第47話 パパの恋人
金曜の夜、鷹也の課は仕事を早めに切り上げて帰って行った。
鷹也も家に帰ると、母親は回りを片付けて他県にある自分の家に帰ると言って出て行くのを二人で見送った。
「ばぁば、帰っちゃったね」
「そうだな」
「ママ、明日帰ってくるかなぁ?」
と、鈴が言う。その言葉にドキリとしたが、ごまかす言葉を持ち合わせていた。
「明日はなぁ……きっと楽しいぞ?」
「え? なんででちか?」
「いいから。お風呂入ろうぜ」
「うん!」
二人は楽しみにしながら明日を待った。
次の日。鷹也は鈴をチャイルドシートに乗せて駅まで近野を迎えに行った。
待ち合わせは9時少し前。
3人でスーパーで食材を買うのだ。
鈴は母親を迎えに行くのだと楽しみに声を上げた。
「ねぇ。ママ帰ってくる?」
鈴の質問が胸を打つが、その答えを言えない。
「いやぁ。お姉ちゃんが来るぞ?」
「え? 誰でちか? へー。楽しみでちね」
鈴は初めて会う近野に興味を持ったようだった。
駅の駐車場でしばらく待つと、近野が駅から出て辺りを見渡して鷹也の車を探していた。
鷹也は車から降りて近野に向かって大きく手を振った。
近野は気づいて嬉しそうな顔をしながらこちらに向かって来る。
「おはようございまーす」
「やぁ、おはよう。普段スーツだからそういうカジュアルな格好見慣れないな」
「どうですか?」
「どうって、その……」
近野は多少はにかみながら
「可愛いですか?」
というと、鷹也はためらいながら言う。
「か、可愛いよ」
「ありがとうございます」
鷹也は近野を後部座席に案内した。
助手席ではない。やはりそこに乗る女性は彩だけなのだ。
後部座席には娘の鈴が座っていた。
「こんにちわ〜」
近野が鈴に挨拶すると、鈴も嬉しそうに答えた。
「こんにちわ。おねいたん」
「スズ。このお姉さんはな、近野さん。近野くん。ウチの娘のスズだ。仲良くしてやってくれ」
「はい。よろしくね。スズちゃん」
「うん。おねいたんは、パパの恋人でつか?」
「え?」
止まってしまう近野。
鷹也も驚いてしまった。
「おいおい。スズ。意味分かってるのかよ〜」
「スズも保育園のショウくんが恋人なんでち」
「ちょ! スズ、恋人いるのかよ。今度、パパに紹介してよ」
「いいでち。うふふ」
鷹也はスズの他愛ない、言葉にドキリとした。
しかし、どういう意味かは2歳の鈴はよく知るまいと、車をスーパーに向けて発進させた。
そして近野も鈴の言葉で、心臓が破裂しそうなほどドキドキしていたのだった。




