軌道上投下試験
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
日本の有人宇宙船「ジェミニ改」は日本から打ち上げられない時期は他国から打ち上げられる。
ロケットとの結合部分が各国の同規模ロケット分だけ用意されている為、日本のH2Aが使えない時期はアメリカのデルタで打ち上げられる。
また、日本の小型宇宙ステーション「こうのとり改」は、管制やノウハウ提供の関係で、アメリカにも30%の使用権がある。
アメリカもISS以外で使える宇宙船と宇宙ステーションが有ると都合が良い。
日本が関わっていない時期のアメリカの使用については秘密となっていて、ISSより低い軌道を回る為、地上監視、軍事利用が噂される。
ただし、それを記事にしているのは陰謀論好きなコンビニ雑誌くらいなもので、ほとんどはどんな使用をされているか興味を持たれていない。
シャボン玉を割ったり、ボールを投げたりというのは、テレビニュースにはなっても、その裏で本当はどんな実験をしているか等に関心は持たれない。
だが次のミッションは、おかしな事から注目を集めてしまった。
次期宇宙ステーションは、成果物を地球に投下して即研究機関に運ばせる。
日本独自の宇宙設備の良さは、半年に一回くらいのペースで、アメリカかロシアに着陸させて、検査を経てから日本に持ち帰るという手間を短絡化させられるところにある。
例えばある物質を24時間真空中に曝露したもの、48時間のもの、72時間のものと分けて、それぞれのタイミングで地球に持ち帰りたい時、イプシロンSでの小型輸送機でも間に合わない。
そこで搭載しているカプセルに積んで、一定の位置に来たら投下する。
こうした運用をするのだが、ぶっつけ本番はいけない。
次のミッション、日本人とアメリカ人のコンビで打ち上げられるが、中間モジュール「のすり」は投下テスト用仕様となっている。
これで、日本上空の天気と合わせ、どこの地域に落とすかを軌道上で決めて、地上スタッフは指定された場所で回収する、連携も含めたそういう訓練を行う予定であった。
それに難癖がつけられた。
「宇宙爆撃機の投下訓練に違いない」
と。
「アホらしい。
どこの言いがかりですか、ってあそこですよね」
「まあ、あの国がアメリカと、ついでに日本を非難するのは毎度の事だけど、今回はおまけがついた」
「はああ……隣国ですか」
なんか隣国がそんな事を言い始めたせいか、ワイドショーが取り扱い始めた。
宇宙から質量がある物体を落下させれば、それだけで火薬も核爆弾も要らない。
質量兵器はそれだけで威力が有る。
そう、コロニー落としだの遊星爆弾だののアニメーションに、おどろおどろしいBGMで話し始める。
そして「え?この人誰?」とJAXA内で誰も知らない「関係者」や「事情通」や「専門家」が、何を言ってるのだろう?という珍説を捏ねる。
更にはニュースキャスターが
「疫病が未だに猛威を奮っているのに、このような事に税金を使う事に、議論が巻き起こっています」
としたり顔で〆る。
「議論が起こる程関心持たれていればねえ……」
職員が残念過ぎるツッコミを入れる。
そう、アニメや映画の一場面切り抜いて使ってる時点で説得力ゼロだし、時間帯別視聴率もスポーツ速報に全ニュースが負けていたし、話題にならない。
「だが、こんな誰も見向きもしないニュースをしたのは何らかの意味が有るのでは?」
誰かが曰く有り気に呟いたが、秋山は「無い無い」と笑う。
それは「無しであってくれ」「余計な事を言って、禍いを呼び込まないでくれ」という心の発露だった事を、秋山は後から気づいた。
秋山は久々に財相から呼び出される。
お高い赤坂に夜から出勤だ。
総理と違って無理難題の類じゃないから気は楽だが、この人は際どい話が多い。
今回も、秋山が何かしなければならない話では無かったが、事情は呆れるようなものだった。
「あの下らん遊星爆弾のニュースな、裏が有ったんだよ」
「はあ……」
「言い出しっぺは毎度の事だから無視して良いんだが、隣国の方さ。
あれは、要は『自分たちも混ぜてくれ』って要求なんだよ」
「はあ……」
「素直に頭を下げられないから、イチャモン付けて、それを止めて欲しければこっちの言う事聞けってな。
ヤクザの方がやり方がスマートだな」
「ははあ……」
「連中、宇宙関係で機密漏洩やらかして、近々アメリカからお叱りが入る。
その前に日本を攻撃したって寸法だ」
「迷惑な話ですね」
「そのイチャモンを使って飯食ってる日本人が居るから、そっちの方が迷惑ってもんだ」
「ですね」
「でさ、君のとこの遊星爆弾……」
「回収カプセルです!
そんな物騒な物積んでません」
「そいつはどれくらい狙った場所に落とせるんだ?」
「大体数キロ四方の中に落下します。
パラシュート使うから、流されますしね。
発信器が付いてますから、それで十分です。
精度以上に安全に落とすのが重要ですから」
「一個くらい、あの放送局とか新聞社に命中させられないか?」
「無理です!」
「精密誘導とか出来ない?」
「爆撃機じゃないんですから」
「ポテンシャル的にはやれるって事にしとかない?」
「直径30cmのカプセルに何を求めているんですか?」
「いやなあ、総理のとこまで『宇宙関連での情報漏洩についてアメリカに取りなしてくれ、ついでに宇宙飛行に入れてくれ、ついでに彼等の実験モジュール付けさせてくれ、ついでにその開発費用くれ、ついでにその開発の功績は全部くれ』、って話が来てたんだよ」
「一個一個厚かましいのですが、それより『ついでに』が何個くっ付いてるんですか?」
「そうだよな。
総理も呆れてたよ。
聞いてやる必要無いって。
そうしたら、何故か今度は俺のとこに話が来てなあ」
「ご苦労様です」
「でな、『グダグダ言うなら、お前らが言ってるのをそのまま実行してやろうか?』って返しといた」
「冗談ですよね?」
「冗談じゃねーなー。
でな、本当に無理か? 遊星爆弾」
「無理です!」
「やってやれねえ事ぁ無えだろ?」
「そんな効率悪い事しなくても、黙ってればアメリカから制裁食らうんじゃ無いですか?」
「まあそれはそれとして、何か一個ドスの効いた脅しが欲しいじゃ無えかよ。
例えばさ、宇宙ステーションの横にモジュールが幾つかくっ付いてるよな」
「はい」
「あれの一個をレーザー発振器にして地上を狙い撃ちにするとかさ」
「電力が足りません!」
「未知の捕食生物入れたカプセルを投下してやるとか」
「まず宇宙ステーションに居る日本人が犠牲になります!」
「特殊装甲を地上に転送して瞬時に装着させるとか」
「何時から警察庁に宇宙刑事が配属になったんですか?」
「そう言うの、何か無いか?」
「宇宙を軍事利用しないとか言うの、どこ行ったんですか?」
「ミサイル防衛通した時に犬に食わせた。
だから、君らは宇宙戦艦作ろうが、機動兵器作ってオペレーション何とかって言って地上投下しようが、一向に構わんぞ!」
時計を見ていた秘書が話を切る。
「あー、先生そろそろお時間です。
先生は今日は気分良く酔ってらっしゃる。
この事は他言無用でお願いする」
「俺ぁ酔ってねえぞ、気分は良いけどなぁ」
「分かってます」
「あと、先生が言った事を実現させないように」
「技術的に無理です!!!!」
別な意味で無茶苦茶な夜の出勤はこうして過ぎていった。
基本ジョーク回です。




