計画中止
この物語は、もしも
「科学的な要望より先に政治的な理由で日本が有人宇宙飛行船を運用」
というシチュエーションでのシミュレーション小説です。
2020年頃の各国をモデルにし、組織名もそのままだが、
個人や計画そのものにモデルはあっても、実在のものではない、
あくまでも架空の物語として読んで下さい。
それはいきなりの話だった。
総理に呼び出された秋山は
「アレなんだけど、中止になった」
と言われ、首を傾げた。
「アレとは、今やってる有人宇宙飛行計画ですか?」
「それは5年分予算確保したから大丈夫だよ」
「では、アレとは?」
「何だったかな……、今、宇宙ステーション打ち上げてるだろ?」
「え? 次期中型機が中止なんですか?」
「違います。
それと平行して進めていたのが有りましたよね?」
「あー、んー……、有りましたね。
ISSのバックアップ宇宙ステーションを打ち上げ、サブ機として使う。
アメリカ主導とロシア主導ので作るけど、コアモジュール打ち上げ自体が3年後だから、我々の訓練に間に合わない、だから次期中型機の計画が立ち上がった……」
「そう、それ!
ISSバックアップか、それが出て来なかった。
それが中止」
「いや、それはアメリカ主導、ロシア主導だから、我々の一存じゃ決められないのでは」
「そのアメリカから中止って言って来た」
「へ?
NASAからは何も聞いてませんよ」
「さっき大統領が電話掛けて来て、中止にするそうです。
だから、君が真っ先に聞いたんです」
「ロシア主導のは?」
「あっちも中止だそうです。
君を呼び出すちょっと前に、ロシアからも連絡が有りました」
詳細はこういう事だった。
先日、アメリカは新型の有人宇宙船をISSにドッキングさせた。
これにより、非常時の脱出に最大3人乗りのソユーズだけでなく、最大7人乗りのその機体での脱出に目処が立った。
そうなると、特にロシアに気を使う事も無い。
アメリカは民間企業が、日本の中型ステーションと同規模の宇宙ステーションを計画し始めた。
日本の宇宙ステーション計画で、内装や食事、入浴やトイレの向上ももたらされ、宇宙ホテルが計画される。
民間でやってくれるなら、無理に政府の金を遣う事は無い。
外国を巻き込むより、自国だけでやる方が、予算を全て自国に回せる。
使用だけは外国にさせよう、使用料を払って貰うがな。
そういう事で、計画がデカく、進行が遅い、日本の宇宙ステーションをアメリカが作ってやる、というのは元々アメリカの都合で始まった為、中止に決まった。
国際プロジェクトは調整だなんだで時間が掛かり、せっかちな大統領の気質にも合わない。
大統領はそれでも気を使った。
まず日本に中止を報告した。
総理は、宇宙ステーションを3種類運用するのに疑問があっただけに、アメリカから中止を伝えられて、かえって良かったと感じた。
それでも、来年には打ち上げ、運用開始が決まっている日本の次期宇宙ステーションにアメリカの共同使用による仕様の制限は無いかを聞いてみた。
何故独自ステーションが必要になったのかと言うと、米露からの要求が多過ぎて来年使えそうになかったからだ。
それを聞いたところ、こちらの都合で中止する以上、日本にも待ったは掛けさせない、という回答だ。
……NASAの関係者に話を聞いてないのは明らかだが、まあ言質は取った。
ロシアはアメリカが退いた以上、無理は言わない。
大体、日本は次期宇宙ステーションにロシア式ドッキングポートを設置すると言っている。
ロシアは10物事を要求する際に、50くらい吹っかけて来る。
もう15くらい日本は要求を呑んだので、30呑んだ要求が半分になった時、然程拘泥しない。
日本からの減免要求ならペナルティを要求するが、今回はアメリカが退いたから、ロシアも「ちょっとリソース割き過ぎたな」と自分も撤退したまで。
「……という訳で、君たちはアメリカ共同機とロシア共同機については中止、次期宇宙ステーションだけに専念して下さい」
総理の言は、負担が一気に減るものに聞こえる。
しかし、総理と付き合いが長くなる秋山は、それだけでは済まないと気づいた。
「伺いますが、アメリカ共同機、ロシア共同機の方のスタッフはどうなります?」
「え? 君のとこに吸収するんでしょ」
「アメリカ共同機やロシア共同機の方でする実験計画は中止で良いですね?」
「それは勿体ないから、出来るだけ実行して下さい」
「何処で?」
「君たちが今作ってる宇宙ステーションで」
「予定キツキツです!」
「そこを何とかするのがプロジェクトマネージャーの腕の見せ所でしょう」
「次期ステーションは、基本長期に渡る実験用です。
飲食店風に言うと、回転率が悪く、次から次へと注文を入れられるものではありません」
「ではどうしたら良いか、建設的な意見を下さい。
中止はダメです」
何という理不尽な「建設的意見」要求だろう。
元々役割分担して使い分ける物を、一機に全部取り込めと言うから「出来ません」と言ったまで。
それを「出来ない、出来ない、と言ってないで、建設的に、どうやったら出来るかを提案しろ」と言うのだ。
計画中止を言い出したのはこちらじゃ無いだろ!
大体、さっき聞いて代案出せとか、無理だろ!
秋山は最後の気持ちだけ、オブラートに包んで総理に伝えた。
総理も、流石にさっき言ったことに案を出せと言うのは無理強いだと思ったようで、計画については後程書類で出す事を許した。
秋山の次の仕事は、いつの間にか広がっていた風呂敷を上手く畳んで、中の荷物を小さい風呂敷に詰め直す事になった……。




