、ソフトテニスのボール(よくある気圧や真空の状態を見せる実験放送用に持って来ている)を使って「相手の後ろのゴールに叩き込んだら得点」なゲームとしてルールを考えたりしながら、筋力トレーニングの後にプレイされたりする。
冬場、流星群は多いが、それがない時期の簡易宇宙遊泳もまた気晴らしに良い。
そして単調な生活に刺激を与えるのは食事。
バラエティー豊かな石田船務長の料理は、今日も搭乗員を元気にしている。
こうして正月以降の1月は過ぎていった。




