第36話 母の教育
鷹也が自宅を出て実家に着くまでそう時間を要さなかった。
他県ではあるのだが、午前中には到着した。
三年ぶりの風景が懐かしい。
実家に着くと、両親が二人を出迎えた。
母親が鷹也を睨みつけて開口一番こう言った。
「来たな。親不孝もの」
「何でだよ」
「ずっとアヤに任せっきりでお盆にも来ないで、連絡も無し。アヤなんてスズを見せにふた月に一度は来てくれたのに。そして、昨日急に来るってかい。どういう心境の変化だい」
そう言いながら孫を抱きしめ抱擁した。
「それで? 私のカワイイ娘はどうして今日は来ないの?」
「ああ。もう来ないよ」
「……え……?」
鷹也は鈴に家に入るように促した。
鈴は祖父である鷹也の父親に手を引かれ、喜んで家の中にかけて行く。
「どういうこと?」
「あいつ、浮気してたんだよ。不倫。だから離婚する。今日家を出る約束なんだ」
「ウソでしょ?」
「ホントだよ。だから母ちゃんにスズの面倒を頼もうと思って」
「ちょっと待ってよ。アヤがホントにそんなことしたの?」
「そうだよ。証拠だってある。浮気した男に性病うつされてオレにもそれをうつした。思い出すと腹が立って来る」
母親はギリリと歯ぎしりをすると大きくなった息子に背伸びをして、思い切り拳をふりおろした。
「いって! なにしやがんだよ!」
「あ〜。育て方を誤った」
さすがに鷹也も憤慨した。
「……どういう意味だよ……」
「あんたは、家庭を顧みないほど働いた。そりゃご立派よ! お金をたくさん稼いで出世して?」
「そうだよ。金があったほうが幸せだろうが!」
「そう? 帰らない夫でも」
「…………」
「あんたは幸せを勘違いしてたんだよ。そしてせっせと幸せの準備だけをしてただけ。アヤはちっとも幸せじゃなかった。スズに愛情を与え、ウチに気を使って。自分の幸せをアンタの分までスズに与え続けて気がつきゃ空っぽ。アヤの幸せの器は空っぽになっちゃったんじゃないの? 違う? 違うと言い切れる?」
「ちが……」
「あっそう。幸せだったんだ。じゃぁ悪い女だね。離婚して正解よ!」
そう言いながら母親は肩を怒らせながら孫を追いかけて家の中に入って行った。




