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第7話 『歩む旅路の北極星』


「九ノ枝史郎。お前を連れていくニャ……」


現れたのは猫のような印象を与える少女だ。

目深にパーカーを羽織うホットパンツに身を包む猫目の少女。


「なんだなんだ!?」

「おい向こうだ! 急げ!」


そして場所がTV局だからだろう。

爆音を聞き廊下の奥から無数の足音が近づいてくるのが聞こえてきた。

近くにいた大人たちは


「な……、なっ!?」


と、瞠目し尻もちをつき浅い息をついている。


このままじゃ危ない。


「来るな! 能力者だ!!」


即座に史郎はフロア全体に聞こえるよう声を張り上げた。そして


「来るのかニャ?」

「何言ってるかわからねーが、さっそくデリートだッ!」


速攻で少女に襲い掛かった。


周囲には無数のガラス片がある。

それが史郎に操られ一斉に少女に襲い掛かった。

だが少女もやり手であった。


「この程度ならなんとかなるニャ」


言って近くにあったベンチを持ち根こそぎぶん回す。

それによりガラス片は軒並み弾き落された。だが――


「視界が隠れてんぞ?」


ベンチを振り回した結果、真正面の視界が()()奪われる。

それで十分だった。

その僅かな隙に史郎は距離を詰めていて


「――死んどけ」


渾身の拳を横っ腹に叩きこんだ。

TV局から叩き出される形で少女の体が勢いよく吹っ飛ばされた。


ここで潰す。


史郎は追撃すべく即座に地上30メートルの虚空へ飛び出した。


◆◆◆


そして重要なのは史郎がいた場所がTV局だという事だ。


『来るな! 能力者だ!!』


史郎は静止を掛けた。

しかし報道を司る彼らの信念をたったそれだけで突き崩せるわけもなく、


『ご、ご覧くださいッ! の、能力者同士が戦いを始めました!』

『『未知の最強手アンノウントップオプション』との呼び名を取る九ノ枝史郎能力者が謎の能力者と交戦を始めています!!』

『え!? 世田谷区で戦闘警報!? と、とにかく私達は九ノ枝君の交戦模様を放送いたします!』


戦闘開始から数十秒。

早くも彼らのカメラは都内のビルとビルの合間を飛ぶように戦う史郎と少女の姿をとらえていた。


『緊急生中継』という形をもって、その映像は全国に流される。


◆◆◆


ここで潰す。

史郎は向かいのビルへ吹っ飛ぶ少女を追い一気に跳躍した。

そして追いつき、足蹴りを加えようとするが


「さすがにやられっぱなしじゃないニャ」


少女の瞳に光が躍った。素晴らしい反射神経で史郎の足を掴むとそのまま向かいのビルまでふっ飛ばした。


だが史郎とてこんな攻撃の受け身は楽勝。


史郎は向かいのビルに勢いよく着地するとそのまま数歩壁を走り、目的地にて、ダァンッと跳躍。


「なニャ!?」


今度こそ少女の真上を捕らえ


「落ちとけ」

「クッ――」


勢いよく体を回転させ、驚く少女の顔面にかかと落としを叩きこんだ。

少女の体が隕石の様に地上に落ちる。


そしてさらに史郎が追撃を加えようとした時だ。


「――ッ!?」


背後に気配を感じ振り向くと中空に外国人風の男がいた。


「喰らえ!!」


男が叫ぶと電車の車両のような太さ、長さの、巨大な炎の滝が史郎に襲い掛かった。

しかし空中にいる史郎はというと


「――ジャック」


「うそだろ――!?」


その襲い掛かる炎の操舵を奪い取りそのまま跳ね返した。




『見てください! 九ノ枝君が炎を跳ね返しました!!』


その映像を見てマイクを持った女は興奮した。




だが史郎はそれどころではない。

よく見ると周囲に炎使いだけではない。

水使いや雷使い、その他さまざまな敵がいたのだ。


地面に叩きつけられ軽く血を吐く少女は言う。


「念のために仲間を連れて着ておいて良かったニャ」


クソ、面倒なッ


史郎は歯軋りするが、周囲に敵がいるのだ。

構っていられない。

周囲の敵は一斉に史郎に襲い掛かった。

いるのは10名。

纏うオーラからして手練れの能力者。

だが――


――史郎の方が遥かに強い。


「クッ! ハイネスをよくも!」


空中に舞う女が手をかざすと瀑布のような洪水が溢れ出た。

やはりオリジナル能力者。能力のスケールが違う。

だが――


「嘘でしょ!?」


史郎が視線を送るだけでそれらはジャックされ海が割れるように史郎を避け二手に分かれる。

滝は二手に分かれ地面に流れ落ちる。

そしてTV局の壁面に着地した史郎に


「追い詰めたぜ!」

「逃がさないわ!」


刀とハンマーを現出した二人の能力者が襲い掛かる。

が、あっさりと刀が放つ斬撃を史郎はしゃがみ躱し、その女の頬に裏拳を叩きこむ。


落ちていく女と入れ替わるように米俵のように巨大なハンマーを振るう男が現れるが、その攻撃を真正面から受け止める。

それにより生まれた衝撃波が辺り一帯のガラスを一斉に割った。


「なんだぁ!?」

「すげぇ!?」

「九ノ枝だ! 九ノ枝が戦ってるぞ!?」


おかげで当然局内部からの声が聞こえてくるが気にしていられない。


「――落ちろ」


史郎は男をそのまま背負い投げの要領で担ぎ、地面に向かいふっ飛ばした。


下方から二連続で轟音が響く。


そして都合の良いことに、この先の男の一撃で、ガラス片という格好の武器が出来た。


そしてそれら武器が


「ハイネス、リンダ、ケビンがやられたわ!」

「やはり半端じゃねぇ!!」

「おい敵が想像以上だお前ら注意しろ!」


と注意を飛ばし合う敵に殺到した。


「あ――、なん」


言葉すら言い切ることが出来ない。

ガラス片は一瞬で彼らのいる場所をすり抜け、彼らをズタボロにした。


3人の構成員が全身から血を流し地面に力なく落下していく


立て続けに5人がやられた。

その事実に空中を緩やかに泳いでいた敵が驚愕に包まれる。


そしてそこに悪魔(しろう)が壁を蹴り突っ込んだ。


「嘘!?」


余りの速さに目を見開く女の顔面にかかとを叩きこむ。

あっさりとやられる女。

立て続けに史郎に鞭状のウェポン能力が飛んでくるが、史郎はそれを空中で体勢を立て直し回避。

顔のすぐわきを通り抜けたそれを掴み、無理やり引き寄せやはり裏拳を顔面に入れる。

続けて二人の能力者が史郎に襲い掛かるが、それら拳をしゃがんで躱しきり、まず片方の胸倉を掴み投げ飛ばし、残す一人には体を捻り蹴りを突き刺した。

二人は壁に盛大に叩きつけられた。


こうして複数の能力者を倒し、再度向かいのビルの壁面に着地する史郎。


そこに緑色に光るレーザーが飛来した。


見ると一人生き残っていた女がウェポン型の空中に浮かぶ一匹の機械型の金魚を発生させていて、その口から吐き出されたのだ。


だがそのレーザーをジャック。

虫でも払うように腕を払い曲げて、史郎は天上にいる女に向けオーラ刀を投擲した。


「嘘でしょ」


瞬く間にオーラ刀は少女に迫り、直前でビーム状に崩れ女を焼き尽くす。

そして焼き尽くされた落ちる女に追撃。

回転蹴りを叩きこんだ。


これで全員。

こうして史郎は周囲にいた10人の能力者を瞬く間に倒しきった。

かかったのは20秒足らず。


「ハハハ、焼け石とはまさにこれニャ……」


地上で再び会いまみえた猫のような少女は笑った。


「仕方がないから本気で行くニャ……!」


女の瞳が赤く光った。


何か来る。


史郎が警戒を強めた。




既に辺りは悲鳴や爆音で満たされていた。

先ほどの炎熱攻撃が建物に当たり火が出たのだ。

またガラスや洪水、それらが辺りに飛散周囲には至る所で火の手が上がり始めていた。


道路も同様。


突如今噂の能力者が大規模バトルを始めて皆が車を乗り捨てて逃げまどっていた。


そんな中、史郎と女は対峙した。


◆◆◆


感想は、この女、なかなか強い、だった。


「ほいニャ!」

「そいニャ!」


女は立て続けに史郎に拳を叩きこんでくる。

いずれも致命的ではないのだが、確実に史郎にダメージを入れてくる。


しかも攻撃に違和感があるのだ。


少女は右拳を振りぬく。

当然史郎はあっさり避けるのだが、ズンッ!と左わき腹に鈍い衝撃。

見ると女が操ったのだろう標識がめり込んでいて


「いってぇ!」


史郎は無理くり、ふっ飛ばされた。

普段ならばこんなことは無い。

普段の史郎ならば、このような攻撃はあっさり感知し避けきる。


しかしなぜかそれが出来ない。


しかも少女の瞳が赤く光って以降、史郎の攻撃がなぜか躱されるのだ。


「そんな攻撃当たらんニャ」


史郎の操るガラス片をやすやす避けきりながら少女は笑った。

そして対応に苦慮する史郎に、即座に少女は突っ込んだ。


「これで終わりニャ」


当然、倒せるときに倒すのが必定だからだ。


少女が史郎に突っ込んでくる。


だが史郎とてやられてばかりではない。


実は史郎、戦いながら女の能力を調べていたのだ。


そしてあっさりと史郎の攻撃を避けたことで確信する。


この全てを見透かしたように攻撃を避けきり、防御を透かしてくる戦闘スタイル。


恐らく女の『個別能力』を起因としたバトルスタイルで、この女が保有する能力はやはり、リツの『ひずみの視認』によく似た能力だ、と。


かつて史郎はあまりにも理不尽な暴力にリツに決闘を申し込んだことがある。


その際自分に振るわれたのが今のような戦闘スタイルだったのだ。


『ひずみの視認』はその物体に生じている『ひずみ』を視認する能力である。


それによりリツは


敵の防御の隙、防御のひずみを視認し、そこに拳を叩きこみ、

敵の攻撃のひずみ、わずかある退路を視認し、あっさりと攻撃を避けきる。


という戦闘スタイルを得意とする。


付いた二つ名が『不平等戦闘術アンフェアバトルアーツ


それとこの女の戦闘方法は酷似している。


つまり詳細は分からないが、『ひずみの視認』と相似するような能力を有しているという事だ。


そして史郎は、リツを如何にして倒すか、などということは()()()()()()()()


その結果得た回答とは――


史郎はノルアドレナリンを全開に開放する。

それにより極限まで集中力を高め――


「ニャに!?」


史郎の状態が変化し少女は目を剥いた。

同時に


「フグッ!」


顔面に拳が叩き込まれた。


対『ひずみの視認』で史郎がした対策、それは――


極限まで集中力を高め『隙』を無くし『ひずみの視認』の効果を無効化すること。


女の能力が何かは分からないが、史郎の選択は正解だったようだ。


「ニャ、ニャんだと……」


女は鼻から血を流しながら瞠目していた。


そしてそこからは一方的だった。


「嘘ニャ!」

「嘘じゃ、ない!」


史郎の拳があっさりと腹部に叩き込まれる。

少女が隙をついてがれきを史郎の背後から飛ばすが


「それももう読める!」


史郎のテレキネシスにより強制的にジャックされ、操られ、女に殺到する。

それを少女はなんとか避けきるが


「ナッ!?」


間髪入れず史郎が迫っていて、史郎の拳が少女の顔面に容赦なく叩き込まれた。


解法を得てからは圧倒的だった。


確かに女の戦闘方法をリツの戦闘方法は酷似しているが、それは相似しているというだけで、戦闘力は


「リツの方が圧倒的に強いからな……」


それが圧勝の要因である。

史郎の冷徹な瞳が、ボロ雑巾の様になり地面に這いつくばる少女を捕らえた。


だが少女は諦めなかったのだ。



――そして後から見ればその諦めない尊い精神こそが、少女にとって最大の不幸となった。



少女は史郎を『捕らえる』などというおかしなことを言っていた。

だからこそ生かして捕獲したい。

そんなことを思いながら史郎は地面に倒れた少女を見ていたのだが、血だらけの少女は息も絶え絶え起き上がると言ったのだ。


「ま、まだニャ……。諦めないニャ……」


そして少女は頭痛を堪えるかのように右目を含む顔の半分を手で覆うと、


「フッ……!」


俄かに力みだしたのだ。それに伴い見える左目が今まで以上の光を宿す。

赤く光る目の奥で何かが高速で回転し、回転数が上がるとともにその瞳の光量が上がる。

空気を掻きまわす駆動音が唸る。


「お前、一体何をしているんだ……」


異常事態。史郎が警戒を強め問うと、少女は哄笑を上げた。


「何って探しているんだニャ、九ノ枝史郎……! 僕の個別能力は『歩む旅路の北極星』……! 僕が求めるものがどこにあるか、どんな形をしているか()()()んだニャ……! それによって史郎、貴様の死角を視て攻撃をしたんだニャ……! そして……!」


史郎を絶望させるように叫ぶ。


「この能力は僕が()()()()、史郎、お前の()()()()()()()()ことが出来るニャ……! そう、史郎、お前が大切にしている、お前の弱点になり得る、この世で()()()()()()()や『()()』も視れるんだニャ! そして今僕はそれを視ているんだニャ……!史郎、とっても()()()()だニャァ……!? 史郎には勿体ないくらい()()()()だニャァ……!? 黒髪のショートカットの()()()()だニャァ史郎……!? 名前はなんて言うんだニャ、史郎!? 今いるのはここから南西に二十キロくらいかニャ……?」


「――ッ!?」


そう、この女はその能力により、今、史郎がこの世で最も大切にしているものを視ているのだ。


史郎にとってこの世で最も大事な、


『大丈夫、九ノ枝君?』


()()()()を視ているのだ。


瞬間、体が動いた――


「ニャに!?」


次の瞬間、少女が苦悶の表情を浮かべながら見たのは、クルクルと回転する視界と、遥か高みに(そび)える自分の体だった。



史郎がオーラ刀で目にも止まらぬ速さで女を断頭したのだ。



「そいつに手を出したらお前を()()


そして史郎は凄まじい殺気を放ちながら少女の遺体を睨み、言う。


「――あぁでも、もう死んだな」


史郎の横にはもはや物言わなくなったモノが転がっていた。




「たたたたたった今、九ノ枝君が敵を殺害しました!! 映像ではお見せできませんが今九ノ枝君が敵を殺害しました! ちょっとカメラ、映せるとこだけ映して……!」


(やりすぎた)


そうして記者の声を遠くに聞きながら史郎は後悔の念に駆られていた。


メイの命を人質に取られ時点で殺害は決定事項なのだが、カメラの目があることがすっかり頭から抜けていた。

即行で殺すにしてももう少し他にもやり方があっただろう。


(しかも結局なぜ俺を捕らえるのかも聞けずじまいだったし)


だがこれについては後悔しても仕方がない。

敵は死んでしまったのだ。

それに今重要なのは覚醒した生徒達だ。

アラームが鳴ったということは今現在『第二世界侵攻』が覚醒した生徒達を殺しに来ているという事だ。

それこそメイの命が危ない。

鈴木討伐で有望視されている晴嵐高校はリツとナナの二人が警備にあたっているのだ大丈夫だとは思うが、一刻も早く応援に向かいたい。


そう史郎が思って行動に起こそうとした時だ、


「あー、見事にやられてんなぁ。ナコの奴」


遥か天から声がした。


見ると月夜を背景に立っていたのは、真っ赤なドレスを着た女。


欧州最強『血の薔薇姫ブラッドローズクイーン


ベルカイラ・ラーゼフォルン。


その人物が立っていた。






BPOぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!(´・ω・`)




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