表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第四幕 土御門泰国
180/402

第百八十話 分からない記憶と突然の頭痛

六華を引き抜き兎歩で土御門に駆けていく。

魔術で勝負を決める手もあったがあの綺麗で力強い兎歩のコツを盗むことが出来れば、

接近戦の手数が増えるだろうとあえて戦場に踏み込んだ。


「来ましたね・・・。」


四人の激しい攻撃を笑顔でいなしていた土御門だが。

接近する俺を視界に捕えるとその顔つきが真剣なものへと変わっていく。


「目的がわざわざ死地に向かって来てくれるなんてなんとありがたいことだ。

このまま首を刈り取ってあげましょう。」


土御門が刀を大きく振るうと床がまるで津波の様に大きく波打ち、

近くで戦っていた毛利先生達やノエルさん達が巻き込まれ距離を開けられてしまう。

俺にも波が向かって来ていたが兎歩で細かく移動し、波を避けつつ距離を詰めるが

それを読んでいた土御門も同じように兎歩で距離を詰めてきていた。


「さあ、終わりにしましょう。」


波の影に隠れるように飛び出してきた土御門は波の頂点にいる俺に向けて得物を打ち上げてくるが、

奴の動きに集中していた俺は既に六華を振り上げており、

両者振り抜き打ち付けられた得物の刃からは火花が飛び散る。


「ほう。やれるではないですか。」


先程は完全な不意打ちの上体勢を立て直せないまま刀を振るっていたが

今回は何が起きたも良いような心持ちで奴の行動すべてに集中していた。

準備を整えた一振りは決して力負けせず、お互い振り抜いた衝撃で距離が空く。


「ですが・・兎歩であれば私に分があります。」


波が落ち着いた床を土御門が兎歩で駆けこちらに近づいていく。

六華を構えながらも奴が地面に付く瞬間の足元に集中すると、足裏全体を使う歩法であるはずだが

つま先で何度も地面蹴りこちらに近づいている姿が一瞬だが目に写った。

例えつま先であっても強く蹴ってしまうと足音が鳴ってしまうが

つま先の小さい面積で通常の兎歩と同じ要領で地面をけることによって

音を鳴らさずに地面を駆けている。足先だけの操作で何度も地面を蹴る高等技術。

その技術を身に着けることが出来れば土御門のように高速で敵に接近できるのだろう。


こちらに向けて振り抜かれた刀を今度はしっかりと受け止めると

土御門は再度距離を開けこちらの様子を伺っている。

まるで今見せた兎歩でこちらに近づいてみろと言わんばかりのこちらを見つめていた。

これは罠かと思い少し間を置いたが、ここで奴と同じような兎歩が出来れば

四人の援護に合わせながら戦うことが出来ると土御門に向かって立待月たちまちづきの構えをとる。


「見よう見まねですか。たった一度見ただけで出来れば誰も————————」


苦労はしない。そう言いかけた土御門に向かって兎歩で接近し六華の一振りを浴びせる。

自らが扱う兎歩を俺が使うことが出来ないと、

油断していた奴は俺の一撃に手放した刀は宙を舞い、柵を超え下に落ちていく。

地面を掴むような感覚でつま先を何度も地面に叩きつけると一気に加速力が増し、

いつの間にか土御門の前に立っていた。

今までの兎歩は何だったのかと感じてしまうほどの爆発的な速度に刀を振り抜いた俺自身が驚いてしまい咄嗟に距離を取った土御門への反応が遅れてしまう。


「・・・やりますね。」


一段早い兎歩を習得したがつま先にかかる負担は高く、もう一度使えばつま先が痙攣してしまうだろう。

これを連続で扱うためには鍛錬が必要だ。


「あなたと一対一であれば簡単に首を刈り取れると思っていましたが・・・

ここまでやれるとは思っていませんでした。ですが・・・これはどうでしょうか?」


距離をとった土御門は高速詠唱を始めるが、複数の魔術を一度に唱える多重詠唱を行っている。

交流試合の襲撃で仙蔵さんも同じ技術を使っていたが土御門の方が早く、

多重にも関わらず呪文がはっきりと聞こえてきて技術の高さが伝わってきた。


「・・四元波動しげんはどう!!」


先程札で行った四大元素を一度に放つ魔術を詠唱で再現しこちらに向け放ってくる。

こうした多重詠唱に使われる呪文の一番最後の文章が同じ言葉に統一されているが、

それぞれの文書の長さが違い、それを全て同時に言い終える必要があるため

多重になればなるほど難易度が上がっていく。

先程土御門の指摘があった通り破壊の黒い風で受け止めれば難なく対処できるだろうが、

ここまで来たら奴の持っている技術を出来るだけ盗みたい。


(失敗しても援護はある・・・。)


迫りくる魔術を前に先ほどの土御門の口の動き、そして呪文を思い出しながら多重詠唱を唱える。

四つの魔術を一度に唱えた経験はない。だがこれが出来れば俺の単体火力が上がるどころか

戦いの中でカバーできる範囲が大幅に上がるだろう。

口の動き、舌、喉仏。全てを細かく動かし四つの呪文を唱えるが、

全ての呪文を頭の中で整理しつつ唱えるのは非常に負担が大きく、

思考回路が焼き切れそうな感覚に陥っていく。

唱え忘れ、そして噛むことが一度も許されずそして目の前に迫っている土御門の放った魔術が

俺を急かしてくるが何とか詠唱を続け最後の言葉を言い放つ。


四元波動しげんはどう!!!」


目の前に四つの魔術が解き放たれ混ざり合っていく。

呪文を完璧に唱えた感覚はあるが初めての試みにうまくいくか心配になり、

混ざり合う魔術を凝視するが均等な魔力で放った四つの魔術の内、通常とは異なる黒い風の魔術が

他三つの属性を全て取り込んでしまい土御門とは全く別の魔術が出来上がってしまった。


「なっ・・・!?」


全てを破壊する黒い風。それらが三つの魔術を破壊してしまい本来の威力を発揮することが出来ず、

土御門が放った魔術に力負けしてしまうと頭によぎるが風の魔術は破壊することなく

他の魔術達とうまく共存し、強力な一つの魔術として成り立っていく。

そして迫りくる土御門の四元波動に向かっていくぶつかり合うと

辺りに大きな衝撃を放ちながらバチバチと鍔迫り合いを始めた。


「ぐっ・・・!!」


あまりの衝撃、そして負担のかかった頭では体にうまく指示が送れず

風に体が押し込まれ後ろに倒れそうになってしまう。


「・・!!」


床に打ち付けられる痛みに耐えようとしているが誰かが俺の体を支えてくれた。

予想しておらず顔を後ろに向けると、そこには俺の支えながら土御門に目を向けている

兼兄の姿があった。


「全ての魔術がハスターの力に馴染んできているようですね・・・。」


鍔ぜり合いをしているが黒い風が入った俺の四大波動が徐々に押し込み始めている。

奥にはその光景を冷静にじっと見つめている土御門の姿があり、

それを見た瞬間先ほどの酷い頭痛が再度頭の中で暴れはじめた。


「また・・クソッ・・・!」


今まで感じたことが無いほどの頭痛に頭が割れそうな感覚に陥り、どうしようもなく頭を抑える。

そしていきなり目の前が明るくなったかと思うと今まで見たことのあるような風景、そして

人影がフラッシュバックのようにいくつも瞳に映し出された。


「な・・んだこれ・・・!?」


何一つ覚えがないはずの光景だがなぜかそのどれもが懐かしさを帯びている。

俺の体に一体何が起きている?


「・・限界か。」


フラッシュバックが終わりを告げると俺を抱きかかえ、覗きこむ兼兄の顔が見える。

俺はここまでだと呟くがまだ体は動かせると手を伸ばそうとしたその時、

どこか悲し気、そして寂しげななんとも言えない表情で土御門の方を見つめていた。


「・・ちー。回収を頼む。」


兼兄の表情の糸が読めず、手の動きが止まってしまう。

そして優しく床に寝かせられると影に沈み、行きついた先は戦闘の影響で出来た岩陰に潜む

ちーさん達の元だった。


「ちーさん・・俺は・・まだ・・・。」


「やれないよ。その状態で出ていったとしても無様にやられるだけだ。

ケガ人はケガ人らしく・・ここで大人しく固まってな。」


物音を立てないように俺の移動させてくれるが、どこからか唸るように声が聞こえてくる。

声のする方を見ると心配そうに看病をするゆーさんと頭を抑えながら座る桃子、

そして苦しそうに唸りながら蹲る千夏さんの姿がそこにはあった。


「一体・・何が・・・?」


「分からない。見たところ頭痛に襲われているみたいだけど、龍穂に付き添っている二人だけだ。

もしかすると式神契約の影響で龍穂と同じ痛みを共有しているのかもと思ったけど

二人の痛みには大きな差がある。何が原因かわからないのが現状だね。」


痛みで動けない二人の隣に寝かされる。

俺と同じように頭が割れそうなほど痛む二人に手を伸ばし体に触れるが、

辛うじて反応を見せる桃子とあまりの痛みに動くことが出来ない千夏さんを

ゆーさんは心配そうに背中を擦っていた。


「友達の仇を取りたい気持ちは分かるけどそれは命があってこそ。

今は兼兄達の全てを任せてここで休め。」


「ですが・・・。」


こんな状況で体を休めるほど半端な覚悟で戦ってきたわけじゃない。

頭を抑えながら立ち上がろうとするが、近づいてきた伊達さんが体を動きを止めに入る。


「ちーの言う通りだ。ここは大人しくしておけ。」


「・・・・・・嫌です。」


意地でも立ち上がろうとする俺に向かって藤野さんも静止に加勢してくる。


「ダメだ。」


ダメだろうが何だろうが折れない心が体を動かそうと二人を振り払いにかかるが、

あまりの痛みにうまく体が動かない。


「・・止めるだけ無駄だ。こいつには”大儀”がある。」


必死に止めに入る二人の手の感覚が無くなり、何が起こったのかとゆっくり後ろを振り返ると

そこには俺を止める手を掴んでいる謙太郎さんの姿があった。


「大儀だって?」


「そうだ。大切な人を守る。そしてそのためであればこの国を成り上がるという大義があるからこそ

龍穂は止まらない。

土御門は龍穂の大儀を阻む最大の敵だ。そいつを自らの手で倒さなければならないという強い決意が

国學館襲撃、そして三道省合同会議から今日ここまで龍穂を支えてきた。」


「だがこの状態で戦えば死ぬぞ。それはバカなお前でも見てわかるはずだ。

それでも戦場に連れ出そうってんなら・・・力づくでも止めさせてもらうぞ。」


謙太郎さんが口にした大儀。仙蔵さんに尋ねられ咄嗟に答えたが

これまでの戦いには必ず俺の傍に共に戦う仲間がおり、誰一人として欠けることはなかった。

成り上がるには必要だと言える陰陽師の試験にも合格し、

掲げた大儀通りに戦い続けてきたと思っているが、傍におらず手の届かずに

命は失わなかったものの表舞台に出て来れない状態にされた友人達がいる。

その無念を晴らすため、土御門との戦いに望んだが・・結果はこのザマだった。


「流石にそこまではしない。だが・・今まで戦ってきた龍穂には

この戦いの結末を見届ける権利はあるはずだ。」


立ち上がろうとする俺を謙太郎さんは肩を支えてくれる。


「おい!!」


「戦闘には参加させない。ちー、いつでも逃げられるように近くにいてくれ。」


うまく体を動かせない俺の歩幅に合わせて岩陰の端まで共に移動してくれると、

兼兄達が戦っている戦場が見える位置で足を止める。


「ここが限界だ。無念かもしれんが・・これで我慢してくれるか?」


本当であれば首を振り、戦闘に参加したいが伊達さん達の姿を見て

無残に命を落とすことはできないと悟る。

掲げた大儀は自らの命があってこそだ。悔しいがこの頭痛が収まることを祈りながら

指をくわえてここで眺めることしか、今の俺に残された選択肢はない。


首を縦に振り、痛みに耐えながら戦場を見つめる。

得物を失い札と扇子を手に持つ土御門と、戻ってきた五人が相対している光景がそこにはあった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ