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衣食住の内の「食」

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2021年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

既に動き始めているとはいえ、短期滞在が実現するのはフェーズ3からで、4月以降となる。

この時、宇宙ステーション専属料理人はイタリア人シェフに代わる。

彼は良いタイミングで再来日し、4月に向けて訓練に入る。

その前に秋山は彼に会い、現状を説明した。


元々フェーズ3からは短期滞在で人数が増える期間があるとは説明していた。

日本人ばかりでなく他国の人間、しかもイスラム圏が増えそうだというのが新情報である。

その点を説明すると

「特に問題ありません」

と言って来た。

彼はアメリカのレストランで働いた経験もあり、人種や宗教の問題は分かっていると言う。

「ハラル食材さえ打ち上げて貰えれば、彼等に合った料理は作れますよ」

他にもレンズ豆とかヒヨコ豆も欲しいと言う。

(それ、宇宙で栽培出来ないかな?)

と秋山は考えたが、意見は後で専門家を交えて聞いてみるとしよう。


イタリアンシェフの了解を得た後、秋山は補給担当の部下や、遠心分離機を使った調理器具開発部門の者を伴い都内のトルコ料理店に向かう。

トルコ、エジプト、チュニジアという中東、北アフリカ系の他、パキスタン、バングラデシュの南アジア系、インドネシア等の東南アジア系でイスラム食といっても違いはある。

その中で、それなりに店舗数があり、特徴的な料理を出すトルコレストランに行ってみたのだ。

(店舗数が少ない国の料理は、しばらく休業していたりする為、一番探しやすいというのも理由)


「米料理ありますねえ」

「これ、豆をつぶしたものですか」

「これ、餃子? 何て言うんですか? マントゥ。

 ヨーグルト味なのが我々とは大きく違うところですね」

 ドネルケバブ、ドンドルマ(トルコアイス)という有名どころ以外で驚きが結構有ったようだ。

「コーヒーは、全然淹れ方が違いますねえ」


細部に拘る日本人の好奇心がここで発動した。

普通のコーヒー、トルコではネスカフェ(ネスレ社のインスタントコーヒーに因む)と呼ばれる、これの淹れ方は豆を挽いて、フィルターの上に乗せ、お湯を注ぐものである。

それをカップに注いでから、ミルクや砂糖を好みで追加する。

一方のトルココーヒーは、デミタスカップサイズの小さい鍋に、挽いた豆と砂糖を最初から一緒にして入れ、水を注いで水から煮出す。

そして粉が沈むのを待って飲む。


「水から煮るのは簡単です。

 レンジなりマイクロ波調理器を使えば良いので。

 問題はコーヒーの粉の沈殿ですね。

 無重力では沈みませんから」

「そこは、やはり遠心分離機だろ」

「料理中に遠心分離機にかけるのは想定してましたが、料理後のものは想定してませんでした。

 サイズが全部調理器具用ですからね。

 この小型の鍋はどうやって固定しましょう。

 アタッチメント開発しましょうか」

「いや、やはり加熱中から遠心分離機で重力かけた方が良い。

 沸騰して泡が上がって来て、それを取り除く作業があるって言ってた。

 無重力で沸騰させると、泡はどうなる?」

「その工程、やはり機械化しないと。

 あの遠心分離機の中に手を突っ込んで、泡を掬うとか無理ですよ。

 例えて言うなら、刃の付いた扇風機の向こう側にあるリンゴをつかみ取る修行みたいなものです」

「……それ、やれたボクサー居なかったか?」

「少年ジャ〇プの中なら2人程知ってますが」

「話が変な方にズレて来たぞ!

 イスラム料理に戻しまでょう!」

秋山が注意しなければ、そういう特訓で「高速回転する水煮出し鍋の上澄みを掬えるようにする」の話題が続いたであろう。


「ドネルケバブはどうします?

 あれも難しいのでは?」

それについては簡単だった。

「初代のベルティエ料理長の報告で、無重力だから肉汁が垂れない焼き方は簡単だそうだ。

 逆に回転させると、遠心力で肉汁が外に飛び出す事になる」

「え? あれは肉汁を落としてるんじゃないですか?」

「違う違う。

 肉汁捨てたら勿体ないでしょ。

 炙っているとどうしても出るから、それを落としてはいるけど、それだと肉がパサパサになるから、肉と肉の間に脂身挟んで焼いてたりするらしいよ」

「切り分ける時の方が怖いかな?

 滴る事なく、肉に閉じ込められた熱い肉汁が、外側の肉を削いだ時に発射されないか……」

「その辺、やはり神業のディフェンスをマスターして……」

「待て! 次行くのはイタリアンのシェフ!

 ドネルケバブを作るわけではないです!」

「と言っても秋山さん。

 ケバブが無いとイスラム圏の人は納得しないのでは?」

「イスラム圏といっても色々あるのだが、ケバブについても指摘があります。

 ドネルケバブだけがケバブじゃありません!

 中東の肉の炙り焼き料理は悉くケバブと言うのです」

「な、なんとぉー!」

ぶつ切り肉を串焼きにしたシシカバブ、挽肉を串焼きにしたアダナケバブというものもある。

魚を焼くものもある。

肉を重ね合わせて塊として焼くドネルケバブが全てではない。


「あとはトルコアイスを作れたら完璧ですね」

「だから、今は特徴的なトルコ料理食べてるだけで、実際は東南アジアの人も多いので」

「でも、トルコアイスで〆でしょ、やっぱり」

「それなんですが、私の判断でトルコアイスは製造禁止とします」

「何故ですか!」

遠心分離機を使ったアイスクリーム製造機の腕の見せ所であろう。

「あの粘り気のあるアイスは、気温が高い場所で、融けて垂れるのを防ぐ為です。

 無重力だと、融けても垂れません」

「いや、でも……」

「それにトルコアイスは粘り気が強く、喉に詰まるのを防ぐ為、水も一緒に飲むのが必須です。

 宇宙じゃ水は貴重なんです」

これで諦めがついたようだ。


秋山にはもう一つ理由があった。

(これにしか使わない、粘り気の原料サレップを補給するのも無駄だと思う)

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