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第九十九話 悩み、恋心、嫉妬

「・・・・・・・・・・。」


灯りもつけず深夜にやっている天気予報をボーっと眺める。

各地の天気が永遠とループしているが決して頭の中に入ってこない。

今回の猛との戦いはこれまでの戦いとは違い、まるで俺の心が抉られるような戦いだった。

様子の違う猛、俺に対する嫉妬で狂った姿。あれは・・猛の本心だったのだろうか?


高校生になってから転校するまでの短い期間しか過ごしてこなかったが、

良い友人として付き合ってきたつもりだ。

俺の何が気に食わなかったのか?答えは出ない。


イタカの言っていた通りダゴンに気を狂わされてあのような行動を取ったのかもしれないが、

俺が使役するハスターの力に影響されて周りに人達があのように狂ってしまうかもしれないと考えると、俺一人で戦った方が良いのかもしれないとさえ思ってしまう。


(もっと考えておけば・・・・。)


ただ漠然と言われたまま、起きたままに戦ってきたが

今回の事件で改めて自分が何も考えずに戦ってきたかを思い知らされる。


ただ生き残るだけではなく戦った先に何が残るのか、何を残したいのか何を得たいのか。

先の展望を考えていない所か必要なはずの敵の情報さえ分からない。

これまでの自分の道のりを振り返ると・・・杜撰だとしか言えなかった。


「・・眠れないですか?」


後ろから声がする。振り返るとそこには寝間着姿の千夏さんの姿があった。


「布団が合わなかったでしょうか・・?」


「あっ、いえ・・・。」


兼兄が帰った後、泊る所も無い俺達は仙蔵さんのお家をお借りして一晩過ごそうという話になった。

家に置いてきた荷物はちーさん達が影渡りを使って取りに行ってくれたが、

やることがあるとどこかへ行ってしまい、

俺達のみで過ごすことになり疲れた体を癒すために布団に入ったが、

今日の事を振り返っていると様々なことが頭の中を巡り寝付けなかった。


「少し・・考え事をしてまして・・・。」


「・・お友達の事ですか。」


両手にカップを持っており、すぐそこにあったテーブルに置いて俺の横に座る千夏さん。


「・・なんでこんなことになったのか考えていたんです。」


こんなことを千夏さんに言ってもしょうがないのは分かっている。

だけど・・ただ聞いてもらいたい。そう思い思わず口にしてしまった。

だが言い終えた瞬間になぜこんなことを言ってしまったのかと後悔する。

このセリフを誰よりも言いたいのは間違いなく千夏さんのはずだ。


「・・・・すみません。」


一体言いつくろっていいか分からず、逃げるように謝罪を述べる。

それを聞いた千夏さんは何も言わずに立ち上がり、どこかへ向かって歩いていく。


「・・映画、見ませんか?こんな画面を見ていてもつまらないですから。」


そう言うとテレビの横の棚に並べられているケースの中から一つを取り出す。


「祖父は映画好きでして、気に入った映画を集めるのが趣味だったんです。」


今まで気づかなかったがテレビの灯りで照らされている棚には

ぎっしりと映画の数々が敷き詰められており、

DVDからビデオまで歴史を感じさせる様々な媒体が置かれていた。

千夏さんはディスクを取り出しレコーダーに入れる。リモコンを操作すると古い映画が流れ始めた。


「祖父の一番のお気に入りです。

ビデオの時から何度も見るものですからテープが擦り切れてしまって

何度も買いなおした物なんですよ。」


宇宙を背景に黄色で描かれた文字が彼方へと流れていく。

この映画自体を見たことが無いがさすがに俺でも知っているシーンだ。


千夏さんが俺の横に座り直し、大きなブランケットを二人で共有しながらテレビを眺める。


宇宙の題材にしたSFと呼ばれる種類の物語だがまさか宇宙の神を使役し、

それどころか宇宙の神と戦うことになるとは思ってもいなかった。


「・・宇宙人と人類が交わるなんてまだまだ先の話し。

私が生きている内に実現するのだろうかと考えていました。」


「本当に・・・そうですね。」


映画の人物が握っているのは光り輝く刀だが

俺達は数百年と続く金属を練り上げて作った刀を振るっている。

きっと立ち会えば刀を焼き切られすぐに倒されてしまうだろう。

宇宙人の前では刀なんて石器時代の武器と同等の扱いにされるに違いない。


「ちーやゆー、そして兼定さんに噛みついた事は私の中でまだ処理できていない証です。

まだまだ未熟だと実感しました。」


光と飛ばす銃撃戦の途中、千夏さんが呟く。


「そんなことは・・ないと思います。大切な家族の死は・・きっと忘れられないから・・・。」


俺も両親を失っている身だがその記憶はない。

代わりに育ての親がいるがそのどちらかが殺されたなんてなったら・・どうなってしまうか分からない。


「・・祖父の死を私はまだ乗り越えられていません。ですが・・立ち向かおうとは思っています。」


カップに入ったココアを小さく飲みながら千夏さんは語る。


「一生かけてこの葛藤と戦っていく覚悟です。何故ならもう・・会うことが出来ないですから。

でも龍穂君の場合は違うでしょう?お友達はまだ生きている、上手くいけば話すことが出来る。

ですから・・悩むことは大事ですが、悩みすぎて心を病んでしまってのはいけないと思います。」


声は優しいが厳しい叱責を受けてしまう。


こんなことで悩んでいること自体が女々しいかもしれないが

何より千夏さんから仙蔵さんの話しを引き出してしまった事が情けない。


「そして・・・。」


冷えた手を温めるためにブランケットの中に入れていた手を千夏さんが優しく握ってくる。


「私がまた祖父の事で悩んだ時、こうして一緒に映画を見ていただきたいのです。

両親を亡くし、酷く落ち込んだ私を励ますために一緒に見た映画の思い出を・・・

龍穂君との楽しい思い出に塗り替えてほしい。

そうすることでいつかは祖父の事を忘れて・・・前を向くことが出来ると思います。」


仙蔵さんは千夏さんにとってとても大切な家族だったのだろう。

少し語っただけでもそれがとても伝わってくる。


「それは・・出来ません。」


だが・・俺にはそんな残酷な事は出来ない。


「えっ・・・・?」


「仙蔵さんとの大切な思い出を忘れるなんてダメですよ。

千夏さんが前に進めたのは仙蔵さんがいたからじゃないですか。

そんな方との大切な思い出を無くしてしまったら・・・それこそ前に進めなくなりますよ。」


握られた手を強く握り返す。


「その代わり・・にはならないかもしれませんけど、

こうして映画を見ることで仙蔵さんとの楽しい思い出に俺との楽しい思い出を上乗せしましょう。

そうすれば悲しい思いも少しは和らぐと思います。俺が楽しくできればの話しになりますけど・・・。」


ここで強く言い切れない自分の弱さに少し悲しくなってしまう。


「・・優しいのですね。流石はおじいさまが託された人です。」


俺の話しを聞いた千夏さんは頭を肩に乗せてくる。

情けない所を見せたが少しは信頼を勝ち取れたのかもしれない。


「・・・・龍穂君。少しだけこっちを見てくれますか?」


映画はクライマックスを迎えており、一番いい所のはずだが肩から頭を離し千夏さんは俺を呼ぶ。


「・・どうしました?」


何かを見せようとしているのかと思い、千夏さんの方を向くと


「んっ・・・・。」


目の前に千夏さんの顔が迫り、唇に柔らかい感触が襲っていた。


「・・・・・・・・・・・!?」


何が起きたのか理解できず、一瞬固まってしまったが

何時の間にか千夏さんが俺の唇を奪っている事をやっと理解する。

ブランケットの中では握られていた手が動き出し、手を絡めるように握りなおされていた。


「・・・・・・・・・。」


数秒間唇と唇が重ねられていたがゆっくりと離されていく。


俺の顔を上目遣いでじっと見つめながら離れていく千夏さんは顔に血が集まり、

真っ赤になっているであろう俺の顔を見て優しい笑顔を浮かべた。


「なっ、ななっ!何を・・・!?」


「・・分かりませんか?」


動揺して声を上げる俺に構うことなく今度は俺の耳元に向けて顔を近づけてくる。


「お慕い・・しています・・・。」


そして小さく愛の言葉を動揺する俺に伝えてきた。


(はっ・・・えっ・・・・!?)


状況を理解できない俺に構うことなく、体を寄せてきて再び顔に向かって迫ってくる。

こういう時、どうしたらいいのか分からず頭の中はぐちゃぐちゃになってしまう。


(せ、せめて心の準備を・・・・!)


そんな余裕はない。もう既に事が始まっている。

顔を近づけていた千夏さんは目を閉じている。これは・・・俺からした方がいい・・のだろう。

ここまで来て引いたら男が廃ると意を決し、千夏さんの肩を優しく掴み

緊張のまま唇を奪うために顔を近づける。


「んん!!」


あと少しで唇と唇が触れる。

緊張の瞬間が訪れようとしていた時、思いもよらない所から咳払いが俺の耳に届いた。


「!!??」


心臓が飛び跳ねそうになり近づいていた顔を話して咳払いがした方を向く。


「・・お楽しみ中失礼します♪」


そこにはこちらを笑顔で眺める楓の姿があったが薄目の奥の瞳は決して笑ってはいなかった。


「か・・楓・・・?」


「水を飲みに来たんですが薄く明かりが見えたので。

消し忘れかと思ってきたんですけど・・・お邪魔しちゃいましたね?」


後で手を組みながらこちらにやってくる楓。

まさかの場面を見られてしまい、

千夏さんの肩から手を離しどうしようかと焦っていると楓は俺の肩に腕を回してくる。


「龍穂さんも隅に置けませんね~。いつの間に千夏さんとそんな関係になっていたんですか~?」


耳元で煽ってくる楓。

何も言い返せず厄介な奴に見つかったと思っていたが、

肩に置かれた腕が離れていき、同じように顔を真っ赤に染めていた千夏さんに近づく。


「・・抜け駆けはいけませんよ?約束と違うじゃないですか。」


耳元で何かをささやいたみたいだが

こちらまで声が聞こえてこず、何を言っているのか分からなかった。


「お二人で映画鑑賞ですか・・・。眠れないのは理解できます。私も同じですから。」


俺達の元から離れテレビを眺める楓。

映画は本編が終了しておりエンドロールが流れている。


「今日起こったことを考えて悶々としていたんですよ~?

そんな中、お二人で映画を見ていたなんて・・・許せないですね~?」


楓がダルがらみを始め駄々をこね始める。

こうなってしまっては俺が出来る事はただ一つだけだ。


「・・代わりに何がいいんだ?」


素直に埋め合わせをするしかない。そうしなきゃ永遠と楓は駄々をこねている

こちらがいくら無視しようともずっとダルがらみを続け、

代わりになる物をあげたり出かけないと終わらない。


「ん~、なにが良いですかね~。」


頬に人差し指を添えて上を見ながら考え始める楓。

こんな分かりやすい素振りを見せる時は既に代わりの物を決めている時だ。


「じゃあ・・映画。見に行きませんか?」


ずいぶんと分かりやすい埋め合わせが来た。


「何か・・見たい映画でもあるのか?」


「いえ?お二人が映画を見ていたから私も見たくなったんです。」


俺達が二人で映画を見ていたのがそんなに羨ましかったのだろうか?


「それなら・・・・。」


千夏さんの方を向いて大丈夫かと確認するが目線を合わせることなく、

俯きながらこくんと首を縦に振る。


「襲われて昨日の今日ですが夜のニュースで八海の出来事が流れていました。

三道省も警戒しているので奴らも大きく動けないでしょう。

せっかくの冬休みですから少しは羽を伸ばさないといけませんからね。」


八海に行ったのは兼兄達に会うつもりだったが、半ば羽を伸ばしに行った所もある。

鍛錬と襲撃の日々だった。少しぐらいは心を休める日を作るのは良いことだ。


「・・分かった。」


純恋達は格式の高い場で息苦しいだろうから、多分早くこちらに帰ってくるだろう。


まだ冬休みは始まったばかり。時間を作って遊びに行けばいい。


「あっ、そうだ!」


俺も千夏さんもこの場にいるのは限界だ。

もうお開きにする雰囲気を引き裂くように、楓が何かを思いついた声を上げる。


「千夏さんに教えておかなきゃいけないですね。」


楽しそうに笑顔でこちらに近づいてくる楓。

大回りをして俺の正面に立ち笑顔のまま両手で肩を力強く掴んだ。


「!?」


一体何を企んでいるのか分からず固まってしまう。


「サキュバスって魔力の識別ができるんですよ。

色と言いますか匂いと言いますか・・・とにかく人の魔力の跡を目や鼻で感じることが出来るんです。」


肩を話したと思えば次は頬を強く押さえつけてきた。

千夏さんに説明しながら俺を逃がさないように押さえつける意味は一体なんだ?


楓は一体何をしようとしているんだ?


「人の体には魔力や神力が流れています。

当然それを運ぶのは血液、”体液”に魔力が流れているという事です。」


頬を押さえた手の力が抜ける。

やっと解放されると思ったその時、


「んっ・・・。」


薄暗い中、楓の顔が近づいてきて俺の唇を素早く奪った。


「んふ・・・♪」


先程の千夏さんのキスは優しく触れるだけだったが

楓は俺に唇を押し当てまるで食べようとしていると思ってしまうほどの濃密なキスが俺を襲う。


ここまでの急な展開に頭が追いつかずに真っ白になっている最中でも

楓のキスの勢いはとどまることを知らず、

ついにはベロを入れてきて俺の下についた唾液を舐めとってきた。


「・・・ぷはっ!」


息も出来ずにただ楓を受け止めていたが唇が離れて解放される。


・私の前ではキスをしていたことはバレバレなんですよ?

まだまだ足りませんが隠していたことはこれでチャラにします。」


垂れた唾液を腕で拭きながら俺の方を睨む楓。


「じゃあおやすみなさい!明日楽しみにしていますね!」


スキップをしながらリビングを去っていく楓。


「あっ!寝坊しないでくださいね!」


最期に早く寝ろと催促して部屋に戻っていった。


「・・・・・・・・・・。」


腰が抜けてしまいに呆然としてしまう。

千夏さんはおやすみなさいと一言だけ残して立ち去ってしまい、リビングには俺一人が残された。


「なっ・・・えっ・・・・・?」


怒涛の展開にまだ頭の整理がつかない。

何とか腕を動かし唇に手で触れると二人の唇の感触はまだ鮮明に残っていた。


千夏さんとの雰囲気は確かに良かったかもしれない。

楓は嫉妬しているように見えた。

だがそれにしてもいきなりキスなんて・・・・一体二人に何が起きたのだろうか?


考えても答えは出ず、体が動かせない俺の眼には映画のメニュー画面が写されていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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