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第43話:ミレーネ無双

「避けるな! 弾くな! 防ぐな!」


 ミレーネが叫びながら、石をランスロットに次々と投げている。

 そして、続々とゴブリン達がバハムルの部隊の人を連れて帰還。

 連れてこられた人たちは、ミレーネの剣幕を見てビクッとなってるけど。

 まあ、仕方ないよね。

 あれだけ好き勝手言ってたら。


「まさか、ゴブリンの集落に捕らえられて一ヶ月も無事だなんて、思いもよらなくて」

「言いたいことは、それだけか!」


 ランスロットが必死に石を防ぎながら、言い訳してるけど。

 ミレーネの怒りが収まる様子はない。


 むしろ酷くなってる気がする。


「悪いと思うなら、一発くらいまともに受けてみろ」


 ああ、当たらないから余計に腹が立つのね。

 うんうん、分かる分かる。


 捕虜にハッピーマッシュを食わせようとしているキノコマルを見て、頷く。


「なんすか? なんか悲しそうな顔してるから、幸せにしてあげようと思っただけっすよ」


 そのやり方は、よくないと思うぞー。


「お兄様も、お兄様です!」


 あっ、怒りの矛先がバハムルに向かった。

 バハムルが、ビクッとなってるけど。


「い……妹よ! 無事でよかった!」

「その言葉、最初に声を掛けた時に聞きたかったですわね」


 恐る恐る声をだしたバハムルに向かって、ミレーネが石を投げる。


「痛い! 痛いではないか妹よ! やめるのだ」


 こっちは、結構な数の石に被弾している。

 少しだけ、ミレーネの怒りが和らいでいる。


「おそらく、これで全員です」


 そして、ゲソチが並べられた騎士たちを前に、俺に声を掛けてきた。

 うーん、これだけの人員を預かるような場所はないし。


「俺たち殺されるのかな?」

「というか、ゴブリンのくせに異常に強すぎだろ」

「そもそも、こいつらゴブリンなのか?」


 何やら、コソコソと話しているけど。

 とりあえずバハムルとランスロットがいれば問題ない気がする。

 他にも貴族の身内とかいる?


 結構な数いるみたいだ。

 流石に多すぎてもあれなので、人質として価値がありそうな人を数人一緒に預かる。


「とりあえずこっちで話し合いするから、外で野営でもして待ってて。持ってきてる?」

「な……何をですか?」

「いや、テントとかの野営セット」

「い、一応は」


 じゃあ、それで。

 なければ、土魔法でと思ったけど。


「た……ただ、食料にそこまでの余裕は」


 そうなのか。

 じゃあ、それは多少こっちで提供しよう。

 うん、ジャッキーさんに大量の菓子パンとかお菓子を買ってきてもらったのが、ビルの空き部屋に突っ込んであるし。

 一応、非常食として日持ちするものも、大量に置いてあるし。

 一部、腐敗防止と状態保持の魔法を掛けたうえで、冷凍やら冷蔵で保管してあるし。


「こ……これは」

「このような、入れ物を見たことが無い」

「これは、袋なのか?」


 ビニールにかなり驚いているけど、ゴブリンが開け方を教えている。

 いちおう、見張りとしてゴブエモン達を、騎士たちの野営地の周囲においておく。

 連絡係としても。

 何かあったらゴブエモンに言うようにと、外に出す騎士の代表に伝える。


 さて……と。


「ミレーネ、もういいか?」

「まだだサトウ! まだ、足りない! まさか、兄上まで私が分からなかったなんて」

「だって、ランスロットが「だっても、へちまもない!」」


 いや、その言葉はこっちの世界じゃ通じないんじゃないかな?

 アスマさんと一緒に映像を見たり、勉強して日本の本とかも読み始めてたもんね。


***

 場所を移して、俺の家のリビングに。

 迎賓館ぜんぜん使ってないけど。

 まあ、俺が落ち着くからこっちで良いんだけどね。

 ただ、汚いから浄化と洗浄の魔法を掛けたうえで、先に風呂に入ってさっぱりしてもらってきた。

 着替えもこっちで、準備したもの。


 風呂に向かう途中で、リビングで本を読んでいたアスマさんを見て2人の頬がひくついていた。


「こ……これは」

「ただのリッチではないですぞ! いや、なんといいますか」


 そうだよね。

 ソファに寝転がって、本を読んでるからね。

 ただのリッチなら、ダンジョン内の岩肌むき出しの書斎で本とか読んでるイメージだし。


「ん? 客か?」

「ああ、ミレーネの身内」

「そうか」


 それだけ言って、また本の続きを。

 真剣な眼差しだけど、漫画だ。

 キリのいいところまでと言って、迎撃戦に参加してくれなかったわけだが。


「なんだ?」

「いや、別に」

「わしがおらずとも、問題はあるまい」

「いや、そうなんだけどさ……なんか釈然としないというか。そうだ! アスマさん、その漫画の結末だけど「わー---! 言うな! 絶対に言うなよ!」」


 なんかモヤっとしたから、ネタバレしようとしたら凄い慌てて耳を塞いでいた。

 耳無いけど。

 抑えている場所に、穴が空いてたのは見た。

 そうか、あそこから音が聞こえているのかな?

 そうは思えないが。


「つい、人間だったころの癖じゃ! 聞こえるから、言うなよ! 頼むから言わないでくれ!」


 本気で懇願してくる様子を見て、毒気が抜かれてしまった。

 仕方ない。


「一応、ギリお客さんだから、あんまりだらしない格好でいないでね」

「うむ、分かった」


 そう言って、椅子に座りなおす骸骨を見て頷く。


「ア……アスマ?」

「聞き間違いでなければ……」

「国滅の……」


 ただの居候のおじいちゃんだから。

 いいから、君たちはさっさとお風呂を済ませて来て。 


「は……はい」

「わ、分かった」


 流石に、この状況で逆らうわけにもいかなかったようだ。 

 素直に従ってくれた。

 いや、普通にお風呂に入りたかっただけかな?

 まあ、ここまで水浴びもできずに、何日もかけて来てるっぽいし。


 今回はあまり湯船のお湯が汚れなかった。

 先に、洗浄の魔法を掛けたからかな?

 次から、外から来た人には先に魔法を掛けるようにしよう。


 さっぱりした様子の二人は、どことなく満足げに椅子に座っている。

 アスマさんは邪魔だから、出てってもらったけど。

 しっかりと、本を手に持って出ていった。

 てか、本読むならうちじゃなくてもよくないか?


 まあ、いいや。

 話し合いをしよう。


「で、何しに来たの?」

「あっ、いや……ミレーネの仇討に」

「私は、まだ死んでません!」


 ミレーネはまだ怒っているみたいだ。

 バハムルの言葉に対して、腕をつねるという反応で抗議している。


「まさか、生きているだなんて思わなくて」

「姿を見せても、信じてなかったですよね」

「あれは、ランスロットが「人のせいにしない!」」


 学習しないのだろうか?

 さっきも、同じ言葉を言って怒られていたと思うんだけど。


「サ……サトウ殿で宜しいかな?」

「うん、なに?」

「えっと……サトウ殿は人では?」

「ゴブリンロード(課長)ですよー」


 ランスロットが恐る恐る話しかけてきたけど。

 なるべく、フレンドリーに返す。

 役職を言ったら、凄い変な顔をされたけど。


「ひ……人のようにお見受けできるのですが?」

「まあ、人っちゃ人だけど、ゴブリンロード(課長)ね」

「は……はあ」


 納得してない表情。

 まあ、そこはどうでもいいけど。


「そ、それと、先ほど、そこにいらっしゃったのは、エルダーリッチのアスマでは?」

「そうだけど?」

「そ……その、ここはアスマの支配する場所なのですか?」

「いや、俺のっていうか、居候のおじいちゃんって説明しなかったっけ?」


 俺の言葉に、今度は変な顔をしている。

 あっ、横から凄い音が。


 見ると、ミレーネが思いっきりグーでバハムルを殴っていた。

 何を言ったのだろうか?


「あまりふざけたことを言うと、いくらお兄様とはいえ殴りますよ」

「す……すまん」


 何を言ったか聞き逃したけど、もう殴ってるよね?

 

「いつも、ああなんです」

「そうなんですか」


 ランスロットが疲れた表情で、溜息を吐いていた。

 ただ、その表情はどこか懐かしい物を見るような、そんな優しい表情でもあったが。

 

 本当に何を言ったんだ? バハムルのやつ。

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