第67話 近野を探して
探偵に頼んでいるとはいえ、鷹也は何もしていないわけではなかった。
彩の置いて行った携帯。そこから知っている共通の友人へ電話をしたりした。
よく聞く高校時代の友人の名前を見つけては時間を見つけて電話をしたりしたが結果は思わしくなかった。
鈴を車に乗せて自分たちの故郷の周辺を散策するなどということもしたが、それが功を奏するわけもなく無駄足に終わった。
手掛かりは全くなかったのだ。
チームでの仕事終わりの打ち上げは全くなくなってしまった。
酒を飲むと車の運転ができなくなる。
鈴に緊急なことが起きた時に何も対応できなくなってしまうからだ。
プロジェクトが終わった後の恒例の打ち上げは顔だけ出して、後は係長の近野に任せて自分は早々に帰路について、鈴の面倒を見た。
なかなか近野に鷹也との時間がなくなり、彼女の酒量は増えた。
会社のそばにある行きつけのバーへ通う量も多くなっていった。
自分が見つけたお洒落な雰囲気のバー。この店が大好きなのだ。
寂しい自分を演じるのにちょうどいい。マスターにいつもの酒を頼み気取りながら飲むのが好きなのだ。
「はい。お待ちどう」
「ふふ。ありがとう」
「今日は? 立花さんは……?」
「え? やだぁ。マスター。彼は私の部下で何でもありませんよ」
「え? そうなんですか?」
「そうですよ」
「それは失礼しました」
マスターは近野から少し離れてグラスを磨き始めた。
するとバーのドアが開く。それを見てマスターは吹き出した。
そこには近野を探すいつもの立花の姿があったのだ。
カウンターの壁側の席にいることを確認すると途端に彼は笑顔になった。
「いらっしゃいませ」
「ああ。マスター。ビールで」
「かしこまりました」
そう言って、立花はまっすぐに近野の隣りの席を目指して歩いて行った。
「お嬢さんお一人で?」
その言葉を近野はシカトした。
それにも構わず、立花は横に座る。
マスターは立花の前にグラスビールを差し出した。
「ごゆっくり」
「ありがとうございます」
そして、グラスを持ってそれを近野へ向けた。
「かんぱい」
近野は立花のグラスを見もせずに少しだけ自分のグラスを上げた。
「日に日に冷たさの度合いが増していきますね~。さぁ面白くなってきましたぁ」
その言葉に近野はわずかながらに笑う。
「くじけないね~」
「そりゃそうですよ。愛してますもん」
「またそれですか。そうやって何人の女を落としてきたのやら」
冷たく突っかかる近野。
しかし立花はにこやかにそれを受け入れる。
「今はプライベートだから。会社みたいに愛想よくしないよ。これが私のホントのアンタへの態度。それが嫌ならとっとと帰った」
「ぜーんぜん。イヤじゃありませんよ。オレにとってもプライベートですもん。会社みたいに係長を敬いはしません」
「はぁ?」
「係長じゃおかしいなぁ。プライベートなんだから。カホリさん。そーだ。そう呼ぼう」
「は? 何言ってんの? コイツマジ分け分かんないですけど!」
「じゃぁ、カホちゃんでどうです?」
「うっわ。マジ嫌いコイツ。ホントに嫌」
「すいませーん。マスター。お代わりくださーい」
「話を聞けよ」
マスターが二人分の酒を作り始める。
近野は立花からそっぽを向いたまま。
その内に二人の前に新しい酒が置かれた。
「ふふ。ホントに仲がいいですね」
「ちょっと、誰が!」
「マスターあざーす」
マスターは笑顔で元の位置に戻って行った。




