五ノ文 悲哀箱舟
犀サイは、紅アカの前マエに飛トび出ダした。
―生イきるんだよ、紅アカ。
灰色ハイイロの眼メが、優ヤサしく。
紅アカを見ミつめる。
身体カラダを、包ツツみ込コむ。
―ノア、紅アカの変カわりに僕ボクを連ツれていけ。
言葉コトバの意味イミが、解ワカらない。
止ヤめて。
ヲォ……ヲヲォ…ぉんン
静シズかに、何ナニかが、何処ドコかを、通トオり抜ヌけた。
つぅ、っと。
垂タれる、水滴スイテキ。
。真っ赤マッカな、真っ赤マッカな。
紅アカは、叫サケんだ。
哀カナしいと。
灰色ハイイロの眼メ。
犀サイは静シズかに言イった。
―良イいかい紅アカ。
―ノアに逆サカらってはダメだ。
―この世界セカイは、ノアが作ツクった。
蕩々トウトウと、澱ヨドみ無ナく犀サイは語カタる。
ヲォ……ヲヲォ…ぉんン
―喋シャベり過スぎよ、不死フシの灰色ハイイロ。
雷鳴ライメイ。
何ナニが起オこっているのか、紅アカには解ワカらなかった。
―哀カナしまないで。
辛ツラそうに、息イキをする。
―唯タダ、僕ボクは、やっと、死シねる。
。ふぅ、と、満足気マンゾクゲに息イキを吐ハいて。
犀サイは崩クズれて、消キえた。
―いい気味キミ。
薄情ハクジョウな言葉コトバが、谺コダマする。
紅アカは辺アタりを見渡ミワタした。
―可愛カワイい紅クレナイ、私ワタシを探サガしているのね?
人間ニンゲンでは、有アりえない。
静シズかに、ノアは立タっていた。
冷ツメたい空気クウキを纏マトい。
―手テの内ウチで踊オドる可愛カワイい彩イロドりたち。
―ほら、私ワタシに気キに入イられる様ヨウに踊オドって御覧ゴラン。
信シンじられない。
厭イヤだ、この人ヒトに関カカわるのは。
取トり込コまれてしまう。
重オモい口クチを、紅アカは開ヒラいた。
―もしも、あなたがこの世界セカイを作ツクったのだとしたら。
―作ツクったのだと……したら。
唯タダ君キミに振フり向ムいて欲ホいと、言イった彼カレ。
。どうして犀サイを殺コロしたの。
貴女アナタのせいよ、とノアは言イった。
―彼カレも、貴女アナタも私ワタシが作ツクった物モノなのに。
―灰色ハイイロは貴女アナタに夢中ムチュウだった。
―淋サビしすぎるわ、そんなの。
厭イヤだ、厭イヤだ厭イヤだ厭イヤだ!
逃ニげ出ダしたい。
気キが狂クルう。
我慢ガマンなんて出来デキそうもない。
強ツヨすぎる力チカラの前マエでは、そんな物モノ無意味ムイミだ。
―哀カナしい、あなたは哀カナしい。
―無ナいんだ……あなたには、何ナニも。
哀カナしい生イきものだ。
作ツクった彼女カノジョも、作ツクられた私ワタシも。
唯タダ哀カナしいだけでしょう、犀サイ。
。ふつり、と思考シコウが途切トギれ、後アトには何ナンにもなくなった。
頭の字(「―」除く)を繋げると……。




