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第56話:臨時ボーナス記録更新

 食事を終えて、リビングのソファに向かったアスマさんが小躍りしてた。

 何があったのだろうか?


 近づいていって、声を掛ける。

 スマホを握りしめたアスマさんが、満面の笑みで振り返ってドヤッてきた。


「ついに、万バズいったぞ!」


 何を言ってるのだろうか、この骸骨は。

 というか、ついにSNSにまで手をだしていたのか。


 どうやら、ツイーターに投稿した呟きがバズったらしい。

 動画……うん、動画が原因だな。

 新しい魔法を開発したというツィットー。

 

 魔法はどうでもよさそうだ。

 問題はアスマさんが顔出ししていること。

 そして、撮影場所がこの村の広場。


 アスマさんが、カラフルな火花を手のひらから散らしている画像。

 花火かな?

 コメント欄にも、手のひらに直接火薬を乗せたのか? というコメントが多い。

 トリックがあると思われているかもしれないが、そこまで議論されていない。

 アスマさんのインパクトが強すぎて。

 コメントの欄にも、そっちに言及するものが多い。


『人に見えないのですが、ガイコツ(外国)の方ですか?』

『異世界に人外リ「ボーン」した方じゃないでしょうか?』

『随分と手の凝った動画ですが、さぞや骨を折られたことでしょう』

『これ背景はCGじゃないっぽい。スケール飛ん(スケルトン)でんなー』

『天才多すぎ』


 と定番の大喜利まで始まる始末。

 さらには、


『後ろを横切った緑の人可愛い』

『ゴブリンっていう設定かな? 色塗っただけの人っぽいけど』

『そこは手抜きか』

『緑色のイケメンもいたけど、メイクさせずに普通に出した方がいいんじゃないか』


 などといったコメントも散見された。

 いや、普通にゴブリンなんだけどね。

 言ったところで、信じてもらえないだろうし。


『アスマ、おまえ有名人じゃん』

 

 ってコメントもあったから、相互フォローしてる相手もいるのかな?

 

「通知がなりやまないのじゃ」


 いや、通知切ったらいいじゃん。


「言ってみたかったセリフの一つじゃ。食事の前に予兆があったでのう。とっくに切っておる」


 腹立つわーこのじいさん。

 ついこの間、15チャンネルにスレ立てして一瞬で埋もれていって、orzみたいなポーズ取ってたくせに。

 ちなみにスレタイは、『エルダーリッチだけど何か質問ある?』だった。

 本当に3つくらい質問が出たくらいだし、それもネタ認定でのノリでの質問だった。

 

「未来人やタイプリープ系のこの手のスレは、コピペまであるというのに」


 いやいや、なんていうか……運要素がでかいからね。

 住人に恵まれてこそ、初めて伸びるというか。

 あとは、どれだけ設定を組めるか。

 本物だから、その部分に関しては……まあ、エルダーリッチがスマホをいじってスレ立てしてる時点で、設定崩壊してると思われても仕方ないか。


「おお、サトウ! なんたら情報局とやらから、転載していいかと来ておる! あとテレビ局から、この動画を使わせて欲しいという依頼も! DM待ってるらしいぞ!」


 はしゃいでいるけど、これを日本の地上波で流してもいいのだろうか?

 うまい具合に、ホラーか面白動画系統の番組で流してくれるのだろうけど。

 まあ、海外の投稿ビデオみたいな印象はある。

 あの宇宙人に襲われたり、化物に襲われたり、ありえない大きさの生物がいたりと、どう考えてもCGなあれ。

 やりすぎて、CG以外考えられないあれ。

 幽霊動画すらも、怪しく見える海外の投稿動画。

 あれと同じ匂いがするクオリティーだから、大丈夫だろう。

 ただ……アスマさんが撮った動画が、あれと同じ匂いがするクオリティーってことは……

 あの中に、もしかすると本物もあるかもしれないということか。


 無いとは思うけど、異世界に来たり神に近い存在とか魔物と実際に触れあってるからなー。

 ちょっと、笑いながらそういった不思議動画を見られなくなってしまったかもしれない。


 次の日に、ジャッキーさんが来た。

 少し機嫌が悪そう。

 もしかして、アスマさんの動画の件かな?


「不本意です」


 違った。


「いや、確かに方法としては良いことだと思いますし、結果も予想外で素晴らしいですよ?」


 唐突に、なんだろう?

 主語が無いから、ちょっと何言ってるか分かんない。


「ただ……これは、ちょっと。マジーン様も爆笑してましたし、ツボに入ったのでしょう。だからこそ、この評価なのでしょうが……」


 そういって、ジャッキーさんが封筒を出してきた。

 分厚い。

 でも、前回は千円札の束だったし。

 ここまでが演出で、期待させるための伏線か?


「現金での臨時ボーナスで、この額は私ですら受け取ったことがありません」


 中身を見てみる。

 えっ?

 思わず、ジャッキーさんの方を二度見してしまった。


「本物ですよ! 諭吉さん180人です!」


 ヤバイ。

 これは、凄い!

 てか、年収が下手したら臨時ボーナス合わせて、1500くらいになるんじゃないのか?

 でも、使い道が。


「当初の予測では、人に抗えるレベルのゴブリンの国を作ってゴブリンキングを生み出し、人の脅威となりえる存在にするかと思ってました」


 いや、特にそんなに細かい指示は来てなかったし。


「東に人に困らされた魔物あれば、行って人を追い払い。西に人に襲われたゴブリンあれば、行って人を押し。南に逃走で疲れたゴブリンあれば、行って国に連れて帰り、北に人に泣かされたゴブリンあれば「もういいですか?」」


 なんか、長くなりそうだったので途中で遮る。

 というか、何が言いたいのだろう?


「ゴブリンと人を結び付け、また子爵領とはいえ交流を持てるようになったことで、ゴブリンの絶滅の危険性が大幅に下がったとの評価です」


 なるほど。

 でも、絶滅しないのは、うちのゴブリン達だけじゃないかな?


「ここのゴブリン達が繁殖を続け、各地に散らばれば……まあ、各々の地でリーダーとして群れをまとめるくらいは」


 そうか。

 いや、派遣するつもりはないけど。


 とりあえず、このボーナスはあれだな。

 イッヌとゴブリナのために使おう。

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