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第3話 開会式


一体どういう事なんだ。



『七校対抗体育祭』当日。

なんと


「え、雛櫛……化粧してる……?」

「う。うん……」


時はほんの数十秒遡る。


そもそも異変はあったのだ。

食堂に降りてくるとなにやら普段よりも光量が著しい。

というより普通に眩しい。

そんな光景に

お、なんだ?蛍光灯でも替えたんかな?

などと思案しながら周囲を見渡すと

「ハウアッ!?」

超新星爆発のような圧倒的輝きを放つ人物を発見したのだ。

それが何を隠そう雛櫛メイ、その人であり

すぐにその圧倒的輝きの原因を理解した。メイが『化粧』をしているのだ。

メイが化粧をした結果、すでに圧倒的な美しさを誇るメイの美しさがさらにヒートアップし食堂全体が淡く輝いて見えたらしい。


自分の目は大丈夫なんだろうか。


内心焦るがそれどころではなかった。


メイが化粧をしている……!

しかも七校対抗体育祭、当日にだ……!


それは尋常ではない非常事態で、震える声で


「え、雛櫛……化粧してる……?」


と史郎が尋ねると


「う。うん……」


メイは恥ずかしそうにコクリ、と頷いたのだ。


恥ずかしそうに、コクリ、と頷いたのだ。


(おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!)


史郎は頭を抱えた。


実際の所、ここ最近、史郎は落ち着きを取り戻していた。


いくら体育祭が近づこうにもメイに変化はない。

ならば今更急にお洒落しだすわけがないだろう。

そう思っていたのだ。


だから今回の体育祭、対策すべきはメイに寄って来る男たちだろうと。


そうとも思っていたのだ。


だが蓋を開けてみれば何という事だろう


(メイが化粧しているだとぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!?!?!)


メイが化粧をしちゃっているのである。

状態で言えば、完全に後ろから撃たれた格好。

おかげで史郎は驚愕・混乱の極致で髪を掻きむしり唸る。


(何その奇襲!?!? 諸葛亮孔明なの!?!?)


そしてどれくらい史郎が混乱しているかと言えば


()()だけに!!)


と脳内で思いっきりおやじギャグを言っちゃうほどである。

だがしばらくすると史郎は


(おやじギャグ言ってる場合か、アカァァァァァァァァァァン!!)


正気を取り戻し始める。


一方で史郎のために初化粧をしてモジモジとするメイも気が気ではなく、なにやら異様な反応を示す史郎に


「うお……」


と親友のカンナがドン引くのもどこ吹く風。

全く気が付かず、史郎から目を逸らしたまま


「ど、どう……」


顔を真っ赤にしながら口を覆いながら尋ねていた。

一方史郎は


(どうってそりゃ世界で一番可愛いよぉぉぉぉクソおおおおおおおおおおおおおおお!!!!)


血の涙を流した。


そしてこのようなことがあれば


『僕達!!!』

『私達は!!!』

『『『スポーツマンシップにのっとり健全な体育祭を行うことをここに誓います!!』』』


気分が上がるわけがない……!


「よ~~し! がんばるぞぉ~~!!」


憎しみの怨嗟を吐き出す史郎を余所に史郎の隣のナナはフンス!と鼻息荒くガッツポーズしていた。


時は朝食から数時間後の開会式である。

各校の代表が壇上に上がり選手宣誓を行っていた。


この七校対抗体育祭の会場には今、能力覚醒した七校の生徒のほぼ全員が集まっていた。

会場に3000人以上の若人が集っているのである。


端的に言って、『超』うるさい。


『あ、見てあの人!? カッコ良くない!?』


と中学生の女生徒が一回り上の高校生を指さし囁いたり


『(おい見たかあの子マジできれいだったぞ!?)』

『(見た見た……マジでヤバかったな……!!)』


他校の美少女を発見し息をひそめて


『(おおおお、俺後で話しかけに行くわ……!!)』

『(おい抜け駆けかよ!?!?)』

『(じゃぁ一緒に行くべ??)』

『『『(オッケーイ!!)』』』


などと話し合ったりしていた。


ちなみにそのような環境の中、メイはぶっちぎりの注目度を誇っていると言えた。

ただでさえ綺麗なメイがさらに丁度いい具合にうっすら化粧をしているのだ。

鬼に金棒というか鬼にエクスカリバー。

史上最強天下無敵。この世の美の集大成の様な有様なわけだ。

そのような存在が近くにいれば


「(お、見ろよアレ……)」

「(マジか確かに超美人だな……あんなん見たことねーぞ……)」


などと鼻の下を伸ばしてしまうのも仕方がないと思う。


そしてそのような不躾な視線を、メイの化粧の衝撃ですでに半死半生状態の史郎はギンッ! と鋭すぎる視線で追い払うしかなかった。


メイがこの大会で多くの男から言い寄られることは事前に予測できた。

なので一応数日前に既に、メイからおかしな男が絡んで来たら追い払って良いという許可は得ているのだ。


『え、え……、良いけど……、そんな必要あるの……??』


尋ねた時メイは顔を真っ赤にして動揺していたが、その意味は史郎に皆目見当がつかない。


また化粧をしていた理由も今の所は分からない。


(……)


(いや現実を見たくないのではない。誓って)


史郎は心の中で弁明した。

実際に、分からないのだ。

なぜなら一応史郎は息もからがらにあの後聞いたのだ。


『え? も、勿論凄く綺麗だけど……、な、なぜ今日なん……?』


と。

そうしたらメイは何やらそれまで以上に体をモジモジさせて


『あ、いや……、その……』


と言葉を濁したのだ。

当時、そして今も半死半生の史郎にはその対応の意味が分からない。

だが横にいたカンナは呆れたように言ったのだ。


『な~に当たり前のこと聞いてんだよ? ()()()()()だよ!』


と。


そしてそのカンナの言葉の意味が史郎にはまるで分からないのだ。


(なぜ体育祭当日に化粧をしてくることが俺のためになる……ッ)


(まるで分からない……!)


上記がここ数時間史郎が脳内で延々と繰り返した問答である。


体育祭という他校生徒と関わる日に化粧をしてくることが引いては自分のためになる。


そんな魔法のようなことがあるのであろうか。

皆目見当がつかないのである。

一応ナナにも聞いてみたが


『う~ん、それは難しいね。私もわかんないや』


と眉間にしわを寄せていた。


『まぁ私も化粧しないから化粧する人の気持ちも分からないけど』


とも言っていたが。


化粧する人の気持ちが分からないのは史郎とて同じだ。

そして同時に思うのだ。


自分にとって都合よく考えすぎちゃいないか、と。


客観的に見て大会の日に化粧をしてくるという事は、どこかに良い人がいたなら、普段の自分より上乗せした美貌で物にしたい、という意味であろう。


断じて今までいた人間のため、史郎のため、とはならないはずだ。


つまりそのような理解不能なカンナの『史郎のため』という言葉は、余りにもメイの化粧がショックで現実を拒むために史郎が無理やり聞いた幻聴なのではないかという可能性すらある。


というよりここ最近のメイへの入れ込み具合を考えると十分有り得るような気がするもので(普通に後光がさして見えるのだ)史郎はとりあえずこう考えることにした。


メイは自分に気が無い、と。


思わず涙が出そうになる悲しい想定だが、起きた現象だけ考えたらそう考えた方が『良い』。

妥当だとかどうのこうのではなく、その方が『良い』のだ。


なぜならまず第一にカンナの言葉の意味が分からぬ以上、無闇に楽観視するのは非常に危険だからだ。

そしてこのように最悪を想定しておけば後は()()()()()だからだ。


そして最悪を想定した第二の理由が以下だ。


そう、史郎、何も最悪を想定し『諦める』わけではないのだ。


メイが史郎に気が無いのなら、()()()()()()()()()()()()()()と考えたのだ。

だから心を入れ替えた。


史郎は既にメイにぞっこんだ。

何ならメイがいなければ生きていけないと言っても良い。

だからこそ例えメイが化粧をしていても、諦めるという選択肢は残されておらず、開会式の間思考を巡らし、史郎はその結論に到達したのだ。


何もただネガティブなわけではない、最悪を想定し、むしろだいぶポジティブなのである。


だからこそこの開会式の合間に史郎はメイを振り向かせようと決心しており


そうなると問題となるのはどのようにメイを振り向かせるか

なわけだが、忘れてはいけない。


史郎の恋愛価値観が小中学生レベルで留まっているという悲しい現実を。

なんなら駆けっこが早いとモテる小学校低学年レベルの謎価値観がまかり通っている節がある。

だからこそ史郎は


(雛櫛メイを絶対に物にするために……)


決意するのだ。


(お前ら全員ぶっ潰してやるッ!)と。


何の罪もない青少年たちに史郎の無情な暴力が迫ろうとしていた。


史郎が決意を新たにすると同時に開会式が終わり、ドンッドンッと空砲が上がった。



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