第45話 それぞれの趣味
課員たちの努力。そして鷹也の久しぶりの能力発揮もあり、その日は定時である18時に終了。
普段残業ばかりなのに、早い終了にみな驚いていた。
幹事である立花が予約した居酒屋に足早に向かう。
課長である鷹也の意志を汲み取った幹事の計らいで、料理もすぐに出て来て、乾杯の手はずもすぐに揃った。
鷹也の「かんぱい」の発声に続いて課員たちはジョッキを上げて声を張り上げた。
鷹也は家に帰って鈴の面倒をみなければならない。
ビールには一口だけ口をつけて、後は食事……。
疲れている課員たちはそんな鷹也の姿を見てからんだ。
「どーしたんすかぁ? 課長らしくないっすよ〜」
「いやぁ〜。家でいろいろやることがあって……」
「お! 休んでマイホームパパにプラン変更っすか。仕事の鬼の課長がねぇ」
「よせよ……。みんなは休日は何をしてるんだ?」
鷹也はそんな話をした。
無趣味な彼は、休日を一人で過ごすのが大変下手だった。
ましてや鈴がいる。どこに連れて行っていいのかわからず、途方に暮れていた。
そんな彼は、みんなの話を参考にしようと思い至ったのだ。
「私は映画を見たり小説を見たりしてます」
「ふーん。なるほどな。隠岐くんらしいといえばらしいな」
「私は走るの好きなんで走ってます。マラソン大会に出たりもしてます」
「ほー。私も昔は走ったんだ。鈴鹿くんは健康的だなぁ。それもいいなぁ」
「オレはツーリングっすね。ヒマ見てバイクばっかりいじってます」
「へー。義岡くんはバイクに乗るのかぁ。意外だなぁ。立花は?」
と聞くと、立花というお調子者は平然とした表情で
「オレは風俗巡りっすね」
そう言われてみんなため息をつく。
「なんなの? 女子もいるのに……」
「そうだよ。気持ち悪い。アンタ自分のお茶、自分で入れてよね?」
「しょうがねーだろ? 彼女と別れたばっかりだし。給料高くても使い道ねぇし」
「まぁまぁ。確かに健康的とはいえんが……参考にはなる。みんな趣味を持ってるんだなぁ。近野くんは?」
「え〜と……あの……寝てますかねぇ……」
みんなプッと吹き出す。
「係長、そんなんじゃ女が腐りますぜ〜」
「そうですよ〜。仕事が趣味なんてもったいない」
「係長。年下ですけど僕なんてどうスか?」
と、立花が赤い顔をしてネクタイを締め直す。なかなかのイケメン。
だが、遊び好きが身体中から溢れていた。
「また今度ね……」
と近野が断ると、立花はメモを取り出して“係長:また今度”と書いた。
それを見ていた全員がドッと湧いた。
楽しいが鷹也には時間がせまっていた。
「あの〜。諸君。今週の土曜日、私の家で食事会をしないかね? 私が休んでいた間の労をねぎらいたい」
実はこれは鷹也の計略だった。家事もしたことがない自分……。鈴との遊びもよく分からない。だが人数が多いと鈴も喜ぶだろう。女性に料理を頼むのも悪くない。
みんな、二つ返事だった。
「いっす。行きます」
「なに駅ですか〜?」
「何時集合?」
「奥さんの顔見てぇ〜!」
その言葉で鷹也はピタリと止まった……。
「……妻はその日はいないんだ」
「ああそうですか〜」
まだ近野にしか言っていない。しかも近野にも離婚していないことも言っていない。みんなが驚くのも無理からぬことだった。
「じゃ決まりだな。細かい話は今週どこかのタイミングでするよ。悪いがみんなで楽しんでくれ。お先するぞ」
そう言って立ち上がり、立花のところに行くと1万円を渡した。
「会費よりも多めにやる。それで風俗行くなよ? ここで使うなり二次会で使うなりしてくれ」
「オーケーっす。心得てます。課長からご祝儀頂戴しました〜!」
みんなの「ありがとうございました」を背中に受けて、鷹也は鈴の待つ家へと向かった。




