第48話 お買いもの
近所の店は避けた。彩と別の女性と鈴をつれて買い物をしているところを見られたくない。
駅から少し離れたスーパーに向かった。この店は9時開店なのでもう開いている。
店に到着し、鈴のチャイルドシートを外す。
「おねいたん。今日ね、ママが帰ってくるんだぁ」
二人ともびっくりした。
鈴にしてみればなんの根拠もない。
これから始まるであろう楽しい雰囲気にはママがいるはずだと思ったのかどうかは分からない。
鷹也はそんな娘に慌てた。
近野は鷹也の方を見て、奥さんと離婚したであろうことを再確認した。
実際はまだ離婚していないのだが。
鈴をカートに乗せてスーパーの中を進む。
鈴は絶えずニコニコ顔だ。人が多いことが嬉しいのだ。
近野がカゴの中に、お好み焼きの粉を入れた。
「あ」
鷹也が声を上げる。
「どうしました?」
近野が聞き返す。
「うん。娘は山芋のアレルギーがあるんだ」
「あ。そうなんですか。じゃぁ、小麦粉からやらないとですね」
出汁入で山芋まで入った粉は便利なのだ。近野はそれほど料理上手ではないので、それを用いようと思っていたが、壁に衝突してしまった。
しかし、やるしかない。
鷹也にいいところを見せたい。
娘の鈴にもいいところを見せたい。
出来れば、妻の座に座りたいのだ。
大量に食材を買い込み、鷹也の家へ。
まだ他の課員達が集まるまで時間がある。
近野は下準備をしようと思った。
しかし、鷹也は近野に言った。
「どうかね。壱岐くんと鈴鹿くんが来てから準備をしたら。大変だろ? 一緒に娘と遊ばないか?」
それもそうだ。他の女子が来てからやったほうがはかどるかもしれない。
他の女子の方が女子力が高い。
近野はそれまで鈴と遊んでいいところを見せようと思い、鷹也とともに冷蔵庫に食材を入れ込んだ。




