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ちょこっと作業(北川船長目線)

この物語は、もしも

「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」

というシチュエーションでのシミュレーション小説です。

2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、

個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、

あくまでも架空の物語として読んで下さい。

山崎飛行士の作業補助で、北川船長が船外活動を行った時の話である。

ミッションスペシャリストには「いざとなったら何でもやれ」と訓練を施しはするが、基本的には分業とする。

宇宙ステーションを管理するのはプロが船外活動をし、研究職は補助をしてくれたら良い。


まず船外活動の前に、30分で一回転のバーベキュー航法を止める。

この航法は、舟を回転させる事で「満遍なく焼く」、つまり太陽が当たり続ける部分が常に高温、影の部分は低温とならないよう、満遍なく日当たりさせるものである。

宇宙ステーション「こうのす」は、半径10メートルで防御ネットを船の半分に張っている。

宇宙塵デブリの衝突を避ける、逆にネット内で宇宙遊泳を楽しむ分には安全となる、遠心力の関係でネット外縁部分では人工微小重力実験が出来る、ネット部分を機器設置の簡易プラットフォームと出来る、と良い事づくめだが、欠点もある。

金網な為、その内部は外部からの電波を捉え難く、アンテナはその外部に置かなければならない、金網が視界的に気になる、電磁波系の計測では干渉が問題となる。

今回の天体望遠鏡アレイは、防御ネットの外側に設置する。

光学系であるから。

その為、バーベキュー航法の回転をしていると、微小ではあるが遠心力が働き、防御ネット外では放り出される可能性が出て来る。

命綱に、戻る為の推進パックも用意してあるが、作業時は設置部分が動かない方が良いだろう。

バーベキュー航法を一旦止める理由である。


場所は、太陽電池パネル、変電機、通信アンテナ、多目的カメラ等を設置している、トラスタワーである。

このタワーは、防御ネットを張る上での支柱にもなっている。

タワー内には幾つもケーブルが伝っている。

まずは接続ケーブルを同じように、タワー内に入れて伝わせる。

タワー基部、宇宙ステーション同体にはコネクターが有り、今回のように外部増設分の余裕を持たせていた。

その予備コネクターに接続し、与圧室内の山崎飛行士に接続表示が出たかを聞く。

接続(接触)は確認された。


一旦与圧室内に戻る。

翌日の作業リハーサルを行い、自分の分と山崎飛行士分の予備の船外活動服を用意する。

鈴木飛行士が当日は船長席に座り、ベルティエ料理長は休養時間だが、非常時には出て貰う事を確認する。

通常であれば、船外活動員1人、室内でのバックアップ要員1人で足りるが、場合によっては船外活動する者が2人になるから、船長席以外にもう1人必要になるからだ。

次に、船長席に座る鈴木飛行士への確認。

停止している宇宙ステーションの「回転開始」ボタンを押してはならない!

回り続けている時(慣性状態)よりも、回転し始め(加速段階)の方が危険なのだ。

次に、レーダーの確認を厳にする事。

微小な宇宙塵デブリなら防ぐ防御ネットや衝撃吸収型素材を貼った本体と違い、船外活動員にはどんなに小さかろうが、相対速度高速でぶつかれば命取りだ。

警告音ビープ設定をシビアにし、衝突コースに無くてもモニタするようにする。

普段は問題無ければ、位置の画面表示だけで、警告音は鳴らさない。

鳴りまくると迷惑だからだ。


余談だが、この鳴りまくる警告音は逆効果になる事が判っている。

航空機事故の中には、劣化してちょっとした事で警告音を鳴らすようになった装置を、うるさいからスイッチを切ってしまい、肝心な警告を受け取れなかった事例もあるのだ。

また、鳴りまくる警告音はパイロットをパニックにしてしまい、冷静なら対応可能な数秒を失わせる事になる。

訓練機のジェミニ改等は、わざとこの多数の警告音なり警告灯を出して、飛行士をパニック状態にならないようにする訓練を行わせる仕様となっている。

航空機パイロット以上に極限状況での訓練をし、パニックにならず、例え月への移動中に酸素が全て失われ電池もごく僅かになろうと、生きて帰る事を諦めないのが宇宙飛行士だ。

(なお、日本人は死を前提とした最後の大暴れ、死兵化は得意だが、その分諦めが早く、最早これまでと覚悟完了してしまう癖がある為、地上訓練で徹底的に矯正している。

自衛隊のレンジャー訓練でもそうだが、もう駄目ですという諦めは、本人だけでなくチームを危険に晒す事を叩き込む)

さて、正規の飛行士ならそうだが、今はミッションスペシャリストが3人、正規飛行士1人の編成なので、交代で船長席に座るミッションスペシャリストをパニックにしないインターフェイスが研究された。

ではあるが、船外活動中は短時間でもあるので、監視システムの警告設定は一番うるさいものにした。

鈴木飛行士はこの間、注意を切らさないようにする。


そして予定時刻、船長は荷物と共に船外に出る。

防御ネット外縁まで辿り着いたら、ネット外への出入り口を開けて外に出る。

宇宙ステーション本体から伸びる命綱の他、ハーネスをタワーに繋げて体が大きく流れないようにする。

そして望遠鏡を設置、レンチで固定。

このボルトナットを閉める動作で、タワーに繋げたハーネスが意味を持つ。

無重力では、回転運動は制御が難しいものの一つなのだ。

ネジを締めるのと反対に、身体が回転する。

それを防ぐには身体を固定させる必要がある。


設置が終わると、与圧室と交信し、接続と通電を確認。

ここから微調整。

これが上手くいかなければ、今は与圧室内でサポートをしている山崎飛行士も宇宙服を着て、確認用のPC端末を持って出て来る事になる。

結果から言うと、一人で事足りた。

設置作業中に掴んでしまい、共通焦点への軸がズレた望遠鏡が有ったが、船内からのアラインメントでどうにかなった。


北川船長は船外を終え、与圧室に戻る。

バーベキュー航法が停止している今、やる事は他にも有った。

船外に小型衛星を放出する作業。

この船外放出装置は防御ネットの外側に在るが、放出時に余計な回転運動を加えないよう自転は止める必要があった。

JAXAと協力関係にある西アジアとアフリカの大学が開発した3機。

(宇宙戦闘機のミサイルランチャー開発に繋がると文句言って来たとこもあったが、支援を潰すとガチに「差別」と言われる国や、オイルマネーで黙らせてくれた)

軌道の都合と、地上側受け入れのミスで遅れが有り、実験モジュール到着時からは大分遅くなったが、今日折角だから放出をする。

衛星に電源が入り、放出装置は与圧室から外に自動で出る。

この時点で地上と通信が出来るようになり、各国から接続しましたというコールが入る。

時刻が来ると、自動的に姿勢制御ロケットが噴射し、射出される。

音声通信で拍手や口笛が聞こえてくる。

最後の大学の衛星が射出された頃、最初に射出した衛星が所定の位置に到着し、姿勢制御ロケットが切り離されたという電機信号が届いた。


ミッションオールクリアとなり、船長は皆にお疲れ様を告げる。

「シェフ、今日は少しお祝い風を頼みます」

仰せのままに(コム・テュ・ディ)


モジュール増設とかセットアップ、軌道大幅修正や予定に無かったミッションのような難しいものでは無い。

想定内の作業ではあったが、初の4人での船外活動を含むミッションは終わった。

ちょっとした作業ではあるが、嬉しいものだ。

バーベキュー航法を再開した「こうのす」船内で、ちょっとした祝いをしよう。

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