第99話 あきれました
金曜日。出張の日。
鷹也と近野は課員に見送られ新幹線に乗るため駅に向かった。
中央から二つ離れた県。
景色が徐々に田舎の風景になるのが分かった。
「結局、付いて来てくれたのは君だったか」
「はい。また二人で頑張りましょう」
「そうだな」
近野は窓から外の風景を見ていた。
離れて行く東京。
自分は別の県で働く。
立花はどう思うだろう。
新しい人を好きになるのだろうか。
あの声で愛をささやくのだろうか。
心臓が波打つ。
考えなければいいのに、頭の中に立花の顔が浮かんで来てしまう。
「まったく! 課長。私はあきれました!」
「ん? どうしたんだ急に」
「こんな時に、立花くんは何をやってるんでしょう? 課員も少なくなって仕事が大変だと分かっているのに休暇だなんて」
「え?」
「本当にあきれたヤツですよ。私、ああ言う人間嫌いです。本当に嫌いです」
そう言いながら、近野は下を向いてしまった。
自分の言葉に涙が出て来てしまいそうになる。
東京からはなれて田舎に変わって行く景色すらも余計に涙を誘う。
そんな姿を見られたくないのでトイレに立ち、ひとしきり泣いた。
鏡を見ると化粧が落ちてしまっている。
動いている中で化粧をするのは大変なので時間がかかってしまい、もうじき目的地にと言うところで席に戻って行った。
「スイマセン」
「いや」
そして、鷹也はバツが悪そうに頭を掻きながら話し始めた。
「スマン。ひょっとして知らなかったのか? 君たちは仲がいいから話し合っているのかと思ったが、立花はすでにこの県に入り、新しい会社の場所や、自分のアパートやら近隣の状況やらをさぐるための休暇だったんだ。殿、向こうを先に偵察して参りますってなぁ……。だから、今日は新幹線のホームで待っていると思うぞ?」
「え?」
その時、新幹線は駅に入って行った。
そこに、立花は手を振りながら待っていた。




