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第38話 寂しいオルゴール

途中、渋滞に巻き込まれ、家に着いたのは18時過ぎ。

鈴は長時間の移動に疲れたのか、眠ってしまっていた。


車を車庫に入れたが家にはひと気がない。

鷹也は慌ててスマートフォンを取り出し、彩に向けてダイヤルした。


コール音が聞こえるが出ない。

しかし、長い間かけていると家の中から彩の着メロが聞こえるのだ。


まだいる!

怒られると思って出ないのかも知れない。

鷹也は寝ている鈴を車に置いたまま、電話をかけながら玄関の鍵を開け中に入った。


「アヤごめん!」


しかしそこに返事はない。光もない。

いや、一つだけ光るものがある。

「タカちゃん♡」とポップアップに出ている下駄箱の上のスマートフォンだ。


「アヤ……?」


しかしまた返事はない。


返事はなかった。


玄関先にはダンボールが一つ。

その上に、彩が気に入っていた宝石箱が一つ。

どちらにも「捨てて下さい」のメモがある。


鷹也が宝石箱をあけると、終わりかけのゼンマイがオルゴールを少しばかり起動した。


ポロン…… ポロン……


鷹也が宝石箱から摘まみ上げたものは、学生時代に買った本物なのかニセモノなのかも分からない小さい宝石のついた安い婚約指輪。

そして、加工も装飾も無い丸くて細いだけの銀の結婚指輪だった。

どちらも二人にとって大切な思い出の品。渡した時が思い出される。泣きながら鷹也の大好きなあの笑顔。

それを置いて行ってしまった。


ポ……ロ……ン……


オルゴールの音が止まる。


鷹也は急いで外に飛び出した。

車の中にはまだ寝ている鈴。

そのまま車を走り出す。


スマートフォンを置き去りにした。

実家もすでにない。

思い当たる場所は一つだけ。

わずかな望みはそこにしかない。


たどり着いた場所は小さなボロアパート。

外から見ると灯りがついている。


いるのだ。


「……おうち?」


停車した反動のために鈴が目を覚ました。

鷹也は仕方なしに鈴を抱きかかえた。


赤く錆びた鉄の階段を駆け上がり、一つの部屋の呼び鈴を鳴らした。

ドンドンドンと足を踏み鳴らす音がする。


「はい?」


「あ! 遊んでくれたおじたんだ!」

「す、スズちゃん……」


そこには、あの彩が浮気をした男がいた。彩に近づいた悪魔。

鈴と遊んだと言うことは家にも上がったかも知れない。

鷹也はそいつを睨みつけ、ギリリと歯ぎしりをする。だが見ると彩と行為をしたことを思い出す。あの白い肌に触れた汚い浮気男。胃液が上がって来るのを覚える。鷹也は必死にそれをこらえた。

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