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第11話 再戦の理由




「てゆーか木嶋、大人しく荒巻を引き渡すという選択肢はないのか」


アズサとの約束もある。

即臨戦態勢に移行した木嶋を前に、史郎は間を取り尋ねると


「ハッ、そんなことするわけねーだろ……!」


臨戦を崩さず、間髪入れず木嶋は答えた。


「お前らはチカを強制的にイギリアに連れて行っちまうだろーが……!」


やはりか……。


木嶋の返答に史郎は木嶋の理解を得られないことを理解した。

なぜなら確かに木嶋の『言う通り』なのだ。


「確かに荒巻チカはイギリア行きを望んじゃいないかもしれないな……。だが彼女の才能が必要なことくらいお前だって分かっているんだろう??」


実は政府や基幹組織の発表にはいくつか『嘘』があるのだ。


政府は再三国民に説明していた。


『この作戦で生徒は絶対に死なない』と。


だがこの言葉、正確に言うのなら


()()()()()()絶対に死なない』というものである。


確かにケイエス大聖堂『突入時』は、生徒は絶対死なないだろう。

そうなるよう、史郎はじめ能力社会は万全を尽くした。


最も死のリスクが高まる大聖堂突入時は何があっても死にようがない。


そのようなカラクリは確かに設定済みだ。


だが逆に言えば出来たのは『そこまで』だった。


能力世界も万全を尽くしたが、いくら頑張ってもできたのはそこまでだった。


生徒の命を完璧に守れたのは大聖堂『突入時』のみ。


つまり大聖堂に至るまでの『道中』は――勿論大人数の能力者で護衛するので問題ない可能性の方が遥かに高いのだが――どういう可能性があるか分からない。


万全を期すが、その道中、死のリスクは排除しきれない。

だからこそ『作戦時生徒達は絶対死なない』というのは明確な『嘘』なのだ。


そして政府は再三にわたって


『作戦参加者は生徒中でも希望者のみ』


と言っているがこれも『嘘』だ。


正確には


『大聖堂に()()()()()()()()()完全に希望者のみ』である。


作戦遂行にどうしても必要な能力があった。


最も死のリスクが高い大聖堂突入時の生徒のライフセーブのためにどうしても『とある』生徒達の能力が必要あり、それに必要な数十の生徒達はその生徒の『意に関わらず』強制的にイギリア行きの船に乗船せざるを得なかった。


その能力者の一人がチカであり、チカは本人の意思に関わらずイギリアに向かわざるを得ず、だからこそ木嶋はイギリア行きを嫌がるチカを救うためにその手を引き、だからこそ能力社会も全力で探し始めたのだ。


一応安全を守るためにも下船せず待機。

船内で能力を行使する手筈になっているのだが、政府の


『下船させないから、上陸はしない。従ってイギリアには入国していない。行っていない。イギリアに行くのは、上陸するのは、強襲担当の希望者のみ』


というのは欺瞞に満ちた説明であろう。

イギリアの着港する船に乗っていれば多くの人間は『イギリアに入国した』と認識するのだから。

政府だってこのことは理解していて、作戦終了後、真相が知られ国民から批判が高まる前に内閣総辞職の後、国民に信を問う予定なのだ。


だからこそ『正しい』のは


「だから俺は絶対にチカを守る……!」


チカを守ろうとしている木嶋であり


(くそ……)


『間違っている』のは、チカの意思を無視して彼女を連れ戻そうとしている史郎はじめ、能力社会、ひいては政府である。


だが史郎達にも言い分はあるのである。


なぜならほぼ間違いなく、これが『最良』の作戦なのだ。

作戦のほぼ全容が知らされている史郎は確信出来ている。

これが最も安全で、成功確率の高い作戦だ。

作戦成功率だって、その生徒達によって造られる能力、そのトラップによりほぼ100%近いはずだ。


これは100%騙される。


作戦を聞いた時の史郎の感想だ。


そしてこれなら、生徒も無事だ、最善だ。


これもまた生徒のライフセーブ策を聞いた時の史郎の感想だ。


だからこそ史郎達はこの作戦を支持し、なんとしても成功させようとしていた。


100%正しいわけではないことは分かっている。

自分たちが間違っていることも分かっている。


だがこれ以上時間が開けば、また鈴木たちが日本に攻めてくるかもしれないのだ。

空いた時間に戦力を拡大する可能性だってあるのだ。


だからこそ先の東京襲撃で多くの戦力を失ったと思われる今がチャンス。


そして――、このような好機に、生徒の命がほぼ完全に守れ、多くの生徒の意思を尊重出来る。


このような作戦に、史郎達は乗らざるを得なかったし、能動的に『乗った』のだ。


これが正しいと信じて。

濁を合わせ飲むことによって少数の生徒の意思が蔑ろにされることを理解しつつ、この作戦を選んだ。


だから


「お前の気持ちは分かった……。だが、悪い……俺が勝つ」


史郎は自分の間違いを理解しつつ、だがこの選択を信じつつ史郎は木嶋と相対した。


「かかって来やがれ!!」


木嶋が吠えた。


こうして戦いはの火蓋は切って落とされ、


即座に史郎のテレキネシスが起動した。

史郎の横にあった巨石がうなりを上げて木嶋に迫る。


◆◆◆


(この戦い、俺の方が有利)


戦いが始まると同時、史郎は考えていた。


木嶋は転移能力者(テレポーター)

なかなか厄介で史郎の個別能力『悪霊(ゴースト)』よりも優秀な能力の保有者だ。


だが期末能力試験大会の際、史郎は刃を交わしたことがあり、その中で彼の空間転移(テレポート)の性能は把握できている。発動までの速さや癖は分かっている。

そしてそれさえ分かれば……


対応は容易。


彼の転移が間に合わない速度で物体を操作すれば良いのだから。

だからこそ史郎は


「フッ!」


戦いが始まるのと同時、即座にそばにあった巨石にテレキネシスをかけ木嶋を強襲した。

巨石が目に留まらぬ、確実に()()()()()()()()()()()()()()()()()木嶋に突っ込んだ。

だが


史郎の捉える視界の先で即座に木嶋の姿が『消えた』。


「!?」


その衝撃の事態に史郎が目を見開く。

そして同時にヒュオッと背後から空気が避ける音がした。


木嶋が背後に回り拳を振るっているのだ。


そして


(疾い―ッ!)


とかつての能力起動速度では考えられない速度で能力起動した木嶋に驚く史郎にその拳は吸い込まれる、ように思われた。


だが、この程度ならまだまだ対応は可能。


というより、楽勝のレベルである。


だから史郎は常人には時が止まったようにしか見えない時間のはざまでニヤリと笑い


即座に足元の地面にテレキネシスをかけた。


それにより史郎の佇む大地が史郎の背後に向けて噴火する様に破裂した。


火砕流のような大地の猛威が木嶋に襲い掛かる。


だが――、木嶋もこの程度の回避、余裕であった。

瞬時に木嶋の姿が消えた。


そして――


(いない……ッ!? もう転移したのか!?)


反響音から木嶋の不在を悟る史郎の横合いに転移し


(貰った――)


史郎に蹴りを見舞おうとしていた。


そして一瞬のうちに消えてこちらの顔面に蹴りを突き刺そうとしている木嶋に史郎は今度は心底驚いていた。

なぜなら見るとそこに『赤い靄』がないのだ。


以前にはあった木嶋のテレポートに伴っていた『赤い靄』が発生していない。

そうして史郎は思い出した。


『今はあのウザったい赤い靄を消そうとしているところだ』


一時期リツは木嶋の指導をしていて、赤い靄を消そうとしていたことを。


その成果だ。


この転移に至るまでの速さの大幅な上昇も、赤い靄の消失もリツの指導によるものだろう。


つまりこの木嶋の急激な実力向上の背後にはリツの存在がいるのだ。


全く厄介なことをしやがって……


と数瞬の狭間に史郎はなじる。


だが――この程度もまた、『楽勝で対応が可能』


史郎は無理やり体を反転させると木嶋の手を掴み


「なに!?」


驚いて息を呑む木嶋を思いっきりブン投げた。


「くっ!?」


それによりバレーのスパイクのように木嶋は鋭く地面にふっ飛ばされた。

だが、流石、修業をしただけある。

ふっ飛ばされる途中で木嶋はテレポートを発動し、史郎の先数十メートル先の宙に移動。

それにより史郎の投擲の運動エネルギーを完全に絶ち、自由落下でするりと安全に着地した。


だが、その程度の距離、史郎からすれば目と鼻の先だ。

直後、史郎のテレキネシスによる大地の爆撃が木嶋に襲い掛かる。

テレキネシスにより地殻が割れ、木嶋に向かって猛烈な勢いで三十メートル以上の範囲の大地が天に跳ね上がる。

そしてその圧倒的な攻撃力に、その圧倒的な攻撃速度に


(クソッ!)


溜まらず木嶋は顔を歪めながら空中に転移すると


「捕まえた」


転移先(そこ)に史郎はいて


(マジかよ……ッ!)


顔を歪ませる木嶋の顔面に拳を叩き込んだ。


史郎の一撃を受けて木嶋の体が吹っ飛び、地面につきささり盛大な煙を上げた。


そう、史郎は思っていた。


一度戦ったので転移までの速度や転移の癖が読めると。


その癖を読み切る能力で、木嶋の転移先を、靄が無くなり読みにくくなった木嶋の転移先を史郎は読んだのだ。

大地に伏す木嶋に史郎の声が届く。


「……靄消えても一度戦っているんだ……。どこに転移するかなんて読める」


◆◆◆


史郎に殴られ木嶋は大地にふっ飛ばされ盛大な土煙を上げた。

凄まじい速度で大地に激突し全身の細胞が痛覚のアラートを叫ぶ。


そしてこのままじゃ勝てないことを察した木嶋は


(やっぱ差なんて詰まってなかったな……)


むくりと起き上がりながら、彼我の差を理解して


(なら……)


自身を見下ろすように立つ史郎に、決心した。


(『アレ』をやるしかないな……)


と。


同時に全身の細胞が活性化していくのが分かる。


この数か月、血反吐を吐く修行の結果手に入れた奥義を出す時である。



「発動……、『空の支配者(エアリースローン)』」



立ち上がると木嶋はポツリとその名を呟いた。


◆◆◆


それに驚いたのは史郎である。



「発動……『空の支配者(エアリースローン)』」


もう勝負有ったかと史郎が思っていた時、木嶋はそんな事を言い、直後


「ッ!?」


ビリビリとした圧力が木嶋から発されたのだから。

明らかに今の一瞬で木嶋は格段に強くなった。

言葉と同時に某かの能力を起動したのである。


そしてこの木嶋を倒すのが火急の用だと即座に理解した史郎はノータイムで能力を起動した。


木嶋の背後から、超速で、『無音』の瓦礫が襲い掛かる。

テレキネシスによる『物体』と『音』操作の合わせ技だ。


『死角』から襲い掛かる『無音』の攻撃。

いくら何でも避けられるわけがない。


そう史郎が突然吹き上がった木嶋の圧力を警戒しつつも、強烈な一撃を見舞おうとした時だ


「なにッ!?」


無音の瓦礫が木嶋に突っ込もうとした瞬間、木嶋の姿がフッと消え史郎は息を呑んだ。


テレポートで避けたのだ。

木嶋は綺麗に瓦礫だけを避けて、すぐ横手の二メートルほどの場所にテレポート回避したのである。

そして史郎が余りのことに呆気に取られていると、次弾で史郎のすぐ横手に転移した木嶋は


「それくらい読める」


言って、史郎のドテ腹に拳を叩き込んだ。

肺から空気が抜けた。



(どうなっている……!?)


史郎は木嶋の拳を受け止めながら息を呑んだ。

木嶋の強烈な拳をなんとか右手で受け止める。

あれ以降、木嶋が攻めまくっているのである。


いや、正確には


「オラァ!!」

「クッ!」


史郎は木嶋の拳を弾きながら、思う。


――木嶋は防御をしていないのだ。


それが木嶋とここ数分戦った印象である。

史郎がいくら無音で、死角から瓦礫操作で攻撃を仕掛けようも、いともたやすく木嶋は転移で避けきり、


「喰らえよ!!」


その後史郎のすぐ横に転移し、拳を振るったり、


――また木嶋は以前から、『敵の強制転移』も出来るテレポーターだった


「うお!!」

「喰らっとけ!!」


史郎を自身の足元に転移させるとスタンプを喰らわせようとしてくるのだ。


そしてそのがむしゃらな攻撃の嵐は、隙だらけで攻撃し放題なのだが、


「だから避けられるって言ってんだろ!!」


木嶋は史郎のあらゆる攻撃を避けきるのである。

まるで自動で避けられているようなのである。


その余りに異様な回避性能に、しばらくすると史郎は有る可能性を悟った。


ある時、木嶋の拳を防ぎきると、史郎は問うた。


「この回避性能……。『絶対能力使役アブソリュートオーダー』か……」

「ご名答……」


史郎が問うと、木嶋は口角を吊り上げた。


◆◆◆


絶対能力使役アブソリュートオーダー


能力自体に命令を送り、能力を自走させる技術である。

それにより能力によっては能力者本人すら気が付かない攻撃すら、能力自体が自動感知し防御する自動防御を手に入れるものもいる。


以前に戦った青木もそれにより『絶対防御』を成していた。


それだけに使用可能になれば、一気に能力社会の中での最上位の実力者になれると言われる技術である。

その技術をこの男はわずか数か月の間に習得したというのである。


その事実に史郎は驚嘆していた。


確かにリツは、『史郎程ではないが筋が良い』と言っていたが、まさかここまでとは思わなかった。


木嶋は有する個別能力『テレポート』に一定範囲に敵の攻撃が入り込み次第、テレポートにより自動回避するように命令したのだ。


だからこそ木嶋は防御に意識を振らず攻撃の身に専念し、そうありながら全ての敵の反撃を回避できるのだ。


となると、


史郎は浅く息を吐いた。


この男を攻略するのは相当きつい……。


だがそうしながら史郎はこの『絶対回避』を有する木嶋の攻略方法を探り始めていて、

数分後だ。


「オラァ!!」

「クッ!」


何十・何百という木嶋からの攻撃の雨を防ぎきり、耐えきった後、

史郎は大きな溜息を吐いた後、言ったのだ。


「……ようやく読み切ったぞ、木嶋」


と。





何を言っているんだこいつは。


一方で驚いたのは木嶋だ。

あれ以降も木嶋の徹底的な攻めは続いている。

根本的な肉体強化において彼我の差があるためいくら攻撃しても史郎に致命傷を与えられていないのは事実だが、明らかにダメージ量は史郎の方が多い。

そして『空の支配者(エアリースローン)』がある限り、史郎はこちらに攻撃できるわけがない。


だからこそ史郎に勝ち筋などないはずで、そもそも『空の支配者(エアリースローン)』を読み切れる()()()()



そう史郎の言葉の真意を図りかねている時だ



「フッ!」



史郎が小さく息を吐くとグンッと史郎の背後から無数の瓦礫が飛来した。

そしてそのような攻撃、何でもない。

空の支配者(エアリースローン)』に従うまま、自動で避けきる。


木嶋の視点がそれにより数瞬のうちに何十と切り替わる。

向かってくる何十という瓦礫を『空の支配者(エアリースローン)』による自動テレポート回避で何十回とテレポートし避けているのだ。


そして避けきった瞬間だ、木嶋は目を剥いた。


目の前に史郎の拳があったからだ。


「ナッ!?」


そして『空の支配者(エアリースローン)』による回避が発動するよりも先に史郎の拳は木嶋の顔面に突き刺さった。


◆◆◆


「な……ぜ……」


完全に不意を突かれた木嶋は地面よりなんとか起き上がった。

だがダメージは深刻で、今にも倒れそうだった。

それほどまでに史郎に不意を突かれたのは痛かったのだ。


そして青息吐息の木嶋が尋ねると


「簡単だ……」


あっさりと木嶋同様汗と血を顔に着ける史郎は種を明かした。


「『絶対能力使役アブソリュートオーダー』は自分で能力にルールを教え込む。こういう時はこう動けと。だから本人の意思によらず自動回避や自動防御が出来るんだが、なら話は簡単だ。回避ルートが決まってるなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()……!俺がしたのはそれだけだ」


それはつまり史郎がこの短期間で木嶋が自身のテレポートにプログラムした回避パターンを全て把握したという事である。


「そんなことが……!?」


俄かには信じられず木嶋は瞠目した。


「お、お前何千パターンあると思ってんだ!? それを読み切る!? 把握しきる!? そんなことが可能なわけがないだろう!?」


だがしかし、史郎にはそれは『可能』なことであり、史郎は泥だらけになりながら真実を口にした。


「……テレキネシスによる脳内物質の操作だ」

「ッ!?」


その一言で木嶋が目を見開く。

その表情は信じられない、という彼の心情をありありと映していて、木嶋はしばらくすると喉を枯らして呟いた。


「お前、まさか……!?」

「ようやく分かったようだな。その通りだ。テレキネシスによる脳内物質の操作。それで自身の脳内を活性化させる。そうすればお前の回避行動を読み切ることなんて造作も無いことだ……」


そして史郎の答えを知った木嶋は


「嘘だろ……!?」


俄かには受け入れがたい真実に叫ぶと


「で、お前はもう完全に詰んでいるんだが、どうする……? まだ抵抗するのか」


と尋ねる史郎に


「当たり前だろう……!!」


再度立ち上がった。


それほどまでに木嶋にとって荒巻チカは大切な人物であり、


『九ノ枝君……! お願い、義人をここまで連れて来て……!』


彼らの仲は深いものなのだ。


加恋儀アズサの言葉を思い出し、史郎は顔を歪めた。


そこからは一方的なものだった。


「クッ!!」


史郎のテレキネシスが猛威を奮い、全方向からあらゆる瓦礫が木嶋に襲い掛かる。

それら自身に襲い掛かる暴力を木嶋は『空の支配者(エアリースローン)』で避けきる。

結果、自動入力後回避指定された場所は地上4メートルの天空。

しかしそこを狙いすましたように史郎の操る瓦礫がすでに迫っており、『空の支配者(エアリースローン)』で自動回避。

そして2メートル前方に自動テレポート回避したのだが


「グフッ!」


そこに史郎の拳が突き刺さった。


このように木嶋がいくら攻撃しようとも、史郎は攻撃を受け止め、その返し手で攻撃。

拳を振るい『空の支配者(エアリースローン)』で避けきった先にテレキネシスで瓦礫を叩き込む。

もしそれも連鎖で避けられたら、そのさらに先。もう一歩奥の回避先に攻撃。

だがそれも避けきられたら


「クッ!」


その先の転移先に史郎が先読みで移動しきり、拳を、蹴りを叩き込む。

それにより数分後には手加減をしたにもかかわらず、木嶋はボロボロになっており、アズサとの約束もあり、史郎が


「おいもう辞めないか」


と尋ねるも


「まだまだぁ!」


と血を吐きながら木嶋が立ち上がる展開が続く。


そして木嶋の体がボロボロになり、息も絶え絶えになった時だ、

今まで物陰に隠れていたチカが


「もうやめて……義人……! このままじゃ義人の体がもたない……!」


義人の体を後ろから抱き込み、静止させることで戦いは終わった。


その様子に史郎が息を呑んでいると、満身創痍の血だらけの木嶋は


「でも俺には何としても勝つ必要が……! 俺の所為で能力者になったチカを守るためにも俺は勝たないと……!」


と言うが、そんな自責の念に一杯になった木嶋の頭をチカが優しく撫でる。


「もういいの。無理よ、帰りましょう。大丈夫ありがとう義人……。私が怖がっているのを理解して、止めてくれて嬉しかったよ……」

「チ、チカ……」

「でももう大丈夫よ……。義人が勇気をもって戦っているのを見て元気が出た……。私、頑張って来るね」


そう言って涙を流し木嶋を静止させたのだ。


二人の様子を見て史郎はがっくりとその場に座り込んだ。

一気に心労が来た。


こちらが悪いし、仕方が無かったとはいえ、なんて悪い役回りなのだろう、と。


そしてしばらくして史郎がリツたちと連絡を取り回収部隊が来るのを待っている時だ


「俺が便宜は図ってやる。悪いようにはしないから従うんだぞ」


史郎が未だ地面に座り込む木嶋にこれからの嘘の予定を説明していると


「恨むぞ九ノ枝……」


話の流れを断ち切って木嶋がポツリと呟いた。

その突然の怨嗟に史郎は呆気に取られるが、木嶋の胸中を察し、黙り込む。


「分かってるよ。返す言葉もない。本当にごめん」

「謝っても、変わりゃしねーだろ結果は」

「あぁ変わらない。荒巻さんは連れて行く」


そこだけは断じて譲れない。

史郎がにべもなく即答すると、木嶋は顔を歪めた。


「俺はいけねーのか九ノ枝……?」

「この短期間で『絶対能力使役アブソリュートオーダー』を手に入れたのは確かに凄いが、肉体強化が伴っていないから難しいな。それにまだ『絶対能力使役アブソリュートオーダー』もお粗末だ。こんなにあっさり対策されたんじゃな」

「そうか……」


木嶋は悔しそうに目に涙を溜めた


その姿を見て史郎は木嶋の胸中をこれ以上ない程察した。


――自分はまだいいのだ。現場にまだ入れるのだから


しかし全てを他人に任せなくてはならない木嶋は無念でならないだろう。


まして木嶋は今回の生徒の能力覚醒に責任を感じているのだ。


そのような当事者意識のあるものが現場に出ていけないのは身を焼かれるほど悔しく。悲しいものだろう。

だからこそ史郎は言うのだった。


「任せろよ、木嶋。取り逃がしなく叩き潰すさ。それは誓おう。そして、こんなことを起こした鈴木を絶対ぶん殴って来てやる」

「あぁ頼んだぞ九ノ枝……。チカをこんな怖い目に遭わせた鈴木を倒してきてくれ」

「任せろ」


史郎は即答した。


「対象発見! 確保!」


その後回収部隊に史郎や木嶋は拾われ、あくる日を迎えた後も事情説明をすることになった。

そして解放されたのは翌日の昼のことで


大変だったな。


そんなことを思いながら史郎が眠い眼を擦りながら今日はそのまま任務の関係上、寮で

寝ようと晴嵐高校の寮の自室に向かっていると


「大丈夫だったの九ノ枝君?」


偶然遭遇したメイはボロボロで疲れ切っている史郎を見て心配そうに駆け寄ってきて


その心底心配そうな様子に


「あ、ここも怪我してる」


と史郎の体中を見回し眉を下げるメイの様子に


このように史郎を心配してくれる少女を戦場に連れて行かねばならなくした鈴木に言い知れぬ怒りが立ち上ってくるのを感じた。


史郎だって嫌なのだ。

メイがこの作戦に参加するのは。

作戦は安全の確信はある。しかしその道中は僅かな、ほんの僅かな危険はある。


しかし曰くメイの参加は


『彼女の参加はこの作戦のキーなのだよ』


リツの言葉を思い出す。


この国の政府・引いてはこの国の基幹組織、いやそれどころか世界の強制。世界の意思の様である。


だからこそ、このような大切なメイを危険な目に遭わせるように導いた『第二世界侵攻』のボス、鈴木にふつふつとした怒りが立ち上り


「うん、大丈夫だよ」


心配そうにのぞき込むメイにそう言いながら、史郎は鈴木に対する敵意を新たにした。


絶対に鈴木を倒そう。


心にそう誓った。


そして時は飛ぶように流れ



1月某日。


「来たわね」

「あぁ……」

「今日、鈴木の作戦を終わらせる」


作戦決行の日は訪れた。


寒風吹きすさぶ時期である。



これにて第8章は終了です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

次章、第9章(最終章)は8月中旬に再開予定です。(仕事の関係)

ちゃんと史郎とメイの恋愛は決着をつけます。

何か変更がありましたら活動報告にて報告いたします。

今後とも宜しくお願いいたします。

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