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血盟クロスリリィ  作者: 猫郷 莱日
二章 ≪賽は投げられた≫
30/43

次代をつくりし者は 3




お久しぶりです。

ようやくリアルが落ち着いたので、執筆時間が取れました。


1話だけではありますが、どうぞご覧下さい。

間が空き過ぎて内容をお忘れの方には申し訳ありません。

少し遡って読んでいただき、ぜひ思い出してくだされば幸いです。





 ウィスタリアの豹変から受けた衝撃が強く、謁見の間にいるヴァンパイア達はしばらく動けずにいた。


『どこまでも誠実に真摯に相手に応えようとする健気な子で、困っちゃうくらい頑張り屋さんなのです。アルゲントゥムの役目を真面目に考えて悩んだり、アタクシの機微を感じとって心に響く言葉をくれたり…毎日を一生懸命に生きる姿が愛らしくて、子供を持つって幸せなことだと日々噛みしめておりますわ』


 すでに五分近く一人で喋り続けているウィスタリアに、困惑を隠せない様相でレクスが言葉を挟む。


「分かった、お前が娘を溺愛しているのは十分に分かった。だから娘の話を止めろ」


『ですがこの程度の話ではラ・フィュの魅力があまり伝わっていないかと思います』


「いいや、そちらもよく伝わった。ヴァンパイアでも類を見ないほど美しく、努力家で真面な素晴らしい娘なのだろう?」


『はいっ』


「しっかり分かったよ。後は実際に会った時にでも確かめるさ」


『…………はい』


「なんだ、その長い間は」


ラ・フィュの素晴らしさを知る人が増えて嬉しいのと、会って魅力に狂ってしまわないかと心配する気持ちが複雑で……』


「………ふう。タリアがヴォルペスと同類だったことが今日一番の驚きだな」


レクスと言えども聞き捨てなりませんね。アタクシはそこの男とは違います』


「…うむ。そういうことにしておこう」


 納得いかないと不満げなウィスタリア。


 レクスは珍しいことに疲れを見せている。

 気分を変えようとサリーサをすぐそばまで近寄らせ、頬を撫でた。労わるような柔らかい眼差しでサリーサもレクスの好きにさせる。


「それで。そこまで溺愛する娘は今どうしているんだ」


『今日から学園に通っています』


「なるほど。文字通りの学び舎か。ヴァンパイアになりたてなら丁度いいだろうな」


『いざという時に助けられないと心配過ぎて心臓が潰れそうなので、プリムローザさんによろしく頼みました』


 ウィスタリアは苦しげに胸に手を当て、リーリウムはどうしてるかと思い馳せる。

 しかしヴォルペスはそうもいかず、ウィスタリアの話す内容を聞きとがめた。


「おい。それも聞いていないぞ。全く…ローズは親に隠し事をする遊びでも始めたのか…」


『母親のアスお姉さまには許可を取っています』


「アスもか!?……そういえば最近、妙に挙動不審だったような」


 母子揃ってイタズラでも企んでいるのか。ヴォルペスはブツブツ呟く。


「ほう。次の六王玉ドミナスの最有力候補が、アルゲントゥムの末姫と一緒か。これはまた面白そうなことになっているな」


レクス。あくまでも成長込みのまだ先の未来予想でしょう。我が娘が優秀なのは間違いありませんが、軽々しく六王玉ドミナスの最有力候補などとおっしゃらないで頂きたい」


「はは、お前はこういうことに関してはお堅い」


『アルゲントゥムの末姫……っは!ラ・フィュじゃなくプティット・フィュでも良かったのかしら…リリィに姉として慕われるのも悪くなかったかも…いえ、でもプティット・フィュはイーリスがいるし…』


「…なあヴォルペス。タリアがこんなやつだったと我は初めて知ったぞ」


「…そうですな。私もこんなウィスタリアの姿を見たことはありません」


「まさかこれから先々で娘自慢をするのか?仮にも完璧な淑女と名高い氷銀女王が」


「………哀れなほど混乱する同胞達の姿が目に浮かぶようです」


 お気に入りの中でも上位のウィスタリア。そんな彼女の新たな一面を見ることができ、微妙な心境ではあるものの楽しげなレクスは哀愁漂うヴォルペスを見て声をあげて笑う。


「はっはっは!実に愉快。早く仔狸と末姫のセットを見たいものだ」


 脳裏に浮かぶは金と銀。ヴァンパイアが誇る二振りのちからを継ぎし者。


「富のスファレイトにつるぎのアルゲントゥムが揃うなど…なんとも面白そうな世代ではないか。加えて片や純血のヴァンパイア、片や元人間のファミリア。であるのに、友となれるだけ波長が合う」


 不思議なものだ。

 真逆の生い立ちと立場であった二人が、今では同じ学び舎で過ごす友となっている。


「火遊びが好きな子狸の目に、爆弾を抱えた末姫はどう映っているのやら」


「爆弾?」


「なんだ、知らないのかヴォルペス。末姫は人間どもの起爆剤、それもとびっきり厄介で面倒な代物だよ」


「…どういうことだ」


 聞いていないぞウィスタリア。


 凶悪な顔に凄みを加え、重低音の声がウィスタリアに向けられる。

 予期していた反応に、ウィスタリアは平然と答えた。


ラ・フィュは人間達の中でも特殊な立ち位置にいる人間の血を引いていたわ。人間の両親はどちらも、ね。貴方も聞き覚えくらいはあるんじゃないかしら。母親は氷丘ひおか まき――父親は、氷丘ひおか 司翠しすい


「ヒオカ・マキにヒオカ・シスイ。………ヒオカ?…ヒオカって…おいっ!その名は」


 言葉の意味を理解し、徐々に大きく開かれる目。

 そんなヴォルペスを気にもせず、レクスは淡々と事実を述べる。


「日本の警察の、対ヴァンパイア組織の責任者だ。人間にしては優秀で、話の分かる。それが末姫の人間の父だ」


『氷丘 司翠はどこの家の出か、言わなくても知っているでしょう』


「……の奇術師の末裔だろう」


 日本で名を馳せた稀代の天才。その実在を後世の人間に疑われるほど、人間としては有り得ない存在だった。


「俗物のハンターに頭のおかしい教団と続いて、粘着質な奇術師。やはり今代は世界が動くか」


 娘には楽しく幸せに生きてほしいんだがな。

 ヴォルペスの呟きは、深い諦観を滲ませている。


 ウィスタリアはそれに同意も否定もできない。リーリウム・アルゲントゥムを娘としたのは自分の意思で、後悔しているような意味にもとれる言葉は、絶対に言いたくないし、言わない。



 幾ばくかの時を待ち、ウィスタリアは口を開く。


『遅くなりましたが、此度の謁見の要件をお話しさせて頂いても?』


「おお、そうであった。ヴォルペスの話から脱線しすぎたな。うむ、話すがいい」


「さりげなく私のせいにされた気がしますが…」


「気のせいだ」


「…そういうことにしておきます」


 疲れた顔のヴォルペスを一瞥してから、遠回りにすぎるが、ウィスタリアはようやく本題を話し始めた。


『一部の違法浮浪者イリーガルが纏まりを見せつつある、という件で、報告したい事がございます』


「む、何か分かったのか」


『はい。アタクシが担当しているアジア領で、とある違法浮浪者イリーガルを生け捕りにしたところ、何者かが違法浮浪者イリーガル達の中心にいることが分かりました』


「それは奇妙だな。違法浮浪者イリーガルは縛られることを良しとしない、われの支配を拒んだ上に犯罪を犯す奴らだ。それが纏まりを見せるだけでも異常なのに、一人に従う、あまつさえ長として仰ぐなど考えられない」


「ウィスタリア、その捉えた違法浮浪者イリーガルから得られた情報の正確な内容を教えてくれ」


 顔色を変えるレクスとヴォルペスに、ウィスタリアは首肯し詳細を語った。


『捉えた違法浮浪者イリーガルが話したことは二つです。レクスに大変不敬なものですので、心してお聞きくださいませ』



≪我等の“真の長”がお戻りになられた≫

≪下等生物どもは再び知ることになる。世界を統べるは我等なのだ≫



 “真の長”とは。レクスに喧嘩を売るような文句に、思わずヴォルペスは不快に眉を寄せる。

 一方、レクスは口角をつり上げ、獰猛な笑みを見せた。


「言ってくれるな。我を差し置いて長を語るとは」


『はい。侮りが過ぎる言葉に、アタクシも耐え切れずその場で処分いたしました』


「我が最年少だからか?表だって大きな力を見せていないからか?……だから、軽視されたのか…?」


 深まる笑顔。


 本来、笑みとは獣が牙をむき出す行為。

 敵と見定めたものへの、最大限の威嚇なのだ。つまり、闘争の幕開けとなる、前段階である。


「っは…あーっはっはっは!―――ふざけるなよ雑魚が!我は先代である二代目を越えた故に、レクスになったのだ!」


 空気が弾けた。


 走る幾つもの光。バチバチと鳴り響く危険な音。

 ぶわりと吹き出す憤怒と敵意に満ちた妖力が謁見の間を駆け抜けた。


「その我をして、長に相応しくないと言うか!」


 長い髪が怒りで広がり巻き上げられ、強風の中にあるが如く乱れている。

 瞳孔が縦に細く伸び、深紅の輝きを纏った。


 周囲の近衛達はこれにも動じず、先ほどと変わらぬ位置で直立している。よく見ると薄ら冷や汗をかいている以外、変化はない。


 ウィスタリアとヴォルペスは臣下として、強い忠誠の光をたたえ始めの挨拶より深く低く腰を折った。


「我等がレクス、真なる支配者は御身をおいて他にはおりますまい。我等が敬愛し、身も心も魂も捧げるのは、服従する御方は御身だけ。長は、この世を統治するのは、貴女様でございます」


『我等が親愛なるレクス、二グラ・アーラ・フルメン・パエオーニア様。我が忠誠は御身ただ一人のもの。月の剣アルゲントゥム・ルーナエは、全力で貴女様の名を貶めた者どもを斬り捨てましょう』


 一片の曇りなき忠誠心から紡がれる臣下の言葉。

 可愛い臣下たち。その二人を前にして、レクスはふっと眼差しを和らげ、力を抜いた。


「我はレクスだ。その我が侮られたままでは終われない」


 私情ではない。支配下のヴァンパイア達の上に立つ唯一絶対の存在だからこそ、果たさねばならぬ責任と義務がある。


「なあウィスタリア」


 普段は見せぬレクスとしての、上に立つものの顔。

 王者の風格を漂わせ、支配者の瞳でウィスタリアに確認・・する。


「『戻った』『再び知る』…違法浮浪者イリーガル。これらが意味することは、一つ。―――【天鬼ロカ・ラルウァ】が再臨した。そういうことだろう?」


 禁忌タブーの代名詞。みだりに口にする者はいない、災厄の名を告げ、ウィスタリアの首肯と共にレクスは不敵にわらう。


「いい歳して落ち着きがない時代遅れのババアには、さっさと隠居してもらおうか」







投稿期間が空いても見捨てずに待ち、読んでくださった方々、ありがとうございました。

来月は通常通り最低2話は更新できると思います。

これからも宜しくお願いします。



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