第四十八話 流れを変える登場
皇が声を上げ、三道省合同会議が仕切りなおされる。
傍にいる兼兄、そして親父も席についておりこれで全員が揃った形になった。
「それではまず今回の元魔道省長官、そして現国學館高校東京校校長である
徳川仙蔵氏が起こした事件について。」
兼兄が議題を話終えると土御門が口を開く。
「皇よ。あなたが不在の間、我々の中で朝敵と見なすと判決を出したのですが・・・いかがでしょう?」
先程の不正をまだ通そうとしている。
定兄が声を上げようとしていた所を親父が手を前に出して止めていた。
「土御門よ。その判決は本当に正しいのか?」
職員が持ってきた煙管盆を受け取った兼兄が金の装飾をまとった赤い煙管に刻み煙草を入れ、
皇に手渡し魔術で火をつけた。
吸い口に口をつけ深く吸い込み、煙を吐きながら土御門に問う。
「ええ。この場にいる全員から意見を取った上での判決です。問題ないでしょう?」
臆することなく皇に話しかける土御門だがその態度を見て鼻を鳴らしながら睨みつける。
「全ての会議内容は私の耳に入っておる。それは当然、つい先ほどまでの出来事もな。」
ここにいるのは全員皇に仕える一族のみ。
誰もが皇と繋がっている可能性はある。裏で連絡を入れていたとしてもおかしくはない。
「今回の事件、日ノ本の長い歴史の中でもかなりの大事だろう。
少し様子を見させてもらった。真相を探るためにな。」
「真相・・・?仙蔵殿が皇を狙って騒ぎを起こした。
それ以外の結論は出せないのでは無いでしょうか?」
土御門は結論のみを語り、徳川さんが悪いとだけ決めつける。
そうじゃないと声を上げそうになったが
『控えろ。無暗に発言をするな。』
青さんが制止してきて喉元まで出てきていた言葉を飲み込んだ。
「では問おう。わしを狙ってきたのであればなぜ本人があの会場に姿を現さなかった?
わしは最低限の人数にしか声をかけず密かに会場に入っていた。
そう考えればわしを狙ったのではなく、攫われた中に狙いがあったと考えるのが自然ではないか?」
皇の推察は当たっていた。
俺達がこの場に来て初めて開示された情報を通達されたうえでまとめたのであればさすがだが、
近くに兼兄がいたのなら話は違う。
「徳川仙蔵が起こした事件!これに関しては明らかに情報不足であり、
それを意図的に隠していた不届き者がこの中にいるとわしは確信している!
だからこそ、あえて身を隠しお主らの行動を見させてもらった!!」
「・・皇はこの中に怪しい人物がいると?」
身を隠した理由を聞いた土御門は静かに尋ねる。
「ああ。つい先ほどもおっただろう。
捜査不足と理由で事件に関わる人物を隠そうとした輩が。
現場から身を引いたとはいえ、忠誠を誓っていた主が起こした事件を疑おうともせず主犯と決めつけ
課の長として捜査を怠ったこと自体がおかしい。
恐らく隠された真実がある。そんな状況で徳川家を朝敵と見なすことはわしが許さん!!」
灰皿に煙管を叩きつけ皇は強い怒りを見せる。
そんな怒りを見ながら俺は内心ほっとしていた。
これでひとまず徳川さんとの約束は守ることが出来る。
「では・・・徳川家の処罰はいかがなさる気ですか?
このまま無罪では長たちから不満の声が上がるかと。」
「もちろん無罪では済まん。
わしへの罪を除いたとしても若き芽が大勢被害にあった事は事実。
死亡してしまったとはいえ、罰は必要だ。」
吸い終えた煙管を兼兄に渡すと火のついたもう一本の煙管を渡す。
「徳川家には監視を置かせてもらう。もちろん信頼を置ける人物にな。」
深く吸い、煙を吐いて俺達に言い放った。
「信頼のおける人物ですか・・・。誰にされるおつもりですか?」
土御門が辺りを見渡しながら尋ねる。
静まり返った大広間の中、一本の腕が伸びてきた。
「私めに千夏様をお任せいただきたい。」
魔道省長官である酒井様が静かに手を挙げている。
この方は魔道省に長く在籍しており徳川さんに忠誠を誓ってきた人物だ。
「確かにお主は仙蔵が長官の頃から徳川家を支え
その息子である先代長官が急死し後、仙蔵から長官に推薦された忠臣だ。」
皇の口ぶりから察するに、その経緯からかなり信頼できる人物なのだろう。
「だが、今回の件。魔道省の長達に怪しい行動があった以上、千夏を任せることは出来ん。
もしどうしてもというのであれば少なくともこの場で服部の潔白を証明してくれ。」
任せられる証明をしてくれと自ら手を挙げた坂田殿に言うが
その言葉を聞いてすぐに首を横に振った。
「・・疑われている上に出過ぎた真似を失礼しました。」
まるで返ってくる答えが分かっていたような素振りだった。
酒井殿を筆頭に徳川家を慕う忠臣が多い魔道省。
こうしていの一番に声を上げなければ批難されることが分かっていたのだろう。
「では、武道省ですか?彼らはこの事件に対し、中立を保ってきました。
千夏さんを預けるには適していると思いますが・・・・。」
「それもならん。お主が言った通り、武道省はあくまで中立だ。
もし千夏を預けてしまえばそれは中立にあらず。
物事を俯瞰できない立ち位置に変わってしまうからだ。」
武道省もダメ。となれば残るは神道省だが・・・・。
「では私にお任せください。
神道省副長官として千夏さんをお守りいたしますよ?」
右手を左胸に当て、深々と頭を下げる土御門。
立場を考えれば皇の時点に核が高い土御門が近くにいれば他の一族からの圧は来ないだろう。
だがこいつには任せてはならない。今までの言動がそれを証明している。
「ダメだ。お前には任せられん。」
皇が素直に承諾するようなことがあれば口を挟もうと思っていたがすぐさま否定する。
「不正をしようとしたことを忘れたわけではないな?
神道省で預かるがお前だけには指一本触れさせん。」
そうだ。こいつはダメ。
こいつにだけは千夏さんを任せてはならない。
だが神道省に千夏さんを任せられる一族はいるのだろうか?
皇と縁のある徳川さんの娘を任せられるほど深く信頼されている一族・・・・。
「影定!お前に任せる!」
なんと皇は親父に千夏さんを一任した。
「時々で良い。東京に来た際に顔を見てやれ。」
「・・そんなことでは千夏さんを監視しているとは言えないでしょう。
ここはやはり私が—————」
土御門が口を挟んでくるが皇はお構いなしに話を続ける。
「上杉龍穂!!」
そして俺の名前を力強く呼んだ。
「は、はい!」
まさか呼ばれるなんて思ってもいなかったので遅れて中途半端な返事になってしまう。
「千夏を守った姿、しかと見させてもらったぞ!
父親である影定がいない間、お主が千夏が怪しい行動を取らないか監視をしろ!」
なんと親父がいない間、俺に監視の命を与えてきた。
同じ高校でいる俺であればいつでも監視できるしこれからも千夏さんの事を守ることができる。
それに他の一族であれば千夏さんを高校に行かせず監視するかもしれない。
俺ではあれば千夏さんの日常を奪う事はせずに済むということだ。
「・・・はい!!」
俺は皇の指示に大きく返事を返した。
「これにて徳川仙蔵交流会襲撃事件はひとまず終いとする!
真田!公安を使い服部以外に長たちの調査を行え!
何か怪しいと思われる情報が出て来次第、わしの耳に入れろ!」
吸っていた煙管を灰皿に強く叩きつけ、仕切とした。
俺達の戦いはひとまず終わった。
そう実感していると緊張がほどけたのか、体に力が入らない。
「・・四人とも、立てるか?」
土御門が次の議題を話している所で兼兄が小さな声で話しかけてきた。
「ここからは四人と関係のない日ノ本内部の話だ。
皇がいなかった分長くなるだろうし、あまりいい話は出てこない。
皇には許可を取っているから静かに外に出て別の部屋で待機していてくれ。」
俺は兼兄に聞かなければならないことがある。
またいつ会えるかわからない以上迷惑が掛かるとしても会う約束をつけなければならない。
「安心しろ、”俺達”も後から行く。
外には龍穂や千夏ちゃんも知っている信頼できる人物が待っている。
その人について行ってくれ。」
兼兄は俺の言いたいことを知っているかのように退室を催促してきた。
「龍穂君、手伝いますよ?」
指示を聞いて立とうとした時、千夏さんが怪我をしている方の肩を支えくれる。
「・・ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそありがとうございました。」
かばってくれた事に対してのお礼だろうか?
俺がしたことの全ては徳川さんとの約束があってこそだ。
お礼を言うのであれば徳川さんにと言いたいところだが
その説明をするのであればここではなく落ち着いた場所が良いだろう。
「では私から。先日国内で海外を中心に活動している
義勇軍と呼ばれる部隊の隊員と思われる人物を確認したと報告がありました。
この対応についてなのですが・・・・・。」
何やら面白い事を土御門が話しているが長居は出来ないと足早に大広間を後にする。
「あ・・・・・。」
戸を開けた先には他の一族の部下達が大勢いたがその中に見知った顔が一つ。
「・・終わったようですね。」
そこには毛利先生の姿があり、俺達の方へ歩いてきた。
「毛利先生・・・?なぜここに・・・・。」
「兼定さんから聞いていませんか?あなた方をお迎えに上がったのです。」
兼兄が言っていた信頼できる人物。それは毛利先生の事だったのか。
「色々聞きたいことがあるかもしれませんが、まずは移動しましょう。こちらです。」
毛利先生の後についていくと人混みが俺達を避けていく。
純恋達がいるおかげなのかと思ったが明らかに毛利先生を見た後、急いで道を開けているように見えた。
「この部屋になります。」
少し歩いた先の突き当り。豪華な装飾が付いた戸の先の部屋に案内される。
先程の大広間には劣るがそれでも毛利先生を含めた五人で使うには
大きすぎるぐらいの部屋の中心には明らかに部屋に見合っていないちゃぶ台が置かれていた。
「お茶を入れますので少々お待ちください。」
そう言うとちゃぶ台に置かれていた急須に茶葉を入れ、ポットからお湯を注ぐ。
なかなか見ることの無い鉄器製の急須で入れてくれたお茶は
何故だが高級感が漂っており、慣れない広さに相まってまた緊張してしまう。
「皆さんお疲れさまでした。どうせ会議は長くなるので、色々お話ししましょうか。」
お茶と共に茶菓子を俺達の前においてくれた毛利先生は
一口をお茶を飲んだ後、背筋を伸ばした綺麗な姿勢で話し始めた。
「まずはなぜ私がここにいるのかを説明しましょうか。」
病院でも毛利先生に会ったが今考えれば授業をしている時間帯だ。
何故ここにいるのだろうか?
「私は国學館で教員をしていますが、神道省で兼定さんの部下として働いています。
本来は教員としての業務を優先していますが兼定さんの要請があった場合は
神道省の職務を優先しているのです。
純恋さんと桃子さんは私がどこに所属しているか、もうわかりますね?」
兼兄の部下・・・。純恋と桃子はそれを聞いただけで毛利先生の正体が分かる・・・?
「・・あんた、業やな?」
会議でも度々出てきた業と言う言葉。これが意味するところを俺は知らない。
どうやら部隊であることは確かだがどこに所属しているのだろうか?
「純恋さん達は分かっているとは思いますが、
龍穂君と千夏さんは私が今から言う事は内密にお願いします。」
そう言うとスーツについているバッチを取り、机の上に置く。
それは何も書かれていない黒い丸のバッチだった。
「三道省の人間は各々が所属しているバッチを付けています。
私の場合は皇直属の部隊、日ノ本を影から支える特殊部隊である”業”に所属しており
一応神道省所属ですがどの部署にも属していません。」
「・・部署には所属していないのでしたら、業のお仕事は一体何なのでしょうか?」
千夏さんは毛利先生に尋ねる。
三道省は日ノ本の平和を保つための業務についている。
その枠から外れているとなると何のために存在しているのだろう?
「業務としては説明の通り皇の指示に従い業務を行います。
細かい内容になりますと、表に出せないような極秘の事件への対応です。
例えば今回の事件。元魔術省長官である徳川仙蔵様の反逆についての操作がそれにあたります。
被害者が多く、どうしても情報を抑えきれませんでしたが
千夏さんや他の方々の身柄を確保。そして事情聴取の上、裏切者の捜査を行いました。」
千夏さんの情報とその場にいた兼兄の体験した情報を合わせたのなら、
おそらく徳川さんは自らの意志であの千仞と言う組織に入ったのではないことを
察することが出来、裏切者がいると判断するのは容易だろう。
「では・・・おじい様を操った裏切者は分かったのですか?」
一番気になるのはそこだ。誰がそんなことを引き起こしたのか。
徳川さんが入らざるおえない理由を作り上げた人物を抑えることが出来れば
この戦いを優位に進めることが出来るかもしれない。
「・・いえ、特定は不可能でした。
ですが今回の会議で怪しい人物を探ることは出来ました。
特に桃子さんの発言で出た服部殿は筆頭格。
総じて魔道省の一族達は警戒を強めた方が良いでしょう。」
確かに娘が徳川さんと共に戦っていたのは怪しすぎるが
それを父親である服部様が把握していなかったのが気になる。
俺達があの場に行くまでに数日は立っている。
別の口実を作るなどうまく立ち回ることが出来たはずだ。
「私達の出席を伸ばしたのは怪しい人物を炙り出す策だったってわけか?」
「ええ。純恋さん達の身柄をすぐさま隠したのも
先に服部殿の身内である雫さんの情報を得ていたからです。
探ってみるとどうやらここ数日姿を消している。
上司も何も知らされておらず、おそらく服部殿知らない。
それを会議の場で発言出来れば疑いの目を服部殿に向けることが出来、
大々的に服部家の捜査に乗り込むことが出来るのです。」
「・・そんな怪しい奴もっと早く私達を会議に出して調べればよかったやん。
そうすれば徳川家の議論を長引かせることなく千夏さんを楽にさせることが出来たんちゃう?」
純恋の言う通りだ。この長引いた日数分、千夏さんは心を痛めていたはず。
「この件に関しては千夏さんの了承を得ています。
そうしてでも・・・龍穂君のいる場でそうしなければならなかったのです。」
お・・俺?
「俺・・・・ですか?」
「ええ、あなたです。ですがそれを説明するには・・・・・。」
会話の途中で毛利先生が何かに気付く。
「・・必要な役者が来たようですね。」
そう呟くと毛利先生は出入り口の戸に近づく。
戸が叩かれた後、何かを呟き数秒待った後戸をゆっくりと開いた。
「ずいぶんと早く終わったみたいですね?」
「ああ。深く話し合うような議題が無かったからな。」
開かれて見えたのは兼兄。そして・・・・・。
「・・揃っているな。」
この国の長である皇の姿だった。
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