第88話 パパがんばれ
鈴は眠っていたが、パーキングエリアに車を止めると反動で目を覚ました。
「……おうち……?」
「いやぁ、まだだよ。パーキングエリア」
「あれ? ママに会えなかった??」
先ほどの都市から離れている。当然の疑問であろう。
鷹也はチャイルドシートに身を乗り出して鈴の顔へ自分の顔を近づけた。
そしてニッコリ笑う。
「会えたぞ〜」
「え〜。ママは?」
「いや〜、やっぱりもう少し旅行したいらしい。スズのことを二人で起こしたんだぞ? スズ全然起きねーんだもんな〜」
「えー。スズたん、ママに会いたかった! ママに会いたかったァ!」
そう言って鈴はグズりだした。そんな鈴の頭を鷹也はガシガシと撫でながらこう言った。
「そうだよな。ゴメンゴメン。でもな。ママはスズの手を握ってこういってたぞ? スズは強いおねーちゃんだから大丈夫だって!」
鈴はしばらくグズったが涙は流さなかった。
口をへの字口にして我慢した。
しばらくずっとそのままだったが、なんとか頑張って口を元の形に戻した。
「スズ泣かないよ。だっておねーちゃんだもん」
「そうだよな」
そう言って鷹也は鈴の手を強く握った。
「スズはエライな。パパもスズを見てたらもっともっと頑張らなきゃって思うよ。スズに比べたらパパはまだまだだよ。エライ。エラいぞぉ」
「えへへ。パパもがんばるでち」
「おう。そうだな」
そう言って、鷹也は鈴の手を離し、自分の頭を指差しした。
「スズ。パパ頑張れーって、頭をごっちんしてくれるか?」
「うん。いいでちよ」
鈴はその場で手を振り上げて、鷹也の頭を目掛けて拳を振り下ろした。
「パパー。ガンバレ〜! ごっちーん」
鈴の小さな拳が鷹也の頭に当たる。
小さい小さな拳。
それが痛いはずもない。
だが、鷹也は大げさに頭を押さえた。
「いて! いてて〜! スズ、手加減してくれよ〜! はー。イテ」
「えへへ。パパ、痛かったでちか? 泣いてるでち〜」
「はは〜。グズ。ゴメンゴメン。はー。痛い。はー。痛いなぁ」
鷹也は泣きながら笑った。そして腕でガシガシと目を擦り鈴に笑顔を向けた。
「なぁ、途中でスーパー銭湯に寄って行くか。二人でいろんなお風呂に入って温泉気分を味わおう。ママの楽しい旅行に負けないくらい楽しもう!」
「うん。スズたんもお風呂に入りたい!」
二人は高速道路を降りて、途中にあったスーパー銭湯を楽しみながら家路についた。




