第7話 始まり
20XX−1年。
生徒達が能力覚醒する、数か月前。
「ッ!?」
史郎に鉛の凶弾が迫っていた。
ウェポン型能力で作られたそう簡単にジャック出来ない銃弾である。
そしてそれだけの威力があると今の疲弊しきった史朗では耐え切れない可能性があった。
――マズイ
即座に回避しようとする史郎。
だが
「なにっ!?」
いつの間にか足に鎖が絡みついていて逃げられない。
――ヤバイ。
史郎は息を呑んだ。
対する鎖や銃、大剣など様々な兵器が複雑に絡み合ったような武器を作成するウェポン型能力者。
『万機』の異名を冠する、目が隠れる頭巾のようなマスクをした敵は、史郎の死を悟り、にぃっと笑った。
「クッ!」
判断を切り替える。
テレキネシスを使用し、無理やり大地を迫り上げ銃弾を防ごうとする。
だがその時だ
「おい史郎! 何している!?」
史郎に迫った凶弾を間合いに入ったリツが弾いた。
だが『万機』は能力世界で名を知られた優秀な能力者。
様々な国を渡り歩き、多くの基幹組織が差し向けてきた刺客を跳ね返してきた相当な実力者である。
リツと言えど無傷とはいかず、その後畳みかけるように銃弾の雨が降ると
「~~~~~ッ!!」
銃弾を防ぎ切った頃には相当疲弊しており、銃弾の雨が止んだころには
『万機』を追う体力が無い。
「フ……」
様々な兵器が複雑に絡まり合いまるでタコのように見える兵器複合体を現出させる『万機』は薄い笑みを漏らすと悠然とその場から去って行った。
こうして史郎達は日本に侵入した『万機』を討てという新平和組織からの依頼を失敗してしまい、
「全くどうしたんだ史郎、あんなボサッとされてはただの足手まといだぞ?」
その日の夜、リツとの反省会で史郎は叱られていた。
そして自分の過失を理解している史郎は謝るしかない。
だが史郎が謝ろうと
「反省しているのは良いことだが、謝れば良いという問題ではない。ここ最近の貴様はいつもそうだ」
リツは怒りが収まらないらしく史郎を叱責し続け、見かねた六透が助け船を出した。
「まぁまぁ、史郎にも色々あるだろ? 思春期なんだからよ?」
だが
「思春期なら死んでも良いのか六透。年齢が原因で出る悩みならなおさら重要だろう」
「ま、まぁそうだが……」
リツに真正面から論破されてしまい引っ込んでしまった。
その後史郎は叱られ倒すことで反省会は終了。
「史郎、お前のその問題、次までに解決しておけ。私が相談に乗れるものなら乗ろう。四倉が居場所を掴み次第再度強襲をかけるからな」
そう言ってリツは出ていき
「はぁ~、俺は何やってんだ」
数十分後、入浴を終えた史郎は『赤き光』の自室のベッドに沈み込んでいた。
そうしながら史郎の脳裏をかすめるのは先日、目の前で死んだ男の言葉である。
『クッ、力に溺れた糞野郎が……』
史郎と戦い、腹に風穴を開けられた男は地に伏しながら憎々し気に言ったのだ。
『力があるからって好き勝手やりやがって、テメーはどうしようもないくらい糞野郎だよ』
と。
別に初めて能力者を殺したわけでもない。
別に初めて死に際に恨み辛みを吐かれたわけでもない。
それになぜ、これまで十数名の一般人を快楽のために手に掛けた男にそのようなことを言われなければならないのか。
だが史郎はどうにもその言葉を割りきることができず
「はぁ……」
未だに悩み続けているのである。
ふと目を閉じれば先の男の言葉が蘇ってくる。
果たして自分は力があることに驕っているのだろうか。
そしてこのような初歩的な悩み、リツやその他周囲の『赤き光』のメンバーには逆に相談できない。
史郎は目を瞑りながらこれまでの経緯を思い出していた。
中学時代、ひょんなことから能力に目覚めた。
もともと友人達とも、どころか家族ともどこか距離感を感じていた。
能力に目覚めると、なるほど、だからか、と思った。
自分は他と違かったから馴染めなかったのだ、と。
そして得た能力を使用しているとなぜか遭遇する能力者達。
そんな彼らと史郎は戦い続ける。
加えて史郎は新規能力者の中では異常なほど強力だったらしく、いつの間にか史郎の存在は日本能力社会、全体を巻き込んだ騒動に発展していた。
史郎がこれまで何気なしに倒していた能力者達は有名な能力組織に所属している能力者達だったのだ。
こうして『能力社会』という未知の世界を知り始める史郎。
同時に史郎を抹殺、監禁、懐柔しようとし出す各組織。
そんな中で史郎はついに
「はぁ…はぁ…」
ある日、血反吐を吐きながら倒れていた。
「はは、ルーキーにしちゃ相当やるが、俺の方が強いようだね」
『赤き光』のボス、一之瀬海と戦い、敗北したのだ。
だが一之瀬と言えど無傷とは行かず胸から夥しい血を流しながら「にしてもなんだこいつの能力……。覚醒して数か月で俺に一撃与えるとか化け物かよ……」と愚痴りつつ、自身に一撃加えた史郎に「良いね」と微笑み
「君、僕らの仲間にならないかい?」
そう言ったのだ。
そして自分よりも強い一ノ瀬の実力と
「試しに僕らの組織に来てみなよ」
戦闘が終わると、いや戦いの中でもどこか落ち着ける雰囲気を醸す一ノ瀬に惹かれ、史郎は『赤き光』そのアジトに向かった。
そこで
「え!? 海!? 大丈夫なのその傷!?」
「あぁ大丈夫だ。こいつにやられた。だがようやく捕まえることに成功したよ。それとこいつを仲間にする」
「えぇ……、能力覚醒そこそこで海に一撃加えるって化け物過ぎでしょ……。まぁそりゃ海の考えなら異存は無いけど」
同世代の能力者三宮マドカと出会い
「お、貴様が今世間を賑わせている騒がせ能力者か。海とやり合うなんて相当の玉だな」
姉御肌の二子玉川リツと出会い
「おいおいそこそこイケメンじゃねーかよ」
良い兄貴分のオーラを感じる六透優と話し
「あ、私達と同い年なんだ! 私、七姫ナナ! 宜しくね!」
「ナナ、アンタまだコイツが私たちんとこ入るとは決まってないのよ?」
天真爛漫なナナと出会い、この『赤き光』という組織にどこか心惹かれていくのを感じた。
この『赤き光』という組織員からはこれまで史郎が感じたことのない、感じたいと思っていた温もりがどこかあった。
そして史郎が入っても良いかもと思っていた時だ
「実は僕は何としても史郎、君を仲間に入れたいと思っている」
「え……?」
目の前に座った一ノ瀬が辛気臭った顔で史郎は面食らった。
これまでの人生で、ここまで誰かに求められたことは無い。
だから
(……ッ)
史郎は告白された生娘のように顔を赤らめ
「な、なぜ自分なんですか……」
と問うたのだが
「まずは実力だ。この組織は自慢じゃないが日本で、いや世界でも最高クラスの実力者が揃う最強クラスの組織だ。そのような能力者が既に俺を含めて8人いる。そして九ノ枝史郎君、君には十分そのポテンシャルがある。偶然にも日本でこれだけの才能が偶然にも芽吹いたんだ。仲間に入れたいのは当然だ。だが実はそれ以上に君に拘るのには理由がある。というのが……」
一ノ瀬の次の言葉に、自然とその場にいた全員がゴクリと生唾を飲み込んだ。
そして周囲に緊張が走る中満を持して一ノ瀬は言ったのだ。
「君の名前に『九』が入っているからだ……!」
「は?」
思わず素の声が出た。
史郎だけではない。
「「「……」」」
ナナを除く周囲の人間全員があまりの下らなさに言葉を失っていた。
だがそのような微妙な空気の変化にも気が付かず、一ノ瀬は熱弁を振るう。
「いや実はな、俺の名前は一ノ瀬海と言うんだがな、横にいるのが二子玉川リツ、そこの史郎と同世代っぽいのが三宮マドカに七姫ナナ。で、そこのチャラ男が六透優って名前で今ここにいない残り三人が四倉、五山、八戸って言うんだよ! で、超偶然だが、九ノ枝史郎! お前が入ると1から9まで全員揃う!! だからどうだ史郎!? 俺たちの仲間にならないか!?」
と。
そして返事を求められた史郎はというと
「俺帰ります。お疲れさまでした」
「おい!!」
その時史郎は本気で『赤き光』に入るのを辞退しようと思ったのだが、結局入隊することになったのである。
一方でナナは
「へ~凄いね!」
と素直に感動していた。
その後、史郎の家族に史郎が能力に覚醒したこと、能力社会という世界のこと、その他様々な事情を説明し、大金を払い史郎を買い取る。
そして両親、および妹はそのまま海外へ飛んだ。
今頃どこかで楽しく暮らしているはずである。
そして能力者は登録され次第、一般社会から戸籍は抹消され特殊な操作が加えられる。
こうして史郎は能力社会入りを果たしたのだが
(能力に驕っている、か……)
ベッドで史郎は仰向けになり考え込んでいた。
能力社会に入ってからというもの、様々な能力者と戦ってきた。
そしてそのほぼ全てに史郎は勝利してきた。
そのような自分は果たして驕っていたのだろうか。
そして――このような初歩的な質問、かえって隊員には聞けない。
史郎は延々と解けない謎を考え込みながら、眠りについた。
そして翌日の学校の放課後である。
「これより文化祭実行委員会の第一回会合を始めます。ではまず自己紹介から」
史郎は周囲の人間から押し付けられた文化祭実行委員の第一回会合に参加しており、一年から三年、多くの生徒が集まる正方形に並べられた席で
艶やかな黒髪の美少女。
ネコのようにぱっちりとした瞳でありながら、どこか眠たげな印象が特徴的な美少女。
「1年D組、雛櫛メイです。宜しくお願いします」
雛櫛メイと出会ったのだった。
今日中にもう一話投稿します。




