第百四十二話 事件後の詳細
千夏さんと一緒にショッピングモール内のフードコーナーに向かう。
「本当にここでいいんですか?」
「ええ、ここが良いのです。」
タイムアップといった楓と別れると次は千夏さんと買い物をすることになり、
まずは腹ごしらえとここにやってきた。
千夏さんと食事と言えば格式の高い料亭などが思いつくが、この施設にはそんなお店は置かれていない。
であれば人目の少ない個室があるお店を見つけようかと思ったが、
千夏さんはチェーン店が並ぶフードコーナーを選んだ。
「流石に人が多いですね・・・。」
今日は日曜日。様々な用途のお店が並ぶこの施設内は多くの人で溢れかえっており、
空いているテーブルを見つけるのは一苦労だ。
離れないように手を握りながら辺りを見渡していると、俺達の名前を呼ぶ大きな声が耳に入ってくる。
「龍穂ー!千夏―!」
少し離れたところでこちらに手を振る人物。くせっ毛で金髪の長い髪の人物には見覚えがあった。
「あれは・・・・。」
「ふふっ、場所を取っておいてくれたみたいですね。」
あそこに行きましょうと千夏さんに催促され人混みの間を抜けながらたどり着くと、
そこには私服姿のちーさんとゆーさんの姿があった。
「場所取りありがとうございます。」
「千夏の頼みならなんてことないよ。それに・・丁度いい機会だからね。」
テーブルには既に注文したハンバーガーが乗っており、既に食事を済ませているようだ。
「その色男と少し話しがしたかったんだよ。
ここは人が多いけどmその分雑音も大きいから気兼ねなく話せるからね。」
そう言うと千夏さんとゆーさんは席を立ちあがり、飲食店が立ち並ぶ所へ歩いていく。
「・・話しというのはなんでしょうか?」
対面で座る千夏さんの眼を見て尋ねる。おそらく・・白がらみの話しなのだろう。
「色男って言うのは否定しないんだね。
まあそれもそうか、また”契約”の数を増やしているみたいだし。」
国學館に入学できるほどの実力者であれば契約の数が増えたことが一目でわかる。
楓と千夏さんと契約を結んだ時もさんざん言われてきたことだし、今回の件も言い訳するつもりはない。
「ええ、新たに結びました。」
「あらま、開き直ったか。千夏という子がいてよくそんな・・・なんていじめている場合じゃないね。」
膝にのせていたトートバックから一枚の紙を取り出しテーブルに置く。
「これを渡しておくよ。」
置かれた資料を手に取り文章を追う。そこに書かれていたのはとある”二人”に対する観察結果だった。
「これ・・・・・。」
「気になっていたでしょ?八海のお友達がどうなったか。待たせてごめんね?」
猛と真奈美があの後どうなったか専門用語を交えて詳細に書かれており、正直な所あまり理解できない。
「簡単に言うと、結構危ない状態だったけど意識が戻るくらいまでは回復できた。」
「本当ですか!?」
何よりも嬉しい報告に大きな声が出してしまう。
「待った。ここからが本番だ。
回復したと言ってもまだあの子達の体にはダメージが残っている。
龍穂達との戦いで出来た傷もそうだけど・・・
一番大きいのは体に入れられたダゴンとかの神の力が大きいんだ。
二人共、ダゴンの力を持った影響に苦しめられている。
私達の戦いに巻き込んでしまった責任があるからこちらで治療を続けるつもりではいるよ。」
あの戦いから二か月ほど経っているがそれでも二人が受けた傷は深い様で
回復までに時間がかかっている。
しかもあの土御門が与えたダゴンの力に苦しめられているのなら
完全な回復の目途なんてまだまだ立たないだろう。
「・・治療が終わった二人はどうなるんですか?」
「あの二人は表舞台じゃ犯罪者だ。治療が終わりました、家に返しますなんて出来やしない。
負うべき責任をしっかり見定めて適切な対応しようと思っているよ。」
八海での出来事がいまだに報道されているのにも関わらず、猛と真奈美が見つからないことを察するに
白という組織は何かを隠すことに長けているようだ。
兼兄や毛利先生達が率いている部隊だし、安心して預けておくことが出来る。
「少しでも進展があれば龍穂に報告する。気になるかもしれないけど我慢してほしい。」
「分かりました。・・俺からも聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
もらった資料を鞄の中に入れてちーさんに尋ねる。
「いいよ。」
「これは本来兼兄に聞くべきことなんでしょうけど・・・
襲撃を受けた後の事について聞きたいんです。」
主に八海、そして京都での襲撃の後について。
色々な人が手を尽くしてくれている事は聞いているが、誰に聞いても詳細な情報が入ってこない。
「・・私も詳しいことは分からない。
むしろ龍穂の方が知っているかもしれないけど・・・それでもいい?」
「承知の上です。お願いします。」
ほんの少しでもいい、何か新しいことが知れればそれでいいと承諾すると
ちーさんが携帯を取りだし操作し始める。
「まずは八海からいこうか。
まだまだ報道が続いていて事件の火が燻っているけど・・・それには理由がある。
一つはさっきも言ったけど主犯である二人が見つからない事。
怪しい人物として挙げられているけど見つからないから事件の収束が絶対につかない。
二つ目は撃退したと言われている龍穂への接近が禁じられている事。
この事件を取り扱っている神道省、そして武道省が龍穂への聞き取りが済んだと報告しており、
これ以上の詮索は不要と判断したからこれ以上の詳細な情報が出てくることは無い。」
一つ目に関していえば先ほどの通り白が二人の身柄を預かっている。
そして二つ目。これは真田様と伊達様が尽力してくれているおかげで俺への被害はないが、
そのせいで捜査の進展が絶望的になっている。
「そして三つ目。これがもっともこの事件を燻らせている原因なんだけど・・・
魔道省がその他二道省に対していちゃもんをつけているからだ。」
「いちゃもん・・捜査に対してですか?」
「そうなんだけど・・龍穂の想像している事とは多分違う方向でいちゃもんをつけているんだよ。」
ちーさんの言っている事が上手く理解できない。違う方向とは一体・・・?
「魔道省はね、この事件を暴かれたくないみたいなんだ。」
「暴かれたくない・・・?」
この事件の主犯は猛と真奈美だ。
元は被害者とはいえ、一番大きい被害をもたらした二人の存在が暴かれれば
八海神社の巫女が起こした事件として八海上杉家の地位が落ち、
それは親父や兼兄の立場を揺るがすことに繋がり俺を襲う隙が生まれてしまう。
「確かに猛と真奈美が犯人と分かれば龍穂の周りにいる人達の動きが鈍る。
だけどね、この事件の深堀は魔道省、ひいては賀茂忠行の首を絞めることに繋がりかねないんだ。」
そう言うと携帯の画面をこちらに見せてくる。
そこには八海の事件の真の主犯である惟神高校の生徒が猛達と戦う姿が写された写真が写されていた。
「これは兼定さんが独自の捜索で発見した物。
体育館途中にあった遺体が持っていたカメラの中にあったデータを写真にしたものなんだ。
これがあるおかげで事件の真相が暴かれた時に
必ず魔道省が関わっていることにたどり着くことになっているんだ。」
「なるほど・・・それを恐れてこれ以上の詮索はしないようにいちゃもんをつけているんですね。
賀茂忠行の存在が世間にばれることになるから・・・。」
「それはないよ。もし魔道省のせいになってもこの子の親を殺して口封じをするだけだ。
そんなことよりも・・・掌握しきれていない徳川由来の重鎮たちが、
再び勢いを取り戻しかねない事を懸念しているだろうね。」
この事件の発端は賀茂忠行の息がかかっている服部家が推薦された高官の娘だ。
未成年である娘の不祥事は親の責任であり、力を抑えられて大人しくしていた重鎮たちが
その隙を突いて復権を狙ってくることは十分考えられる。
「そんないざこざを知らない記者達はどんどん報道するから火種は消えることはなく、
かといって燃えることなく今も燻っているんだよ。」
「・・猛達がいない中で真相を明かせば魔道省に大きなダメージを与えられるんじゃないですか?
これってかなりチャンスなんじゃ・・・。」
「もし真相が明かされれば、
確かに魔道省に混乱を生むかもしれないけど真相を明かさなかったその他二道省も批判を受ける。
そうなれば龍穂にも大きな隙が生まれるし、
それどころか三道省全域の不祥事に日ノ本中が大混乱に陥るかもしれない。
八海の出来事はもう開けちゃいけないパンドラの箱になったんだ。
だから龍穂、あまり深く考えない方が身のためだよ。」
深いため息を吐きながらこれ以上触れるなとゆーさんは諭してくる。
メリットデメリット、そしてリスクを考えた時、
確かにこれ以上触れてはいけない事柄だという事は明白だった。
「そして・・次は京都か。こっちは簡単だ。全ての出来事は武道省によって握りつぶされた。」
「武道省ですか・・・。真田様が何とかしてくれたんですかね?」
「いや、違うね。」
あれだけの騒ぎになったのに握りつぶせるくらいの権力を持っているとしたら真田様しかいないが、
ちーさんは否定する。
「日ノ本での事件の捜査に携わるのが武道省だが、
今回の様に表に出せない事件の隠し方には対応した課によって特徴が出る。
今回の様に事件があたかもなかったような隠し方が出来るのはたった一つ。
こんなことが出来るのは公安課しかいない。
長官の耳に入ってはいるだろうけどあの短期間で全て片付けたとなると
恐らく現場判断で対処して事後報告になったと思う。」
高野との戦いも激しかったが、民間人への被害のリスクが高いのは賀茂御祖神社での深き者ども達だ。
竜次先生がいたとはいえあれだけの数を対処してかつ、
遺体を全て片付けるとなるとかなりの時間を要するだろう。
「龍穂、あの場所に公安課の人はいなかった?」
「いえ・・・あの場にいたのは俺達の竜次先生だけです。他にはいなかったと思います。」
俺の答えを聞いてそうかと呟き何かを考え始める。
どうやって遺体を片づけたのか気になるが、
その場にいなかったのにも関わらず公安課が対処したと断言できるちーさんの推理力も相当なものだ。
「まあ・・私も千夏から聞いた話しで推測しただけだから真相は分からないけど・・・
確か竜次先生は一度武道省に勤めていたなんて話しを聞いたことがある。
何処所属までは分からないけどもしかするとその時に公安課に勤めていて
協力してもらったのかもしれないな。」
「武道省ですか・・・。竜次先生の武術なら公安課に勤めていてもおかしくはありませんね。」
何度か授業を受けたことがあるがまともに戦えた記憶はなく、完全に遊ばれていた。
危険な現場を対処する公安課に勤めるのは相当な実力が必要だが、
竜次先生の実力であれば所属することが出来るだろう。
「そんな所かな。まだまだ気になることあるかもしれないけど・・・
千夏達が戻ってきたことだし、またの機会にしようか。」
ちーさんの視線の先には千夏さんとゆーさんがおり、
手にはハンバーガーが乗っているトレーを思っている。
「お待たせ~。いっぱい話せた?」
「ああ、十分話せたよ。」
トレーには俺の分まで乗せられており、隣に座った千夏さんが一緒に食べようと言ってくれる。
話しを終え、お昼ご飯を食べようとすると肩に何か重い物が置かれ、
振り返るとそこには綱秀の姿があった。
「よう、お前もいたのか。」
後には涼音の姿もあり、買い物袋を持っており二人もここに遊びに来たことが分かる。
「綱秀じゃん。デート?」
「そんな所です。」
ニヤニヤと笑っているゆーさんを軽く躱し、丁度よく開いた隣のテーブルに腰を掛ける。
「楓達や他の一年も見たぞ。」
「えっ?火嶽達か?」
「ああ。国學館勢ぞろいだな。」
そう言うとお昼ご飯を食べるために涼音を連れて歩いていく。
千夏さんの横を通り過ぎる時、涼音は軽く会話を交わして人混みの中に入っていった。
完全に信頼を取り戻したなと思いながらハンバーガーにかぶりついた。
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ハンバーガー、ポテトまで食べ終え一息つく。
「それにしてもここでご飯を食べるなんて久しぶりだね~。一年生以来?」
ゆーさんがジュースを飲みながら口を開く。
「そうだね。あの時の千夏は今とは比べ物にならないくらいに暗い子だったけど・・・
変わったんもんだよ。」
ちーさんは頬杖をつきながら千夏さんを眺めていた。
「あの時はお二人にずいぶんと助けられました。休みの日にここで遊んだことは良い思い出です。
なので出来れば卒業までに、もう一度ここで二人と共にご飯を食べたかったんですよ。」
通常の高校生に比べ、実習で土日が潰れてしまうことは珍しくない。
それに俺に付き合うことで遊びに出る暇も少なくなってしまった千夏さんは、
少ない空き時間を二人との大切な思い出を振り返る時間に当てたのだろう。
隣を見ると綱秀達も食事を済ませており、その奥には楓や謙太郎さん達と合流した一年、
そして純恋と桃子の姿も見える。
本当に勢ぞろいだなと思っていた俺の耳に突然甲高いベルの音が響く。
「!!!」
ショッピングモール内に鳴り響いた非常ベルの音。
何が起きたのかと立ち上がり辺りを見渡すと、ざわつく人混みの中、
娯楽施設が並ぶこの場にあまりにも場違いな装束衣装を着た髪の長い男の姿が目に入った。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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