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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第一章 上杉龍穂 国學館二年 前編 第二幕 交流試合襲撃
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第五十話 仏の仙蔵

「お前の先祖達を亡き者にし、食らいつくしてきた賀茂忠行の討伐をな。」


煙管を吸いながら皇が俺に言い放つ。先程話した先祖の使命を継げという事だ。


「・・・・・・・。」


俺に断る選択肢は残されていない。

例え断ったとしても賀茂忠行は俺の命を狙いに来るのだから。


「本当はよく考えて決めると言いたいんだが、分かっているな?


結局の所どう答えたとしても結末は変わらない。

であれば、出来るだけいい選択をしたくはないか?」


兼兄が念押しをしてきた。

ここで頷けと言っているが俺には”大儀”がある。


「・・一つお願いがあります。」


勢いで言い放った大儀だがここで掴みにいかなければ徳川さんに会わせる顔が無い。


「なんだ?」


「これは俺自身が望む・・賀茂忠行討伐の対価。もう一つ要求させていただきたい。」


「ふむ・・・・。内容によるが話してみろ。」


皇は吸い口に口を着け、大きく吸い込む。


「望まない戦いを強いられた徳川さんを見て・・・俺は改めて思いました。


徳川さんを追い込んだのはこの国の闇。

投票の結果を見る限りそれは三道省に広く浸透しているように見えます。

俺はこのような惨劇を二度と見たくはない。


賀茂忠行の討伐を成したとき・・・俺を神道省の高官として採用していただきたいんです。」


広く知られていないとはいえ、古くから日ノ本を脅かしてきた賀茂忠行の討伐はかなりの功績だろう。


それを引っ提げ神道省に入り成り上がっていく。それが俺の狙いだ。


「・・そんなことでいいのか?

国學館に入学した時点でその道は開かれているようなものだが・・・・。」


「神道省で働くことが俺の最終目標ではありません。

皇を目の前にして大変失礼ではありますが俺は神道省長官の座を狙っています。


それは先ほど言った通り、惨劇を起こさないように

この国の中核である神道省の頭に立ち次の賀茂忠行のような存在を

生み出さないよう抑止力となることが俺の目標です。」


皇と毛利先生は目を丸くしながら俺の方を見つめてくるが

兼兄は頬杖をつきながらまるで成長した子供を見るような晴れやかな笑顔でこちらを眺めていた。


「そんな回りくどいことをしなくても最初から神道省の長の座が欲しいと申せばいいではないか。」


「例えそれで長官の座に座ったとしてもそんな奴についてくる人はいないでしょう。


不利とされていた徳川さんの投票が最終的に拮抗したのは

俺達の言葉による力ではなく、徳川さんの人望によるものです。

まだ長になるイメージすら沸かないですが、

あの光景を見てあのような人望ある長になりたいと思いました。


それには賀茂忠行討伐の看板以外にも多くの実績、そして信頼を勝ち取らなければならない。

ですから俺は高官として神道省に入りたいのです。」


徳川さんの事を俺は深くは知らない。


そんな俺があの人の背中を追うことはできないだろうが

徳川さんのような人になることを目指すことはできるはずだ。


「・・・記憶は無くともわかるのだな。」


俺の要求を聞いた皇は深いため息をつきながら呟く。


「・・・・?」


「よかろう。賀茂忠行を討伐した暁には神道省に高官として迎え入れる事を約束する。」


何を言っているのかわからなかったが俺の要望を飲んでくれた。


「よく承諾してくれた。これからはわしも積極的に支援していく。

とはいってもわしには立場があるからな。

直属の部下である兼定や春を通じての支援になる。


それと今話したのは長い賀茂家の戦いの中のほんの一部だ。

まだまだ語れることはあるが時間が無い。

もし気になるのであれば、お主の師匠に聞いてみるといいだろう。」


皇の話を聞いた青さんが出てくる。


「・・言っておくがわしとて全てを把握しているわけでは無い。

今出てきた女や引き取られた男についての話は出来んぞ。


別の賀茂家の血を引く奴についていたからな。」


少し不機嫌な顔で青さんが言ってくる。

今まで犠牲になってきた人達を話しを掘り返すのはあまり良くはないだろう。

本当に必要な情報を得たいときにのみに聞くことにしよう。


「さて・・・・・。」


皇が身に着けている腕時計を見ている。

国の長、そして神道省長官の立場をお持ちの方だ。

忙しい時間を割いて俺達に会ってくれているのだろう。


「龍穂。俺に何か聞きたいことがあるんじゃないか?」


兼兄が立ち上がり、皇の火のついた煙管を渡し

胸ポケットに入っていた煙草を吸いながら俺に話しかけてくる。


「あっ・・・。」


そうだ。俺は兼兄に楓の事を聞かなければならない。


胸を貫かれているほどの大けがを負った楓の

安否を聞こうとするが緊張からか言葉が詰まってしまう。


「・・・・・・・・。」


にこやかな顔で俺の事を見つめてくる兼兄。

決して口を開く様子は無く、楓の事は俺から尋ねるまで答える気はないのだろう。


「・・兼兄。楓は・・・どうなった?」


答えを聞くことが怖いが聞かなければならないと恐る恐る尋ねる。


「・・・・・・・・・。」


俺の言葉を聞いて携帯を取り出し何かを打ち込んだ後

深く煙草を吸いこみ先ほどのにこやかな顔から真剣な表情に変わった。


「・・生きてはいる。」


少し間を置いた後、兼兄は俺に問いに応える。


「生きては・・・?」


生きているという事実に本当なら大喜びするところだが

意味深な含みのある答えに俺の緊張は解れない。


「色々説明しなければならないんだが・・・聞いてくれるか?」


少し影を落としたような表情で尋ねてくる兼兄に俺は首を縦に振った。


「お前達を安全な所へ送りだした後だ。

不意を突いてきた奴を何とか撃退したんだが・・・。」


———————————————————————————————————————————————


「・・・・・・・・・・。」


楓の体に触れる。

温かみは徐々に失われ冷たくはないがこのままではまずいことは明らかだ。


(脈は・・見る必要もないか・・・。)


貫かれたのは心臓部分だ。

これだけ体の熱が失われているとなると・・・。


「兼定君。」


龍穂と激闘を繰り広げた仙蔵さんが重い体を動かしてこちらにやってくる。


「彼女は・・・・。」


「かなりマズイ状況です。たった今治療を施したとしても・・・・。」


心臓がやられているとなると出来ることは限られている。

すぐさま医療機関に連れて行っても助かる可能性は限りなく少ないだろう。


「思い出しますね。

幼い頃、あなたのご実家で純恋さん達と遊ぶ彼女を姿を。」


優しい眼で楓を見つめる仙蔵さん。

過去に一度八海に訪れた時の事を思い出しているのだろう。


「彼女は龍穂君にとって妹ともいえる大切な方。

そんな彼女を失えばこの先の戦いに支障をきたすでしょう。」


仙蔵さんは魔術で水を集め始める。

この人も他人の事を心配できるような体ではない。

楓がこのような状況でなければまず引き留めている所だ。


龍穂との戦いで魔力をほぼ使い切ったはずなのに楓の体は仙蔵さんが集めた水で浸されている。

無い力を補填するにはそれ相応の対価が必要だ。

仙蔵さんは・・覚悟を決めている。


「・・いくつかお願いしたいことがあります。」


険しい顔で魔術を使いながら口を開く

まだ話したいことが多くある。

このお願いを聞かなければ足りない時間を過ごせるかもしれない。


そんな考えが一瞬頭によぎるが、苦しそうな顔でこちらを見る仙蔵さんを見てすぐに正気に戻った。


「何でも言ってください。」


「ありがとうございます。まずは・・千夏をお願いしますね。

私が死ねば、彼女の心の拠り所が無くなってしまう。


出来れば・・・”彼”にその役目を渡したかったのですが難しいのは分かっています。

ですから、その役目で出来そうな人物が現れるまで支えてやってほしいのです。」


千夏ちゃんの事は考えてある。

事がスムーズにいくかは龍穂次第だがあいつならやってくれるだろう。


「ええ、分かりました。」


「それと皇、彼の事も支えてやってほしい。


一応手紙は残してありますが人情深い彼の事ですから深く落ち込むかもしれません。

弱音を吐くことさえ許されない立場にあるお方ですから

その隙を突かれないよう、支えてあげてくださいね?」


「承知しました。」


「最後に・・・・兼定くん。」


俺の名前を呼ぶ。最期・・・・か。


仙蔵さんは俺への励ましの言葉を送ってくれる。

この人がいなければ、俺達はここまで来れなかっただろう。


「私の命と引き換えに彼女の心臓を修復します。


恐らく一命は取り留めますが、私の力だけでは完全に修復しきれないでしょう。

ですから兼定くんには彼女の命を繋ぎ止める役割をお願いしたいのです。」


心臓は血液を送り込むだけではなく魔力などの力を作り出す人の核であり、

人体の中でも精巧に作られた心臓を修復するには最高の技術と膨大な魔力が必要になる。


技術に関しては仙蔵さんは申し分ない腕をお持ちだが

年老い、傷ついた体で無理やり魔力を生み出したとしても心臓は修復は不完全に終わってしまう。


「・・分かりました。」


仙蔵さんほどの水の魔術の技術を俺は持っていない。

だが、今まで歩んできた人生の中でそれに代わりうるような別の技術を俺は知っている。


仙蔵さんもそれを知っているからこそ楓の治療に望んだのだ。


「・・・こんな私で申し訳ないですが、仙蔵さんの最後の雄姿を見届けさせていただきます。」


この魔術が終われば仙蔵さんは力尽きる。

お世話になりっぱなしだったこの人に何も返すことが出来なかった

気持ちを言葉に乗せ最後の言葉を仙蔵さんに送る。


「・・・ふふっ。」


額から汗を流し、苦しそうな表情で魔術を使用している仙蔵さんが

俺の言葉を聞いて頬が少しだけ緩んだ。


「愛弟子に最期を看取ってもらえるなんて最高の幕切れだとは思いませんか?」


俺を安心させるためなのだろうか。愛弟子と呼んでくれる。

仙蔵さんが育ててきた人物は誰もがこの日ノ本を支える重臣として活躍している。


そんな方々に比べると俺は出来損ないもいい所だろう。勿体ないお言葉だ。


「移動の・・準備をお願いします・・・!!」


楓を包んでいた水が赤く変色していく。


人類の祖、地球上の生物の祖が生まれたのは海。

水の魔術を純粋に極めると体を癒し、傷ついた体を再生させることが出来る。


「・・・・・・・・・・・・。」


自らの命を燃やしながら楓の治療を行う仙蔵さん。

この人のためになら命を捧げてもいいと言える人がいるほど日ノ本に尽くしてきた人物だ。

その慈悲深い姿から突いた異名は”仏の仙蔵”。


誰に対しても優しく笑顔を絶やさずに過ごし、

例え的であっても慈悲を与える姿は異名にふさわしいものであった。


「ぐっ・・・・・!!」


赤い水は球体状で宙に浮かんでいたが

魔力操作が効かなくなってきたのかポタポタと地面に垂れてきた。


命の灯はもう小さい。

それでも仙蔵さんは手を緩めることなく全力で魔力を注ぎ込んでいき、

赤い水はまるで鮮血の様に濃く色を変えていく。


火は燃える瞬間が一番激しいと聞く。

滴っていた鮮血は量を増していき、まるで水風船が割れたように重力を感じた鮮血は一気に床に落ちる。

仙蔵さんの指示に従いだしていた影で楓をある場所に送った。


「・・・・・・。」


魔術を唱えている姿のまま仙蔵さんは呼吸を止めていた。

力ない体は体勢を崩し床に倒れこもうとするが兎歩で近くに移動し体を支える。


「・・お疲れさまでした。」


長き人生に幕を閉じた師匠が向こうで安らかに過ごせるよう祈りながら労った。


———————————————————————————————————————————————


「・・と言う風に仙蔵さんは最後の力を使って楓を命を繋いでくれた。


感謝を忘れるなよ。」


俺達があの場を離れてからそんなことが行われていたのか・・・・。

既にこの世を去っているから感謝を直接伝えることはできないが

これからの行動を空から見てもらって伝えるしかできない。


「こちら側に持ってきた楓の傷はだいぶ癒えていたが仙蔵さんが言っていた通り不完全。

もうひと手間加えなければ生き長らえることは出来ない状態だった。」


そもそもの話、水魔術を極めた者が日ノ本に何人いるのだろうか?

そしてあの徳川さんの治療を引き継げるだけの魔術を持っているの人物なんていないのかもしれない。


「心臓の治療は困難を極める。その治療法を持っている者も少ない。


だから・・・”禁術”を使わせてもらった。」


「禁術・・・・?」


兼兄から不穏な言葉が出てくる。


「あまり使用してたくは無かったんだがな。

緊急時だったのと、何より楓がその禁術に適していた。


命を落とすよりかはいいと判断し使用させてもらったよ。」


兼兄は戸の方を見る。


「・・入ってくれ。」


そして指示を出すと戸が引かれそこには親父の姿があった。


「色々説明するよりも実際に見てもらった方が話が早い。

親父に頼んで連れてきてもらったんだ。」


親父が中に入ってくるが足音が多い。後ろに誰かが上手く隠れているようだ。


「・・大丈夫だ。」


親父が後ろに手を回し何かを軽く叩く。


「・・・・・・・・・・・・。」


親父の体から顔を出した人物。それはいつも見慣れた楓の姿があった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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