第六十五話 家族の定義
非常ベルが鳴らされた場所に最短で駆ける。
何体いるかわからない敵に後れを取らないために二手に別れ編成された部隊は
千夏さんと俺、桃子、楓、竜次先生とノエルさんの六名。
「向こうは一年が多いからな。
三年生を多めに入れてベテランの先生方にお任せした。」
聞いた話ではアリア先生と上泉先生は三道省の部隊で活躍していた過去を持っているらしく
経験不足の一年生達を率いるのに一番適している。
それに実習などで経験を積んだ三年生達が加われば強敵とも渡り合えるだろう。
「ノエル、非常ベルが押された場所は分かるか?」
「図書室だと思われます~。本が多いですが戦うには十分な広さかと~。」
かなりの広さを誇る図書館は大量の書物が保管されていて背の高い本棚が数多く立ち並んでいる。
読書のスペースが広く取られておりノエルさんが言っている通り戦えるスペースは十分にあった。
「・・何が目的なんやろうな。」
俺の隣を走っていた桃子が呟く。
初めは純恋を狙っていたのは確かだがその純恋が避難しているのにも関わらず
敵は再び校内に侵入してきた。
兼兄には思い当たる所があると食堂を後にしていたが
視線の先を察するとその場所は寮内にあるのだろう。
であれば何故再び校内に侵入してきたのかわからない。
もし平の目的が寮にあるのならそちらに増援に行くはずだ。
ますます敵の目的が分からない。一体何がしたいのだろうか?
「それはまだ分からないがこれはかく乱が目的だろうな。
部下をバラバラに配置することで自らの目的を隠しているんだろう。
兼定が言っていた心当たり。
しかも入る者を制限するような場所をひそかに狙っている事に信憑性が増してきたな。」
「思い込みは油断を生みますよ~?まだ狙いは確定しておらずどこにいるかもわかっていません~。
警戒は怠らずに平さんを発見し次第連絡が出来るように準備はしておいてくださいね~?」
深く考えさせることこそが平の目的だとしたら俺達は既に術中にはまっていることになる。
だが怪しい所を一つずつ潰していくしか道は開けない。
「・・お二人は兼定さんとお友達なのですか?」
図書館への道中、千夏さんが竜次さんとノエルさんに尋ねる。
この二人が兼兄と会っているのは初めて見たが振り返るとかなり親しそうに話しているように見えた。
(確か・・アルさんもそんな感じで話していたな・・・。)
転校時に寮でアルさんともどこか知っているような感じで話していたことを思い出す。
国學館に務めている時点で相当有能な人たちなのだろうが
兼兄とはどういう関係なのだろうか?
「友達・・か。そんな浅い仲じゃないかな。
なんて言っていいか・・・”家族”みたいなもんかな。」
「家族・・ですか?」
他人との関係性を示す言葉として無適切であろう言葉が飛んでくる。
「過ごしてきた時間や関係性で呼び方は変わるだろ?
例え血が繋がっていなくても長い時を親密に過ごしてきたのなら
友人や親友を超えた家族と呼んでいいと思っている。
龍穂もそう思わないか?」
親父と母さんをずっと本当の両親だと思って過ごしてきた。兼兄と定兄もそうだ。
親父から血が繋がっていないと聞かされた時は本当に驚いたが別に今まで通りに過ごしている。
「・・ええ、そう思います。」
竜次さんの言う通りみんなと俺は家族。
血が繋がっていなくても両親と兄弟とはっきりと言える。
あのまま八海にいたら少しはぎくしゃくしたのかもしれないが
バタバタと流れるように国學館に来たおかげであまり意識しなったことが功を奏したのかもしれない。
「そうなんですか・・・。
お二人は一体いつから兼定さんと共に過ごしてきたのですか?」
この二人と面識はない。当然アルさんもそうだ。
物心ついた時から兼兄はあまり家にはいなかったがその間竜次さん達と過ごしていたのだろう。
「・・何年も前になるな。色々あったがずっと一緒にいる。」
「ちなみにですが覚えていないでしょうけど龍穂君に会ったこともあるんですよ~?」
「えっ!?そうなんですか!?」
「小さい頃だったからな。覚えていないのも無理はない。」
覚えていないほど小さな頃一度会っている・・・?
俺と兼兄はちょうど十歳差だ。
兼兄と過ごしていたと言っていたがあの人は一体いくつの時から家を出ていたのだろうか?
「・・あの。」
「もう少し昔話をしていたいが、もうすぐで図書館だ。切り替えるぞ。」
深く聞こうとして所で竜次さんが周りに警戒を促す。
図書室はすぐそこに迫っていたが足音を消すことなく走ってしまっていた。
これでは敵に俺達がきていること知らせてしらせているようなものだ。
「すみません。気付かなくて・・・。」
「奴らは俺達に来てほしいとあえて非常ベルを鳴らしていたんだ。
来るだろうと分かっている奴に気配を隠していても時間の無駄だから問題ない。
だが、緊張感が無いのはあまりいただけないな。良い所ではあるんだがいつか隙を突かれるぞ?」
俺と会話しながらも前を走るお二人は周りの警戒を怠っていない。
楓ともに八海の森に侵入した敵を探している時も警戒心が薄いとよく突っ込まれていた。
あの時よりも守る人たちが増えている。もっとしっかりしないといけない。
「入るぞ。戦闘態勢に入っておけ。」
竜次さんが音を立てながら図書室の扉を開ける。
防弾ガラスで作られた窓の一角が割られており内側に破片が飛び散っていた。
乱暴に入ってきたようだが本棚には手をつけていないようで
窓以外はいつも通りの図書室であり敵の姿は見つからない。
「おい!来てやったぞ!!」
竜次さんはこの中にいるはずの敵に対して声をかける。
もしかすると時間稼ぎのために図書室を出たのかもしれない。
そうであるとしたら図書館に入ること自体が罠であり
扉に何かが仕掛けられていて閉じ込められるかも・・・・。
そう思い扉を見るが特に仕掛けがされている様子はない。
(ガラスは・・踏んでる。
この外に出たのならこちら側に細かい破片があってもいいはずだけど・・・。)
飛び散った破片は一定の感覚で細かく砕かれ太陽て光に反射しキラキラと輝いていた。
侵入した際に踏んでいるようだがこちら側までに来ていない所を見ると外には出ていないようだ。
「ん~?ちょっと待ってて~。」
少し遅れて図書室の奥から女性の声で返事が聞こえてきて反射的に得物を構える。
大人・・ではなくまだ幼さの残る声だ。
俺達と同じ年ぐらいだろうが聞いたことの無い声だ。
「待つかバカ野郎。そっちが呼んだんだろうが。」
竜次さんが得物を持ちながら飛び散ったガラスの上をわざとらしく音を立てながら
声のした方へ歩いていく。
「も~!いい所だったのに・・・。」
奥から現れたのは紅白の巫女を服を聞いた女の子。
幼さが残る顔つきは俺達より年下に見える。
「敵陣に侵入してのんきに読書か。悠長なもんだな。」
「師匠の書斎より多い図書館だからね。
面白そうな本が何冊もあったからどうしても目移りしちゃったよ。」
つい先ほどまで読んでいた本を読書用のテーブルに置く。
「お前・・何もんだ?」
「そんな前口上は無粋じゃない?
わざわざ入ってきているって知らせているんだしさぁ・・・・。」
女の子は二枚の札を取り出し地面に落とす。
すると一本の角をこさえた赤鬼と二本の角を青鬼が飛び出してきた。
「平田さんはやられちゃってさ。涼音は連れてかれたと・・・・。
まあ、ここまでは想定通り。
あたしがアンタらを倒せば師匠はさぞ喜ぶだろうね。」
自分が本命だと言わんばかりに自信満々に表情を浮かべている。
出てきた鬼達は節々は球体で繋がれており本物ではなく人造式神だ。
だが込められている神の力は相当なものであり
自信通りの実力を秘めている事だけは確かなのだろう。
「こいつらはね、前鬼と後鬼。
強い鬼達なんだけどもっと強くするために特殊な体を作り上げて
魂の状態で中に入ってもらっているんだ。
こいつらなら例え国學館の教師達でも敵わないでしょ。」
人造式神達から何かが外れたような音が聞こえると
背中から刀や槍などの得物が飛び出し手に持ち構える。
「ふむ、なかなかの強敵のようだが・・・どうするノエル?」
「我々で軽く捻りましょうか~。
龍穂君達は一度戦って来ていますので少し休んでおいてもらいましょう~。」
余裕を見せているノエルさん達に向かって二体の式神達は勢いよく飛んでくる。
得物を振り回し二人に刃を向けてくるが竜次さんは手に持っていた槍で軽々と受け止めた。
だがノエルさんは得物を持っておらずこのままだと小さな体に刃が届いてしまう。
「ふふっ・・・・。」
危機が迫っているのにも関わらず笑顔を崩すことが無いノエルさん。
竜次さんは横目で見るだけで援護に動く気配すらない。
「舐めないでいただきたいですねぇ。私、近距離戦は得意なのですよ?」
目の間に迫っている凶刃がノエルさんの首を狙っているが、
懐から取り出した一枚の札から出てきた大きな斧が行く手を阻む。
装飾などは一切なく、いくつのも古傷が残された斧はノエルさんの背丈を優に超えており
振り回すことなど不可能に思える斧を軽々振るい鬼を払いのけた。
「・・へえ。驚いたね。」
驚きなのは神融和や魔力を体に込めておらず純粋な腕力のみで斧を振るったこと。
小さな体を見る限り魔術などの遠距離専門で戦うのだろうと周りから見ていた
俺達の度肝を抜いたその力に図書館は静まり返った。
「まずはあんたから倒そうを思っていたんだけど簡単にはいかないみたいだね。」
「見た目で判断して愚かな攻撃を仕掛けるなんて自らの浅さを露呈しているようなものですよ~?
国學館の教師を倒すなんて息巻いていたのにこの程度の判断能力しかないのは拍子抜けですね~。」
明らかにノエルさんを舐めていたのに一振りで状況をひっくり返されたあげく煽られた
女の子はノエルさんの言葉に少しイラついたようだ。
「拍子抜け?まだ戦いは始まったばかりだよ?」
懐からさらに五枚の札を取り出し五体の鬼を呼び寄せる。
「本気なわけないじゃん。小手調べだよ小手調べ!」
大小、そして色鮮やかな色の体がもった鬼達は得物を取り出しノエルさん達を囲むように
配置され各々違った構えを取った。
「今度は・・・五鬼みたいですね~。」
「俺達だけでやる。
龍穂達は辺りを警戒しつつ戦いとはどういうものかをよく見ておくんだ。」
囲まれている二人は余裕を崩す来なく互いに背中を預け鬼達と対峙する。
「この子達は前鬼と後鬼の子供達。
二人と同じように別の体を用意してさらに強くなってもらった。
連携も抜群、アンタたちにいなせるかな?」
鬼達の体からは唸り声のような駆動音が響きだす。
広いとはいえこれだけの鬼達に囲まれた竜次さんとノエルさんはどう戦うつもりなのだろうか?
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると
励みになりますのでよろしくお願いします!




