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木星の陰陽師 ~遠い先祖に命を狙われていますが、俺の中に秘められた神の力で成り上がる~  作者: たつべえ
第二章 上杉龍穂 国學館二年 後編 第三幕 残された二人との契約
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第百三十八話 休日の計画

「ん・・・・。」


辺りが少し寒くなってきたことに気が付き目を開く。

目の前には日の傾いた空に照らされた橙色の日本庭園が広がっていたが、

茶道具一式は片付けられていた。

純恋が淹れてくれたお茶があまりにもおいしく何杯もおかわりをもらった後、

三人で縁側で休んでいたが何時の間にか眠ってしまったようだ。


「・・ん?起きたみたいやね。」


後頭部には柔らかい感触が伝わってきており、上を向くと桃子の顔が見える。


「おはよう。」


寝てしまった俺に膝枕をしてくれていた。


「んん・・。おは・・よう・・・。」


「疲れてたみたいやね。ちゃんと寝てる?」


しっかり寝ている気ではいたが、ここ最近の忙しさが体に残っていたのかもしれない。

体を起こし、伸びをしてぼーっと落ちていく夕日を眺める。

実家と似ても似つかない古民家だが、畳や木の匂いや目の前に広がる木々が八海を思い出させ、

懐かしさと安堵を与えてくれた。


(猛達は・・どうなったんだろう・・・。)


実家を思い出した時、ふと猛たちの事も思い出す。

兼兄に会う時に必ず猛達の事を聞いているが無事だとしか答えてくれない。

被害のあった八海も未だにテレビの報道が入っているがそのたび親父の顔が写っている。

事の始まりや結末すべてで一番不透明であった八海の戦いはまだ戦火が燻っており、

親父達が必死になって鎮火に当たってくれていた。


「・・・・・・・・・・・・。」


不透明だという言葉を連想してだろうか。

上手く回らない頭に、昨日見た夢で聞いた認識阻害という単語が浮かび上がる。


捷紀さんも言っていたが俺達には認識阻害がかけられている。

幼い頃の八海での出来事。

俺と純恋が出会っていたことを思い出させないように封印を掛けたのだろうが、

それにしては厳重にかけられた術式は、他にも何かを隠しているに思えて仕方ない。


(母さんにも会えなかったし・・隙を見てもう一回帰ろうかな・・・。)


ふとそう考えるが、八海での事件の張本人が行けば親父に迷惑がかかる。

陰陽師として対処にあたったと報道されているが、詳細が公になっていないのにも関わらず、

記者の人達が来ていないのは真田様や伊達様が裏で手を回してくれているからだろう。


懐かしさに当てられホームシックで帰りたいですなんて軽々しく言えない状況だ。

出来る範囲で情報を集める。そして母さんには・・電話でもしようか。


「そんな眉間に皺を寄せて・・・どうしたん?」


色々考えていると、肩に何かが乗せられる。


「あんま難しいこと考えちゃあかんで?」


寒くて目を覚ました俺を気遣い、半纏をかけてくれた。


「そう言う事をしないためにここに来たんやから。」


無意識に顔をしかめていたようで心配そうにこちら見つめていた。

見ると桃子もお揃いは半纏を羽織っており、再び隣に座り景色を眺める。


「もう・・夕暮れやね・・・。」


赤い空を見た桃子が呟く。楽しい時間はすぐ・・・・。


「・・・・あっ!!」


リラックスしすぎて大切な事を思い出す。


「寮に帰らないと・・・!!!」


急いで携帯を取り出すと、あと一時間ほどで門限の時間になっていた。

過ぎるとアルさんから折檻を喰らってしまう。


「青さん達にも連絡を・・・・。」


念で青さんにどこにいるか尋ねるが、返事は返ってこない。

謙太郎さん達がいるから大丈夫だろうが、楽しんでいる青さんもよく時間を忘れてしまう。

任せている身なので迷惑を掛けられないと携帯を取り出し、

謙太郎さんに連絡を入れようとすると隣から一枚の紙が俺の膝に置かれる。


「はいこれ。」


焦っている俺の視界に入ってきたのは外泊届。

名前の欄には俺の名前が入っており、申請が通った証であるアルさんの判子も押されている。


「なっ・・えっ・・・?」


「出しておいたで。青さん達は大丈夫や。

謙太郎さん達がしっかり責任持って連れて帰ってくれる。」


外泊届は本人が目の前で記入しないとアルさんが許可の判子を押してくれないはず。


「なんで・・どうやってアルさんから許可をもらったんだ?」


「龍穂を癒したいって伝えたら許可をくれたで?

アルさんも気にしてたから特例やって言ってくれたわ。」


そんなことがあっていいのかと思ったが、通ってしまったのであれば焦る理由が一つ消えた。


「・・一応謙太郎さんに連絡を入れておく。」


もう一つの不安要素を消すために謙太郎さんに電話をしようとするが、

なんと電波が圏外であり電話どころかメッセージさえも送ることが出来ない。


「こら、落ち着いて。」


一人で焦る俺の肩を掴んで頭を無理やり膝の上に乗せる。


「龍穂が寝た後、不干渉の結界を張ってもらったんや。

だから電波は入ってこないけど、敵も入ってこれない。」


結界とは様々な種類があるが、

不干渉の結界とは内にいる人物が結界を解かない限り何者の干渉も受けない結界だ。

非常に強力な結界だが利便性が高く、

犯罪にも使われる可能性が高いので禁術に指定されており国學館の教師であっても使用は許されない。


「そんな結界使って・・・大丈夫なのか?」


「ダメやろうねぇ。でも・・見つからなければいいんやない?」


なんてのんきなことを言っているだと突っ込むが桃子は微笑むだけ。

こうした禁術を扱う場合は誰もいない場所か、認識阻害を併用して使う場合がほとんどだ。

見つからなければいいという言葉は認識阻害を使っているということだろう。

そう聞いても桃子は表情を変えずに俺の頭を撫でてくる。


「はぁ・・・・。」


分かった事はここから出られない事。

そして不安要素を無理やり抑えられたことであり、焦る事自体がばかばかしいと理解する。


「ため息ばっかり吐いてると幸せがどっか行ってまうで?」


「二人が何も言わないからだよ・・・。」


「だって龍穂、言ったらそんな場合じゃないって断るかもしれんやろ?」


「そうかもしれないけど・・・。」


文句を言っていると良い匂いが鼻から伝わってくる。


「誰か・・ご飯を作っているのか?」


「ん?純恋やで。一生懸命夜ご飯を作ってくれてるよ。」


少し離れた窓の隙間から湯気が出ており、良い匂いがそこから流れていることに気が付く。


「・・・・ってことは俺達はここに泊まるのか?」


「そうやで。ええやろ?」


先程から然も当然のように話している桃子。


「ここまで・・計画通り?」


「計画通りや。大人しく罠にかかっとき。」


薄々感づいてはいたが、良くここまで手まわししたもんだと感心してしまう。


(何の気なしに膝枕をしてもらっているけど・・・。)


目が覚めてきてとんでもない状況だと気付いてしまう。

誰も見ていないからこその行動だろうが・・・意識した途端、俺が恥ずかしくなってくる。

静かに体を起こそうとするが、撫でている手に力が込められて抑えられてしまう。


「・・これから何が起こるんだ?」


無理やりでも膝枕を続ける気であれば、俺が出来る事は計画の内容を聞くことしかない。


「それを明かしたら面白くないやろ?」


だが、桃子は教えてくれない。

手の内を完全に伏せており、俺のリアクションを楽しむつもりだ。

少しでも何かわかることはないかと横目で桃子の顔を見るが、

夕暮れの冷たい風を感じながら優しく微笑んでいる。


この休日を楽しんでいるのは俺だけではなく桃子も同じだ。

お茶を立ててくれたのも夜ご飯を作ってくれているのも純恋。

今の所俺たち二人はお客様の扱いをされているが、計画の内なのであれば桃子にも役割があるはず。


「・・・・・・・・・・。」


今こうして風に当たっているという事は今現在はすることがないのだろう。

という事は・・・桃子の役目はこれからという事なのかもしれない。


「二人共ー!ご飯できたでー!!」


それが何なのかを考えていると奥から純恋の声が聞こえる。


「おっ、出来たみたいやな。」


俺の頭を優しく叩き、起きてくれと催促して来る。


「茶の間はすぐそこや。遅れると純恋、怖いで?」


体を起こすと桃子が立ちあがり声をかけて部屋の奥へと歩いていく。

何を企んでいるのか未だ察しがつかないが二人の事だ。

俺の事を取って食べてしまおうなんてことはないだろう。

これまでの事、そしてこれからの事を考えることなく空っぽの頭で廊下を歩く。


いい匂いが立ち込める廊下を歩いてすぐの所の戸を引くと、

そこにはちゃぶ台に置かれた料理が広がっていた。


「これ・・純恋が作ったのか・・・?」


割烹着を折りたたんでいる純恋に尋ねる。


「・・そうや。」


ご飯に汁物、魚の切り身に野菜の和え物にお漬物。


これは・・・京料理だろうか?

それぞれが綺麗に盛り付けられており、

食事だけではなく目でも俺達に楽しませようとしてくれる努力が伝わってくる。


「年頃の女が作ったにしては味気なさすぎるかもしれんけど・・・。」


お茶を立てている時とは違い自信が無さそうにしているが、

そんなことはないとすぐに否定し料理の前に座る。

桃子と純恋も座り、手を合わせて食事の挨拶をし二人は箸を持つことなく俺の方をじっと見つめている。


料理の感想が聞きたいのだろう。どれからいくか迷うがまずは汁物に口をつける。

縁側で感じたいい匂いの正体は間違いなくこれだ。


口に入れた瞬間、味噌と良い出汁の味が広がる。

決してインスタントでは出せない一から作り上げた御出汁だとすぐに分かるほど繊細な味をしていた。


「うん。おいしい。」


二人に偽りのない感想を伝えると純恋は嬉々とした笑顔を俺に向けてくれる。


「せやろ?頑張ったんやで?」


その姿を桃子は微笑ましく眺めており、

純恋が喜ぶ姿を見て満足したのか箸を持ち食事に手をつけ始める。


「この魚は・・なんて言うんだ?」


「鱧やで。柔らかくておいしいから食べてみてや。」


内陸にある京では川魚が多く食べられていたが、

日持ちする鱧は海でとってきて京に持ち込んでも腐ることが無かったようだ。

そうした背景をもつ鱧は高級食材として重宝されていたが、確か下処理が大変だったと記憶している。


純恋の手を見ると無数の絆創膏が見える。恐らく下処理をした時にできた傷跡なのだろう。

箸を入れると魚とは思えないほど柔らかく、力を込めると崩れてしまいそうになるほどだ。

慎重に持ち上げ口に入れると良い塩加減の中に香る柑橘のさわやかな風味。


「・・すごいな。」


下処理だけではなくしっかりと手の込んだ料理に感動してしまう。

大雑把なイメージが立った一口の料理で変わってしまった。


「ふふっ。そうやろ?」


俺の感想に満足したのか純恋も料理に手をつけ始める。古民家にいるのは俺達たった三人。

楓と千夏さんとはお正月の時に何度かタイミングがあったが純恋達と同じ経験をするのは

また違った感覚で面白い。


小鉢に分けられた料理に手を伸ばしつつ、二人を会話をしながら夜ご飯を食べ進める。


これから起こる事なんて考えもしないまま二人と過ごすこの空間を楽しんだ。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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