外国人推薦枠とかそんなの確保して無いからな
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
久々に総理に呼び出され、目が死んだ顔で戻って来た秋山を見て、部下たちは
(ああ、なんかこの感じ懐かしいなぁ)
と思った。
最近はどちらかと言うと、宇宙飛行士に無茶ブリをしていたから、彼があんな目になる事も無かった。
事故も起きていないし。
久々に彼自身の仕事も増えたのだろう。
……つまり、彼の部下たちの仕事も増えるという事だが。
「ミッションスペシャリストの短期滞在あるよね」
「ありますね」
「そろそろ始めろとさ」
「まあ、妥当な話ですね。
4月のフェーズ3から逆算したら、1月には選抜終わって訓練開始。
総理にしたらまともじゃ無いですか?」
「……選抜リストの一部がここにある」
「は?
えー、いつ選抜のワークグループ立ち上がりましたっけ?」
「つーか、一週間くらいなら休学しなくて良いから、応募多いんですよね。
ワークグループ立ち上げたら、履歴書放り投げて表が出た人を一次審査合格にしようとか、
そういう冗談言ってましたけど」
「総理がね、勝手に外国に応募要項送ってしまいました」
「外国ってどこですか?」
「東南アジア諸国に中東諸国……ああ、アフリカ諸国も居ますねえ」
「で、研究内容は……どこに有るんですか?
別送で後から来るんですか?」
「研究とか、無い」
「って事は、観光客ですか?」
「そんなものだ」
「そんなもの?
具体的には?」
「何らかの実験とかはして、科学の成果として宇宙に来た
……という体で国威発揚が本当のとこみたい」
「それ、ただの観光客の方がマシですね」
「あと、この人、あっちの国のテレビクルーのようだ」
「まあ、日本も最初の宇宙飛行士は民放の局員でしたしね」
「あれは国の方が滅茶苦茶悔しがったんだよね。
もっと前からNASAに正規の宇宙飛行士送っていたのに」
「チャレンジャーの爆発事故で遅れに遅れたんだしたか」
「まあ、そういう事が有ったから、分からなくもない」
「で、この人数を全員、って事は無いですよね」
「ここから選抜するが、一国につき一人も選ばない事が外交上どのような不利益を産むか想像してからにして下さい、という伝言付きだ」
「……事実上、一国につき一人は選べという命令ですね」
「完全に不適合だったらどうするんですか?」
「そうならないよう、最初の審査は向こうで済ませたそうだ」
完全に不適合というのは
・高所恐怖症
・閉所恐怖症
・暗所恐怖症
・乗り物酔いが酷い
・最近3ヶ月以内に伝染病に罹患した
・重度の外科手術を受けている
・最低限の学力も無い
・集団行動が全く出来ない
・暴力沙汰を起こす
といった体質、病歴、精神状態等を見て。訓練や非常時の避難に耐えられない者である。
流石にそういうのはクリアしている。
加えて英語は最低限話せる。
「で、この人たちの予定は?」
「年明けには来日し、二週間の隔離後に訓練開始」
「年明けって、今日何日だと思ってんスか。
こないだクリスマスは終わったんですよ!」
「だから、こうして緊急会議開いた」
「……納得しました」
外交問題だのと脅されはしたが、今回で終わりではない。
アメリカから打ち上げられる事もある。
更にアメリカ民間宇宙企業の宇宙船チャーターも有り得るので、最低限の招待人数に絞る事にする。
無論、訓練の過程でやはり「適正無し」として脱落させる事もあるが、招待した者は第3フェーズの内に少なくとも1人は「こうのす」に乗船させねばならない。
彼等を選考するという事は、同時に日本人応募者の選考も始める事になる。
如何に短期滞在はおまけ的扱いでも、毎週毎週外国人ばかり宇宙ステーションに運び、日本人応募者が後回しとなると、疑問を感じる納税者も出て来るだろう。
「そういう極端な事をして、政府への当てつけも止めて下さいね」
と総理に釘を刺されてもいた。
ワークグループは「総理枠の外国人の第一陣選考と、アメリカに回す人の選考」「日本人応募者の選考」「外国人も加えた形での短期滞在チームの訓練プログラム作成」「日程の調整」と4つが立ち上がった。
「働き方改革の一環で、役所の仕事納めまでには纏めろ、という事でしたが……」
「無・理・で・す!!!!」
「そうだよなぁ……。
その日程については年明けに回せないか、掛け合って来る。
皆の一致した見解が得られて、交渉しやすくなった」
ただし、スケジュールを後に回す程、後の日程は詰まってしまい、結局デスマーチが奏でられる。
年末年始も動くチームと、そのチームの代休で日程的な渋滞は回避しよう。
「アフリカのこの国、宗教何?」
「キリスト教と、ほとんどはイスラム教」
「この国もイスラム教ですよね」
「いや、イスラム教国ばっかりじゃないですか。
総理はどういう外交したんですか?」
総理に代わって部下たちの疑問に秋山が答える。
「満遍なく応募要項出しましたよ。
キリスト教国は『クリスマス終わってから本格的に審査する』との事でした」
「……納得」
「て事は、キリスト教国からのリストは、この後に来る、と?」
「……一体いつから、これが最終リストだと錯覚していた??」
秋山の無慈悲な回答に、一同声を出さずにパニくる。
さらにパニくりそうな疑問が出る。
「この人、ほら、この名前、中東の王族じゃないですか?」
「待って、検索するわ。
うわ、第二王子で石油企業の重役兼任だと……」
「マジか……」
秋山がそこはフォローする。
「うん、私も引っ掛かって聞いてみた。
その人、アラブの石油王の友達の友達の友達。
名前はたまたま一致しただけ」
「友達の友達の友達……全くの民間人なんですね!」
ただし、石油王は王族だし、その友達も王族や上流階級ばかりで、候補者もコネのコネのコネを使ってリスト入りした人物だから、全くの民間人とも言い切れないのだが、秋山は黙っておく事にした。
(余計な情報は与えんとこう)




