第52話 ハーティーパーティー
鷹也と鈴が階段を降りると、すでにパーティの飾りつけがしてあった。
さすがだ。こういうことは仕事でもしている。みんなお手の物だった。
鈴は手を叩いて喜んだ。
「すごいすごい! ちれいちれい!」
パタパタという手叩きの音に、みんな優しく笑った。
「こんにちわー! スズちゃん。お兄ちゃんは立花くん」
そう言って、立花は鈴に顔を近づけて笑顔を見せた。
鈴は、突然男の大人に声をかけられて驚いた。
保育園の先生も女性ばかり。父親以外の男の人と話すのは苦手だったのだ。
「……こ、こんにちわ」
小さい声で挨拶をし、モジモジと下を向いて照れてしまっていた。
どうやら、立花は子ども好きのようだった。すぐに鈴と打ち解けて遊び始めた。
一緒にピザを食べて、魔法少女ごっこ遊びをしているようだった。
「あいつ、上手いなぁ。負けたわ」
「ふふ。ホントですねぇ」
課員の女子達は肉を焼いたり、お好み焼きを焼いたり。
やはり近野以外の二人の女子は女子力が高かった。
「うわ! すごい。お店みたい」
「ふふ。係長。お教えしましょうか?」
「マジ? 弟子入りしたい」
「ふふ。良きに計らえでございます」
酒を飲んで、鈴と遊んで、楽しく談笑して。
仕事を抜きにプライベートで全員がこうして遊ぶのは初めてだった。
だが、あっという間に夜中になっていた。
仕事の疲れが祟ったのか、一人が雑魚寝を決め込むと、同じように寝てしまうものもいた。
「あ。ホラ。さすがに女子は二階に寝ろよ」
鷹也はそう言って彼女達を誘導し、自分も寝てしまった娘の鈴を寝室に連れて行って寝かせた。
その後ろに近野が立っていた。
「お。近野くん。朝からすまなかったな。助かったよ」
「いえ。こちらこそ」
「君はどうする? 泊まっていくか? 帰るならタクシー代出すぞ?」
「いえ。泊めていただきます」
「そうか。じゃ、片付けるのは明日にしよう」
「はい」
「じゃぁ、おやすみ」
「はい。おやすみなさい……」
鷹也が寝室に入ろうとしたその時。
「あの、課長」
「え?」
「あの。私……」
「どうした?」
「……いえ。なんでもありません」
「?? そうか。じゃぁ」
近野は言いかけて止めてしまった。
鷹也へ気持ちを告げることを。
みんな寝て二人っきりの時間だったのだが。
鷹也は助かった。たった一日ばかりだったが鈴を楽しませることができた。
課員達も気を使って明日もいてくれるかもしれない。
そう思いながら鈴を包み込んで眠った。




