第100話 変わる景色
近野の心情をよそに、まるで何事もなかったかのように手を振っている立花に近野はますます腹が立てた。
到着を前に席を立ち、出入り口に向かって行く姿を見て、鷹也はやはり二人は仲がいいんだろうなぁとうらやましく思った。
自分は終わってしまった恋。
そしてこちらは始まった恋。
この二人を全力で応援したくなったのだ。
新幹線が停車し、ドアが開く。
そこに立花が駆け寄る。
近野は立花の前に立ち睨みつけた。
だが、鷹也は近野の後ろ姿しか見えない。その二人のさまを微笑ましく感じた。
「立花くん。迎えに来てくれてありがとう。レンタカーも借りていてくれたか? 今日は運転手をよろしく頼むぞ」
「もちろん。心得ております」
鷹也は二人を見てニッと笑い、立花に自分のブリーフケースを押し付けた。
「少しトイレに行ってくる。君たちは出口付近で待っていてくれたまえ」
と、立花に目配せをして構内にあるトイレを探して駆けて行った。
二人きりにさせてやりたくて気を使ったのだ。
鷹也が階段下に消えて行くのを見送った後、近野は立花の正面に立ちその頬を思い切り張ると構内に高い音が響き渡った。
「……~あった~……」
近野は泣いていた。その横を他の新幹線利用客が通り過ぎる。
そんなこと構いはしなかった。
「アンタ! 私に惚れてるんでしょう!? 愛してるんでしょう!?」
「……ハイ」
「だったら心配かけないでよ! バカ!」
そう言い放つとハンカチを取り出して涙を拭き、目にハンカチを当てたままもう一度泣いた。
彼女が落ち着くまで立花はそこで待ち続けた。
「カホリさん。……スイマセン」
「……何よ。別にどうも思ってない」
「カホリさんがこっちに来るならオレも来ます。そしてきっと好きになってもらいます」
近野の動きが止まる。ハンカチをしまい、コンパクトを取り出して化粧が取れていないか確認したていたがその口元は少しばかりニヤついていた。
だが、彼女はいつものように強情だった。
「残念でした。私がこっちに来る理由は課長の奥さんにしてもらうためよ。立花くんが入る隙間なんてないんだから」
「……え? だって、課長には奥様が……」
「おあいにく様。課長は奥様と離婚なされるの。私は課長に告白する。フラれたとしても何度もする。きっと受け入れてもらえるんだから」
「ちょ、ちょっと!」
「何よ。もう行くわよ」
二人は急いで待ち合わせ場所に向かって行った。そこには鷹也がすでに立っておりニヤつきながら二人を待っていた。
「どうした? 二人とも遅いぞ? まぁ、詮索はせんが」
「いえ。少し迷ってしまいまして。課長。行きましょう」
「そうだな。立花くん。駐車場に案内してくれ」
「ハイ。殿、こちらでございます」
立花の案内で駐車場に停めてあるレンタカーに向かった。
運転席に立花。後部座席に近野。助手席には鷹也が乗り込んだ。
「あれ? 課長、後部座席じゃないんですか?」
「ああ。少しこの辺の街も見ておきたいからな」
そう言って鷹也は窓の外に目を向け、走行中はフロントガラスに移る風景を見ていた。
立花はすでに目的地である合併する会社を視察しており、その場所に二人を乗せて連れて行った。




