第七十九話 亡き両親たちが紡いだ絆
本当の父親ことを知っているという二人。
だが陰陽師試験の後に何故そんなことを言うのか。情報が無さすぎて警戒を解けない。
「じゃあまずは・・・なんでこのタイミングで私達がお前さんに会って話をしようとしたか語ろうか。
そうすれば少しは警戒を解いてくれると思うからさ。」
そう言うと伊達様は携帯を取り出して操作した後耳に当てる。
「私だよ。入ってきな。」
一方的に相手に指示を送ると入り口の扉が開く。
誰かがこちらに来る。それが敵か味方か・・・わからない。
体を半身にして青さんと木霊に視線を送り刀の鞘に手をかける。
「・・・・・・・・・。」
一体だれを呼んだのだろうか?
こういった時出てくるのは大体兼兄か親父だが二人が大学に来ているなんて話は聞いていない。
試験とはまた別の緊張が高まっていく。
「・・・よお。」
「へ・・・?」
目の前に現れた思ってもいなかった人物に思わず口を開いたまま唖然としてしまう。
「長野殿。呼びかけに応じていただきありがとうございます。」
「思い出したお前達の呼びかけを断れば何をされるかわからんからな。
それに・・・・。」
俺の横を歩いて通る際、乱暴に頭を撫でる。
「こいつのためなら喜んで手を貸す。お前たちと同じようにな。」
そして酒井様がいた席に座り俺の方を向いた。
長野太一郎さん。親父との古い仲とは聞いているがどれくらい前からの付き合いかはわからない。
俺の八海での一件を全て隠したと聞いているので三道省でかなりの力を持っている事だけは確かだ。
「龍穂、お前も座れ。」
長野さんに催促され俺を椅子を近くに寄せて座る。
木霊を札に戻し、青さんも俺の中に入るように言おうとしたが口を開く前に俺の膝に乗ってきた。
「太一郎、お前が龍穂の前に現れたという事はこやつらの力の封印が解けたという事か。」
「そう言うこった。」
封印?こやつら?
「という事は鍵は・・・木霊か。」
「ああ。」
状況把握を淡々と行う二人を伊達様と真田様は冷ややかな目線を送る。
「真田。とんだ狸達の会話はどうだい?」
「気分はあまり良くないな。すぐに状況把握をさせてもらわなければ。」
狸達・・・。長野さんと青さんはこの二人をだましていた?
そして会話の流れからこの二人にも封印が施されていたように聞こえる。
「焦るなよ。お前達が時間を作るように仕組んだんだろ?陰陽師試験を口実にな。」
「バカなことを言うんじゃないよ。この子の実力が本物だからさ。色々重なってのは事実だけどさ。」
目の前で行われている牽制を交えた舌戦に俺はついていくことが出来ない。
「二人共、本来の目的を忘れたのか?
今集まっているのは龍穂君のためでありお互いの鬱憤を晴らすためじゃないだろう?」
真田様が俺の様子を見て二人を止めてくれた。
「仕掛けてきたのはそっちだぞ。俺は関係ない。」
「・・そうだね。ここは大人しく行こうか。」
伊達様が大人な対応を見せると長野さんは舌打ちをする。
あの写真の中に長野さんがいたのかわからないが旧知の仲なことが見て取れる。
「さて、色々情報が出てきた混乱してるかもしれないが全て話させてもらおう。
なんでこんなことになっているかをね。」
伊達さんが机を叩き、周りの空気を仕切りなおす。
「全てを説明する前に、まずは何故陰陽師の試験に推薦させてもらったかを説明させてもらおうかね。」
「それは・・先ほどおっしゃっていた実力があるからじゃ・・・。」
「それは大前提。
だけどこんな会場になってしまったように本来よりかなり急な試験になってしまった。
それは何故か。まあアンタの薄々感づいてはいるだろうけど
魔術省にアンタを取られるわけにはいかなかったんだ。」
あの酒井様が千夏さんを会いたいの悩むくらいには魔術省を怪しんでいる。
「気付いていなかっただろうが魔道省は君を魔術師に推薦する動きがあった。
まだ表立って君の実力が広まっていなかったらあくまで裏で働きだったが
つい先日の平将通の事件で君が国學館を守ったと広がり大義名分を得てしまった。
それを酒井様から聞き出した伊達が急いで陰陽師の推薦を出したというのが今回の真相だ。」
確かに今の俺の戦い方は魔術中心だ。
それは守るべき仲間が多くなり単騎で突っ込んでしまうと
後ろにいる仲間が狙われてしまうかもしれないと言う不安を解消するための行動だったが
特に風の魔術、黒い風を出せるようになったおかげで
短時間で高威力の攻撃が出来るようになったことも要因だろう。
「で、でもそんな簡単に陰陽師試験を開けるものなんですか?
現に魔術省が魔術師の推薦を出来なかったじゃないですか?」
「良い質問だね。アンタの思った通りそう簡単に通るもんじゃない。
推薦の流れとしては各省の課長以上が推薦者となり長官に提出、
そして承認されたら次に皇に推薦の許可を得てそれが通ったら初めて特級試験を受けられる。
ちなみに魔術師の推薦を出そうとしていたのは魔術省防衛課課長の服部だ。
だがその推薦を・・・酒井様が止めていた。」
一番怪しい動きを見せていた服部が俺の推薦を出そうとしていたのか・・。
恐らく千仞のメンバーの一人で間違いないだろう。
そして止めてくれた酒井様は俺達の味方で間違いない。
命を奪う対象を自らの根城に入れない理由、それは賀茂忠行から俺を守るため以外に存在しない。
「んで、なんでこんな急ごしらえになったのかなんだが・・・
さっき言っていたように私らも封印を受けいてね。
アンタと同じ記憶、大切の記憶を封印されちまっていた。
それで・・・賀茂龍穂。アンタが大切な友人の忘れ形見だってことを
すっかり忘れちまっていたんだよ。」
忘れ形見か・・・。
自分の両親についてやっと詳しく話してもらえるような人達に出会えた。
ぜひ聞かせてもらいたいと俺はじっと座って言葉を待つ。
「我々が君の父親である龍彦と出会ったのは国學館でのことだ。
今の君のような冷静な人物ではなく全てその場の思い付きと勢いで行動するような苛烈な人物だった。」
「そこらへんは母親に似たんだろうね。
私は面白いことが起こるから龍彦と一緒にいたんだけどそんな私達を止めに入ってくれたのは
同級生でアンタの母親の直江稲見だった。
歳のわりに冷静で達観した奴だったよ。
まあそれは・・・あいつの歩んできた人生が影響している事だと後々気が付くんだけどね。」
「人生・・・ですか。」
「ああそれはアンタの—————————」
「待て。」
伊達様が何かを言いかけたその時、長野さんが口を挟む。
「それは俺が言う。本来いうべきであった景定にも許可はもらっている。
それが俺の・・俺達の責任だからな。」
大きなため息をついて長野さんは話し出した。
「稲見は生まれて間もなくしてとある神を体に封印された。
その主犯は賀茂忠行であり、封印した神ごと稲見を殺そうとしたんだが
何とか助け出し直江家に避難させていた。
直江家の事は龍穂も知っているな?」
「ええ、直江家って確か母さんの旧姓だったような・・・・。」
今八海にいる育ての親である母さんの旧姓が直江家であり
かつて八海上杉家と共に八海の地を守った家だと聞いている。
「そうだ。直江家が衰退の危機に陥ったところを八海上杉家に吸収されたんだが・・・
それはまた別の話しだから置いておくとして、
当時まだ八海にいた景定が稲見を引き取り育て上げ国學館に入学が決まった時、
また景定も教師として共に向かった。
そして・・・運命の歯車がかみ合う様に二人は出会い、
制御不能だと言われていた強力な神と深い絆を紡いでいくことになったんだ。」
「その神について大気を司る強力な神と聞いています。
ですがそれ以上の事は教えてもらっていません。」
その正体について急かすように俺の情報を伝えると長野さんは一枚の紙を取り出してくる。
「ハスターを呼ばれる神だ。龍穂の言う通り大気を司る神だが・・・それは地球での話じゃない。
その神は宇宙のとある星に住み着いていたと言われており宇宙の大気を司っている。」
「う・・ちゅう・・・?」
規模が大きすぎる話に俺は思わずおうむ返しで尋ねてしまう。
「それ以上はわからん。
俺達はその神の直接話をするどころか素性さえ見たことがないからな。
だが、山形上杉家に宇宙の研究をしている者がいる。
そいつと出会い、俺の名刺を渡して詳しく話を聞いてみると言い。」
立ち上がりこちらに名刺を渡してくる。そこには上杉捷紀と書かれていた。
「・・・・・・・」
「どうした?」
じっと名刺を見つめる俺を見て不思議に思ったのだろう長野さんが声をかけてくる。
「いや、実はこの方とこの後お話しする予定だったんです。」
「・・そうか。やはりそういう所は父親同様だな。」
「・・・・?」
言葉の意味が分からず頭の上にはてなが浮かぶ。
「一度動き出せば周りの動かしていく。近くにいる仲間だけではなく知り合いでもない他人まで。
父親とは似ても似つかない性格なのに・・・不思議なものだな。」
確かに今日に限ってはかなり出来過ぎと言っていいぐらい全ての行動が重なると言うか
動けば動くほど行動に意味が増えていくような不思議な感覚だった。
「んでもって本題だ。一体だれが私たちに封印を掛けたか。
ちなみに私達の封印が解けたタイミングがその場にいたわけじゃないから
おおよそになるけどアンタとその式神である木霊と中にいる神が神融和をした時。
神融和が封印を解くカギであるのなら、
アンタの封印と私達に封印を掛けたのは同一人物という事になるね。」
席に戻り座りなおした長野さんを見ながら伊達様は話している。
それは・・・まるでその犯人に対して問いかけているように見えた。
「・・・・・・・俺だよ。」
腕を組んで少し間を置いた後、長野さんは白状する。
「真田と伊達には言い訳に聞こえるかもしれないが全てをお前達を守るため。
引いては日ノ本を守るためでもあった。
三道省の高官になるような奴をみすみす殺すわけにはいかなかったんだ。」
その時の状況は分からないが封印しなければ二人が命を落とすような状況だったのだろう。
だが長野さんを話しを聞いても二人は不満げにしてお納得していないのは目に見えていた。
「・・そのおかげで龍彦と稲見は死んだ。親友であった私達に見届けられることなくね。」
「今後の事を踏まえ龍穂君にも伝えておこう。
長野殿は業の元長官であり、兼定君の元上司に当たる。
龍彦と稲見が賀茂忠行に追い込まれ決戦をするしかない状況になった際、
当然我々も共に戦おうとした。
だがその直前長野殿が現れ我々の意識を奪って攫い記憶を封印したんだ。」
元業の長が絡んでいるのを聞いてこの話が表に出なかったことは納得できる。
だが親友の死ぬかもしれない戦いの前にその親友の記憶を奪われ歳月が立った後、
気付けば親友が死んだという報告だけを聞けば誰もが激怒するだろう。
「・・・・・・・・・・・。」
長野さんはまた懐に手を入れ二枚の古そうな封筒を取り出す。
そして二人が座る机に一枚ずつ置いた。
「これはあいつがお前達に向けて書いた手紙だ。」
置かれた封筒を破り、中を確認する二人。
「・・・龍彦から打診があったんだ。
お前達を巻き込みたくない、出来る事なら俺達を忘れてほしいってな。」
巻き込みたくないという事はおそらくその戦いで命を落とすと予感があったのだろう。
そんな中書いた手紙なら今生の別れの言葉が書かれているはず。
二人は手紙を静かに眺めていたがすぐに目を離し
伊達様は長野さんを睨みつけ真田様は天を仰ぎながら大きなため息をついた。
「龍彦のバカな願いをアンタは素直に聞き入れたってかい?冗談じゃないよ!!」
机を叩き激怒する伊達様。当然だ、怒り狂ってもおかしくない。
「・・やめろ伊達。龍穂君の前だ。」
「アンタも悔しくないのかい!?私らはあいつの—————————」
「悔しいに決まっているだろう。だが結果として俺達はあいつに生かされた。
であれば・・・・残された龍穂君があいつと同じ道を歩まないように導く使命がある・・・はずだ。」
激怒した伊達様をなだめる真田様の言葉は現在、そして未来を見つめる冷静なものだが
顔を手で覆い押し付ける姿はまるで後悔の念を無理やり押し込めているように見えた。
「だけど・・だって・・!!」
「・・お前達以外に奴らには既に手紙は渡している。
声をかけられたとき、お前達が龍穂に色々説明しようとしてるのは分かっていた。
それは・・・とても辛いことになることもだ。
伊達、ここは俺に免じてこらえてくれないか。」
長野さんは全てを知っていた。苦しむ二人を見る事を覚悟してここに来たのだろう。
そして俺を免じてと言う言葉にはこの二人と築き上げた信頼の深さが込められており
それを聞いた両名は言葉を発することが出来なかった。
「・・・・クソ!!」
伊達様が机を蹴り上げ入り口の方へ足早に歩いていく。そして大きな音を立てながら会場を後にした。
大きな音が二回も立てられた場面に遭遇したが沸き上がった感情は驚きではなく
なんとも言えない虚しさ。
その場にいない俺がそんな感情が沸き上がるのだから
お二人の心中は想像もできないほど悲しさで溢れているのだろう。
「・・・・・・・龍穂君。」
抑えていた手を離し、小さなため息をつきながら俺を呼ぶ真田様。
「まだ聞きたいことはあるか?出来る限り答えよう。」
その眼は赤く、感情を抑えて俺の力になろうとしてくれているのが分かる。
俺の素直な気持ちとしては首を横に振り真田様をこの場から解放してあげたいが
武道省長官であるこの人相手に次いつこのような場を開けるかわからない。
「・・お言葉に甘えて質問してもよろしいですか?」
申し訳ないと思いながら気になったことを聞くことを選択した。
「君は優しい子だね。伊達も言っていたが母親を思い出す。」
手元からハンカチを取り出し、涙を拭く真田様。
「良いだろう。長野殿もよろしいですね?」
「分かっている。」
両親の人柄や仲間から信頼されているか十分に分かった。出来れば掘り返したくはない。
あとは・・・・封印についてだ。
「長野さんが封印されたことについては分かりました。
記憶の封印、それをどのようにしてやったのか気になりますが・・・
それとは別に一つ聞きたいことがあります。」
「・・なんだ?」
「俺と純恋に記憶の封印を掛けた人物についてです。
今回の封印は俺の行動が鍵となり封印が解かれる仕組みとなっていた。
ですが純恋と俺に掛けられた記憶の封印。それが今回のように
俺の行動を鍵とした封印であるのなら少しおかしいと感じました。」
純恋と再会した時、俺より早く記憶の封印が解けていた。
それがわざとなのかわからないがもし違うのであれば封印術に綻びがあるという事だ。
「今回のように完璧な封印術であるのなら、その術者は長野さんではなく
別の方なのではないかと俺は思っています。」
これが念密に計画されているのなら綻びがあってはならない。
元業の長である長野さんがそういったミスは犯さないはずだ。
「・・へんに勘のいい所は父親譲りだな。」
俺の質問を聞いて大きなため息をつく。
そしてこちらをじっと見つめるがその視線は俺の膝に乗っている青さんに向けられていた。
「よろしいですね?」
「ああ。もう隠す必要はない。あやつもある程度は予想しているはずじゃ。」
青さんの承諾を得た長野さんはこちらに目線を移す。
「俺が封印術を掛けたのはお前の両親である龍彦たちに関連している事柄だけだ。
他の記憶は別の奴に一任している。」
「それは・・・誰ですか?」
真田様もじっと長野さんを見つめ返答を待っている。
「・・お前の兄である上杉兼定と土御門泰国、その両名だ。」
何時も出てくる兼兄と新たに名前の挙がった土御門。
いずれ何を知っているのか聞かなければならないと思っているのに
肝心な所でそれを忘れたように頭から離れている。
これも兼兄が仕組んだことなのか?
(兼兄は何を・・・・?)
謎が謎を呼び、まるで複雑に絡んだ糸のように難解な俺の人生は
一体いつになったら全て明かされるのだろうか?
深く考えている俺を見ている三人の目線もまた虚しく、また憐れんでいるように思えた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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