第百九十八話 予想外の訪問
玄関に立つ無数の人影。ドアを開ける素振りも見せず、こちらの様子を伺っている。
「・・・・・・・・。」
俺と式神契約をしている人やであれば念で連絡をくれるはず。
そしてここを知っている知り合いであればドアを挟んでこちらを伺う意味は全くない。
「綱秀、涼音。俺の後ろにいてくれ。」
服部の襲撃を受けているので千仞の奴らにこの場所の事は知られているのだろう。
俺の楓だけになったこのタイミングで襲いに来たんてことは容易に考えられる。
なので辺りに魔力操作を行い、空気から伝わってくる情報で何者か判断しようと試みた。
(ん・・・・?)
家の前に立っているのは三人。そしてそれを遠巻きから見ているのが一人。
遠巻きの一人は俺達が良く知る人物であり、会いたかった人物でもある。
そしてドアの前の三人。一人はおそらく面識がある。
だが残りの二人は一度見たことがあるぐらいで面識はないが、
家の前に立っている理由は察することができる。
「・・楓、二人を影渡りで外に出してやってくれ。」
綱秀が俺達も残ると言ってくれるが頼むという俺の一言で飲み込んでくれる。
おそらく・・・いても何も問題はない。だが色々と円滑に進めるには
俺と楓のみで対応したほうがいいと判断した。
影渡りで沈む二人を見送った後、インターホンすら鳴らさない人物に会うために
カギを開けてドアを開ける。
するとそこには険しい顔をした大柄の男と仏頂面で顔が整った細身の男。
そして黒い髪が肩までついた沖田が立っていた。
「・・公安だ。少し話しを伺いたい。」
公安課が家に押しかけてきているが、これまでの騒動の事を考えればむしろ来るのが遅いぐらいだ。
「ええ。大丈夫ですよ。」
沖田は依然戦ったので実力は代々把握しているが、
この二人は相当な力を持っていると触れている空気から伝わってくる。
武術師相手に間合いが近い戦闘ではおそらく敵わない。
だがそれでも戦える自信はあるが、ここは素直に受け入れるべきだと快く引き受けた。
「少し前の事だ。ここに惟神高校生徒が押し寄せたと話しを聞いた。それは・・・本当か?」
「・・ええ。かなりの生徒さんが来ていましたね。」
「そうか。実はそれととある事件が深く関係しているみたいでな。
出来れば色々と聞きたいんだが・・・。」
男が俺に尋ねてきている間、沖田が刀を抜こうと鞘に手をかけているが
空気で上から押さえつけてため引き抜けずにいる。
二人は沖田が襲い掛かるのを待っているようだが何もできずにいる姿を見て、
細身の男の話しを遮って大柄の男がため息を吐いた。
「まったく・・。気に食わないねぇ・・・。
せっかく絶好の間合いに入っているのにここまで何もさせてくれなんて、
全部行動が読まれているみたいでやんなっちまうよ。」
頭を掻きながら俺をじっと睨みつけてくる。
武術の弱点は体の動き初めだ。得物を引き抜かせず、拳を作らせず、腕を動かさなければ何もできない。
あからさまにこちらに切りかかろうとしている沖田。
目の前にいる二人も幾度となく俺に襲い掛かろうと体を動かしているが空気で押さえつけている。
真に恐ろしいのはそんなことをしていながら、平然と話しを続けている男二人組の方だった。
「・・ここ一帯は全て俺の間合いです。そう簡単に仕掛けられると思わないでください。
それより話しをしに来たのでしょう?どうです?奥の人も加えて中で話しをするというのは。」
「いいのですか?中に入ってしまえば障害物があるとはいえ、私達の間合い内から逃れる事はない。
それに・・・助けを呼んでも誰も来ることは———————————」
沖田が室内に呼び込むリスクを俺に対して指摘してくる途中、大柄の男は両手を上げる。
「お心遣いありがとう。中に入らせてもらおうか。」
手を広げ、丸腰で降参するような姿を見た沖田は驚きの表情で見つめるが
すぐに不満そうに睨みを聞かせた。
「・・降参なんて認められません。まだ戦いは———————」
「ド阿保。戦いに来たわけじゃない。噂通りの実力があることが確認できたら
話しを聞くと言っておいただろう。
しかもだ。俺達の立場を考えてわざわざ目のつかない所に入れてくれると言っているんだ。
ここはありがたく中に入れてもらおう。」
そう。この二人を見たのは三道省合同会議の場であり、
服部忍が怪しい動きを自白した時に真田様から指示を受けていた人物達。
公安課課長近藤様と副課長土方様その人だった。
そんな方々が外に出ている所を見られたらどれほどの異常事態だと周りが騒ぎ出してもおかしくはない。
それは俺としても避けたい所なので中に入れるのは当然の判断だった。
「ほら竜次!呼ばれてんぞ!!」
声をかけると家の塀に隠れていた竜次先生がゆっくりと体を出してくる。
見慣れているのですぐに分かったが息を潜ませ隠れる様子は一切なく、
ただ順番を待っているように壁に寄りかかっていた。
恐らく顔見知りなのだろう。そして竜次先生には聞きたいことがある。
公安から守ってもらうことも兼ねて一緒に中に入ってもらおうと思っていた所だ。
「・・・・・・・。」
ばつが悪そうにこちらへ向かってくる竜次先生は何もしゃべらずに近藤様達に合流する。
いつもの元気な姿との違いに違和感を抱きつつも、
お互い事情があると特に気にせず仙蔵さんの家に招き入れる。
四人を中に入れてリビングに入ると青さん達はまだダラダラと本を読んでおり、
念で伝えていたはずだと急いで二人をどけてソファーを開ける。
面倒くさそうに退き始める二人を俺の両隣に座らせると対面に座って
四人の前に奥から出てきた楓がお茶を置いてくれた。
「あの時の龍か・・・。威厳の欠片も無いな・・・。」
「すみません・・・。」
近藤様が青さんを見ながら呟くが、それでも漫画を手放さない二人から無理やり取り上げる。
「さて・・・お話し、しましょうか。」
惟神高校の生徒についての深堀。おそらく上から指示を受けたのだろう。
いや、もしかするとそれ以前の話しを聞くための嘘なのかもしれない。
「・・・・・・・・!!!」
だがどちらにせよだ。公安の課長と話しを聞けるなんてまたとない機会。
そして・・・俺達の巣にまんまと入ってきてくれた好機を逃さまいと、
念での場にいる全員に声をかけて再び辺りの空気を魔力操作の支配下に置く。
「おいおい・・・。」
「銃・・・ですか。簡単に握らせるなんて思っていましたか?」
土方さんがジャケットに隠していたホルダーから銃を取り出そうとするが、
空気を固めて体の動きを止める。
そして先ほどの様に沖田の刀も鞘に押し付ける。これで誰も得物を持つことはできない。
「穏やかじゃないな。話しをするんだぞ。」
「ええ。口は動くでしょう?」
俺の両隣に座る二人。そして後ろに立つ楓から竜次先生を除いた三人に向けて殺気が放たれる。
得物を持つことが出来ず、いつでも体の自由を奪えるこの状況は
確実にこの三人に恐怖を与えているはずだ。
公安に怪しまれるのは当然の事。
これだけの騒ぎを起こしていたのにも関わらず、今までよく来なかったとすら思う。
恐らく真田様達が手を回していたのだろうが・・・
必死で戦う俺達の周りを嗅ぎまわれるのは正直言って邪魔だとしか言えない。
それは俺達の動きが阻害される事に対してではなく
激しい戦いに巻き込まれて命を落とす可能性があるからであり、
この三人には申し訳ないが俺の実力を示すことで部下たちに簡単に近づくんじゃないと
警告してもらうためにこうしている。
「・・何が目的だ。」
ホルダーから銃を取り出すことを諦めた土方様は俺に尋ねる。
「お二人がお仕事でここにきている事は理解しています。ですが・・・俺達の邪魔をしてほしくない。
こうして嗅ぎまわるのは今日で最後にしていただきたいのです。
そうしていただければ・・・傷一つなくこの家から出る事が出来ますよ。」
最期の言葉と共に三人に向けて殺気を放つ。
それを受けた土方さんはこちらを強く睨みつけ、沖田は何故か口角を上げながら体を震わせていた。
「さすが・・・”木星”と言ったところか。」
今までじっと黙っていた近藤様がようやく口を開く。
土方様と沖田は得物を身に着けていたがこの人は何一つ武器を持っておらず、
携帯電話一つしか感じ取ることが出来なかった。
「木星・・・?」
「お前の異名だ。三道の特級を持つ者にはその存在を分かりやすくするため異名が付けられる。
例えばお前の先輩である蒼炎や魔弾の射手、そしてここの主である徳川千夏には
ネクロマンシーと言った風にそいつが特級を持つにふさわしい能力にそった名が付けられるんだ。
そして上杉龍穂。お前は始め黒風と呼ばれていたが国學館襲撃、
そして今回の土御門との戦いで見せた太陽系の惑星の一つである木星に模した魔術が
あまりに印象的だと木星と呼ばれるようになったんだぞ?」
それは初耳だ。
確かに謙太郎さんや雑賀さんは少し調べればわかるぐらいに異名が通っていた。
二人の能力がそれほどまでに印象的だという事だがまさか俺にもその異名があり、
それが木星なのは俺が使う魔術の実力が認められたと少し嬉しくなった。
「だが・・・ここまで強引な事をしてくるなんて意外だな。
かなり穏やかな性格と聞いていたが・・・今回の件が相当効いているみたいだ。」
近藤様の言葉に少しイラついてしまうが、すぐに立て直し笑顔を崩すことはしない。
「俺達の目的は君達に話しを聞くことじゃない。君達に会い、様子を見るだけ。それだけだ。」
この状況においても近藤様は態度や声色を変えることなく、
空気から伝わってくる心音さえも一切変わることが無い。
ずっと冷静を保っており、この二人とは違い場慣れしており明らかに格上だ。
「長官から放っておけと言われていたが
神道省、魔道省の両省からいい加減君について調べてくれと言われてな。
一度会った事実があれば黙ってくれるだろうと沖田を頼みたいと挨拶を兼ねて
ここに来たんだが・・・気が変わったよ。」
空気で動きを抑えているはずなのに力づくで腕を上げて沖田の頭を撫でる。
やはりこの人は別格。もしここで仕掛けられれば無事で済むか分からない。
「どうせ三道省の細かい動きについて聞かされていないんだろう?
俺達はずっと対応していたから分かる。君を神道省副長官にするための道を必死に整備し、
そして君が何も考えなくていいようにその道を走れるようにしているのが見え見えだ。」
そしてお茶を啜り、息を吐く。この人には・・・何が見ているんだ?
「いつもの業のやり方だ。記憶の封印と強力な認識阻害を使い、忘れさせたい記憶を脳から抹消する。
そして封印を解いた後も忘れていたことがまるで日常の様に過ごさせ、
業の都合の良いように動かすなかなかに非道な手だ。」
「・・何が言いたいのですか?」
「君が知らないことがまだまだあるってことだよ。
俺達は君が何を背負っているのかはっきり言って興味が無い。
だがな。君が背負っている事にどれだけの人が関わっているか。
そしてそれがどのような影響をもたらしているか知らなければ
神道省長官の座に座る権利がないと思っている。」
「それは・・・。」
「さあ、交渉と行こうか。俺は公安から見える情報を君に教えよう。
その代わりにこの威圧的な環境からの解放。
そしてこれから東京校に入学する沖田の面倒を見ると約束してほしい。」
たったそれだけでいいのかと思えるほどに不釣り合いな交渉。
流石に裏があるのではないのかと勘ぐってしまうが
その真っすぐな瞳は嘘をついているように見えない。
「・・俺が欲しい情報を全て出してもらいますよ。」
「いいだろう。」
近藤様の提案に承諾し、魔力操作を解くと共に念で楓にやめてくれと伝え、二人に漫画を返す。
公安から見た様々な景色とは一体どんなものなのか。
自由になった三人を見つめながら近藤様の言葉を待った。
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