忙しいのに接待とか
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
「おお、秋山先生、こちらですよ」
太平洋に面した某県の、代議士、県知事、そして知らない貫禄のあるオッサンが数名いる料亭の部屋に、秋山と上長は招き入れられた。
まあ、大体の流れは分かる。
収賄事件にはしないよう、身辺気を付けないと。
「いやいや、よく我が県を発射場、宇宙センターに選択してくれました。
ここのところ、若者が本州の方に行ってしまい、パッとするもので若者の流出を食い止めたかったのですよ」
知事がテラテラした額を光らせながら、酒を注いで来る。
便宜を図った見返りではあるが、まあ安いし、礼儀的にもこれくらいなら問題視されない。
食事が運ばれて来る。
仲井さんに
「呼ぶまで来ないでくれ」
と代議士が頼んでいた。
秘密が守れるから、料亭を使うのだろう。
疚しい事は無い。
だが、なんか土建業者や資材の卸売といった、所謂その県での親分的企業の会長とか取締役とかを紹介されると、緊張してしまう。
秋山が直接仕事を発注する訳ではなく、その権限が有る訳でもなく、仕事の入札応札は不正無く行われる。
事前にどれくらいの規模の金が動くかや、それが何時までのものか、人はどれだけ確保しておけば良いかという情報を、密かに漏らしたりもしていない。
堂々と発表している、ただし聞かれないと答えないタイプのものだが。
だから、技術の取りまとめの秋山たちには、地理的や条件でそこを候補とした、そこにはどれだけの施設が必要かを考えた、以上の事はしてないのに、わざわざ「会って、一度お話を」と言われる。
アメリカ行ったきりの小野程ではないが、技術職には少なからず世俗嫌いな部分がある。
企業と話す時、自分の研究分野を相手も好きなら意気投合するが、金が動くから来ましたってタイプは好きか嫌いかで言うと、少し「嫌い」に天秤が傾く。
この辺が日本の研究職のダメな部分と評される。
アメリカだと、研究職も同時に営業職で、自分が考えた学問や技術が、如何に社会の役に立つか、相手の会社の役に立つかを説明し、儲けが出るとプレゼンテーションして、出資させる。
その金で起業し、人と金を上手く使ってのし上がっていく。
所謂アメリカンドリームだ。
日本の場合、アメリカンドリームは知っているが、技術職によくあるのが「会社作るとかより、好きな研究やっていたい」であって、それを安く売って来たり、スケジュールきつく入れてしまう営業と喧嘩になる。
秋山たちは民間企業でないから、更に浮世離れした部分がある。
国が予算つけてくれるし、金は気にせずに必要とされる研究、開発を出来る。
だが、上になる程
「お金の事を知らないとダメだよ。
人を扱えないとダメだよ。
結局は人と人で話出来ないとダメだよ」
なんて言われる。
秋山は「有人宇宙飛行、出来たらイイネ」てな部門だった為、出世する気なんてほとんど無かった。
ヒラでもそこそこ給料良いし、いつまでも現場系で好きな研究していたかった。
それがいつの間にか責任者に上がっていて、部門をいくつも管理しなければならなくなり、総理とか政治家先生とかと顔を合わせ、ついにはゼネコン関係者と食事したりする事になった。
「そういうガラじゃないです。
誰でもいいから、向いてる人にやらせて下さい」
と時々泣きついているが、
「それ以外の、実際に宇宙ステーション作ったり、宇宙飛行士訓練したりっての好きなんだろ」
と言われると、そっちは大好きである。
「ある程度年齢いった人間が、好きな事だけやっていられると思わない事。
年食ったら、技術は若い奴に及ばなくなるんだから、管理職にならないとね。
あと、金が動くのを毛嫌いしないこと」
と色んな人から説教される。
「私はただ有人宇宙飛行関連だけやっていたいんだ!
土建屋さんとかとの食事とか、他の人やってよ!!」
……以上は秋山の心の中の愚痴である。
こうまで愚痴が連なっているのは、この食事会が死ぬほど退屈だったからだ。
(嗚呼〜、技術の話がしたい、急な計画変更食らって、どれだけ迷惑したのか、分かる相手と愚痴零し合いたいよ!!)
現実に意識を戻すと
「先生はゴルフ初心者なので、ハンデいっぱい付けますから、ホールを回りましょうよ。
どんな芸能人お好きですか?
一緒にホール回るよう手配しますよ〜」
「よろしいですねえ、私もご一緒したい」
「おやおや、先生はお堅いですなあ。
奥様一筋ですか、こいつは参った。
この後、女の子の居るお店に招待したいのですが。
何時でしたら都合はよろしいか?」
てな話が聞こえてくる。
つまんね〜〜〜〜!!
大マゼラン銀河まで行ってくるには技術的にどんなブレイクスルーが必要か?みたいな話をしてえよぉぉぉぉ。
心の中でそう叫ぶか、現実逃避してさっきみたいに(そもそも私はこんな事がやりたくて……、でも上の立場になると……、いやそもそも日本の技術職は……)と不毛な愚痴の無限ループに入るかして、時間が経つのを我慢していた。
興味無い人と、趣味の全く合わない会話をしながら過ごす数時間は、ある芸能人が定義した「逆ウラシマ現象」が発生する。
もう一時間くらい過ぎただろうと思っても、実際はまだ15分しか経っていないとか、時間が一向に進まない。
(なんで自分は此処に居るんだろう。
なんで自分なんかを指名して来たんだろう。
なんで自分はゴルフとか車とかリゾート旅行とか女の子との飲みとかが好きな前提で親父トークに付き合わされてるんだろう)
この日何度目かの不毛な無限ループに突入しかけた時、
「そろそろお開きって事で」
と解放される時間が来た。
「それでは先生、今後ともお付き合いよろしくお願いします」
「宇宙に限らず、公共事業がある際は我々を頼って下さいね」
彼にとってつまらない時間は終わった。
秋山とて社会人である。
苦手、嫌い、つまらない、そんな飲食をこれまでも経験して来た。
ロシアでの飲みとか、本当にキツかった。
だが、それは数ヶ月に一回、無い時は半年以上無かったりする。
計画が変わり、仕事が圧縮され、各県の基地整備や民間企業への協力依頼とかを短期間でする必要が発生した。
そして、総理と話が出来る秋山は名指しで、顔合わせの為に呼ばれる事が多くなった。
景気対策の意味もあり、県としては得たいし、他所には渡したくないし、今後も継続して欲しい。
キーマンと飲みニケーションを取りたい!
計画変更に伴う仕事発注と、その答礼等で接待される事が増える。
秋山にとっての不毛な拷問は、この1ヶ月半程、連日続く事になる。
過去に経験した
「なんか先方が技術の担当者にも会いたいって事で、
飲み会に参加してくれませんか?
お金は向こうが出すみたいなんで」
って時の記憶を元にした話でした。
仕様が二転三転し、終電や泊まりとか多発した為、慰労するつもりだったようですが、
「だったら寝させろ!」
「技術の人に会いたいって言ってる割に、技術の話一個も無えな」
「話合わせるのも面倒くせー」
と内心愚痴りまくってたダメ社会人でした。




