34話 山麓の村
______まえがき(登場人物のおさらい)______
【佐藤 (Lv.4)】一人称は平仮名の『おれ』。職業は踊り子。爬虫類が大の苦手。
【トアタラ (Lv.5)】呪いによって人間に変えられてしまった少女。
【リリサ (Lv.29)】ロリっこフェイスの歌女。呪いによって体を男に変えられた。
【???】仮面をつけた案内人。
【シン先生 (Lv.99)】謎の占い師。Lv.99というのは自己申告のため怪しい。
案内人とともにタシナバンバ渓谷へ向って出発した。
乗合馬車が向かうのは、山の麓のクルス村だ。そこから先の山岳地帯へは馬車が入っていけない。だからクルス村から徒歩で山をのぼる予定となっている。
山の麓で乗合馬車をおりた。やっとクルス村の入口に到着だ。
一面には麦畑が広がり、石レンガの塔型サイロが点在している。山側へ向って歩くにつれ、民家が密集してきた。
きょうはここで宿をとれ、と案内人から強い要望があった。まったく態度がデカい。結局、山歩きの旅は明日からとなった。
宿に荷物を預けると、身が軽くなった。
大きな食堂に入る。ちょっと遅めの昼食となったが、店内はなかなか賑わっていた。
リリサと案内人がトカゲ肉のスープを、美味しそうに口に運んでいる。呪われる前のトアタラについて、2人とも何も知らないのだ。
そしてオムライスを食すトアタラに、おれは一驚を喫した。
この世界にもオムライスが存在したことが、信じられなかったからではない。まあ、それはそれで驚いたが、そんなものは些細なことでしかなかった。
そのオムライスには、たくさんのトカゲ肉が使用されているのだ。それを平気で咀嚼している。しかも本人はトカゲ肉だと承知のうえでだ。
よく気にせずにいられるものだ。
ああ、そうだよな。
いまのトアタラは完全な人間だ。普通の人間として生きている。もうムカシトカゲなどではない。そんなことを気にするのは、おれくらいなものだろう。つくづく思うことだが、おれってまったくちっちゃな人間だ。
※ちなみにムカシトカゲはトカゲではありません。
ここでリリサから注意を受けた。
「ちょっと佐藤。食事中の女の子をガン見するのは、どうかと思うけど」
いけない。つい……。
トアタラへの視線を切った。
食後はみんなで水牛のバター茶を注文した。村の名物らしい。
「ねえ、ゲームしない?」
そういったのはリリサだ。さっとカードをとりだした。
案内人はそっぽを向いてしまった。参加拒否のようだ。
カードの枚数はもとの世界のトランプより多い60枚。案内人を除く3人でゲームをやることになった。ルールは数と2つの絵を合わせるもので、強いていえばポーカーに似た感じだ。
バター茶を味わいながらゲームに熱中した。
ドン、と大きな音がした。
同時に入口の戸が外れた。店の中にガラの悪そうな7人組の大男たちが入ってきた。右手には短剣、左手には小さめの丸盾、頭には2~3本の突起物をつけた兜。ステレオタイプのヴァイキングを彷彿させる格好だ。長くてちぢれた顎髭と口髭が不潔っぽい。
食事をしていた客たちは、早急に会計を済ませ、ぞろぞろと店をでていった。おれたちは相変わらずゲームに熱中していた。
女店員がおそるおそる彼らに近づく。
「ご注文は何を……」
「全部持ってこい」
1人が女店員の尻を触ると、彼女は奥に逃げていった。
代わってやってきたのは店主だ。
「あのう、昨夕の分のお代8,303マニーを、まだいただいていないのですが……」
「うるせー、早くメシを食わせろ」
彼らの迫力に店主は厨房へとひっこんでしまった。
ところでゲームはリリサが一方的に負けつづけていた。
彼女はもう泣きそうだ。おっと、リリサのことは彼と呼ぶべきか。
店主が料理を運んでくると、大男は彼を蹴りとばした。せっかくの料理が床にこぼれて広がった。
「料理はネーちゃんに運ばせろっていうんだ」
「ですが……」
「口答えするな!」
店主は殴られ、料理のこぼれた床に転がった。
殴られた顔を押さえながら、体を起こす。
「は、はい。ただいますぐに」
12連敗中のリリサにも、ようやく光が射したようだ。
表情に輝きがでてきた。いいカードがきたらしい。今度こそ勝てるという目をしている。
「フィニッシュ!」
1枚のカードを持った白い手が、テーブルにおろされようとしていた。
だが、その手が止まった。
華奢な腕が掴まれている。1人の大男に。
「嬢ちゃん、可愛い顔してるな」
大男がいやらしい目つきで笑う。
あのう……。そいつ、いまオトコですけど。
とはいわなかった。リリサに怒られるから。




