第百三十四話 豪風予報
「はぁ・・・・・。」
午前中の仕事を終えて食堂でご飯を食べるが、
いつも以上に疲れてしまい思わずため息をついてしまう。
「大変だったみたいだな。」
武道を終え、座学を終えた次の授業が神道。
ここでも多くのギャラリーに囲まれてしまい、また全員と勝負を挑まれた。
「立ち合いじゃなくてありゃ組み手だよ・・・。」
神道での戦いは式神を含めた戦いになったが国學館に入れる実力は伊達ではなく、
かなり強い式神を持っており苦労を強いられた。
得物での戦いの武道の時は技術や力で圧倒すればよかっただけだが、
力の強い式神を制して使役者を無傷で勝負を決めなければならないのでかなり神経を使わされた。
隣で元気よくご飯を食べている青さんやイタカ、そして新加入の八咫烏様にだいぶ助けてもらったが
力加減の大切さを改めて知るいい機会になった。
「全力で戦っているのに組手扱いされる新入生も可哀そうだな。」
向かいに座る綱秀は、後ろに固まって食事をとっている新入生たちの方をちらりと見て
心無い一言を俺に放つ。
言い返したい気持ちはあるが食事をしている彼らの視線が俺に突き刺さっており、
下手なことは言えないと喉まで出ていた不満を何とか飲み込んだ。
「まあ・・自らの実力の現実を見ると共に、お前みたいになれるかもしれない可能性を見せられたら
十分じゃないか?」
俺の表情を見て心中を察してくれたのか、綱秀が前向きな言葉をくれる。
「まあ・・そうだな。」
中身はどうであれ、俺に興味を持ってくれている証拠だろう。
これで大阪校ではなく、うちに来てくれる人が多ければ何よりだ。
「・・涼音はどうしたんだ?」
「純恋達と向こうで食べてるよ。陰の力について話し合っている。
千夏さんが声をかけて四人で意見交換したいんだとさ。」
千夏さんも涼音を認めつつある。
全員が一つの道を歩んでいる事を、同じ食卓を囲んでいる姿を見て強く感じていた。
「・・少々よろしいですか?」
体は疲れていたが心は満たされて始めている中で少しでも疲労回復するために大盛のご飯を食べていると後ろから声をかけられる。
「ん・・・・?」
あまり聞いたことのない声が聞こえてきたので誰なのかと思いながら振り返ると、
小柄で綺麗に切りそろえられたおかっぱの黒髪の生徒の姿が目に入る。
「お久しぶりです。覚えておられますか?」
依然会った沖田司が俺の元へ挨拶をしてきてくれた。
つい先ほどまではスーツ姿であったが何故か国學館の制服に身を包んでおり、
中性的な顔つきであったが女性らしいスカートを身にまとっていると
年頃の女の子だということが分かる。
「ああ、久しぶり。沖田・・・翠ちゃんだったよね?陰陽師試験の時に言っていた通り・・・。」
「ええ。国學館への入学は決めていたのですが、
どちらに行こうかの選択はまだ決めきれていなかったんです。
なので一度見学に来て判断しようと思っていたのですが・・・・
午前中の授業を見させていただいて東京校への入学を決めました。」
これからよろしくお願いしますと深々と頭を下げてくる。
向かいにいた綱秀軽く紹介すると、武術師と言う肩書を聞いて目を丸くする。
「まだ中学生なのに武術師なのか・・・。」
「陰陽師試験の時の最終試験で戦ったんだ。
かなりの実力だよ。入学が決まったら一度立ち会ってみるといいかもしれないな。」
幼い身での武術師の資格習得は朝に天才の所業と言えるだろうが、
その言葉を放った瞬間、沖田は冷ややかな目でこちらを見つめてきた。
「・・このお方にはその試験の時にコテンパンにやれているんですけどね。」
敗れた相手から褒められる事を嫌っているという事は、
沖田は俺に対してライバル心を持っているのだろう。
「ですが、次はそうはいきません。覚悟をしておいてください。」
そして面と向かっての宣戦布告。
その心意気を俺は受け止める気でいるが、一つ気になったことを沖田に尋ねる。
「それはいいけど・・・だったら授業で前に出てくれば良かったじゃないか。
確かに国學館に入学すればいくらでも戦えるかもしれないけど、
それだけの自信があるんだったら戦うのは今日でもよかっただろ?」
入学予定の子達の前で俺に勝利すれば一目置かれる存在となるだろう。
自信があるのならすぐにでも挑んできたらいい。
俺もその覚悟はあると煽ったのだが、冷ややか眼を解いて首を振る。
「京都での活躍を耳にしています。強力な敵を退いたと。
私も鍛錬を積んできましたが、あなたの実力に届いているか分からない現状で
挑むのは良い判断ではない。
なので今日一日はあなたの実力を見させていただくと決めました。
その上で鍛錬を積んであなたに挑ませていただこうと思いますよ。」
俺の情報をかなり集めているようで、公にされていない京都ので戦いを把握しているようだ。
俺の強さを判断して入学してから戦いを挑む決断。確実に俺を仕留める気でいる。
「・・いいね。待っているよ。」
血気盛んな年ごろであるが、冷静な判断を出来るこの器は彼女が武術師であることを証明している。
その姿を見て綱秀も興味を持った様で、燃え滾るような熱い視線を宿している。
今の所新入生の中で一番の実力を秘めているのはこの子だ。
一番いい人材を引き入れることが出来たと思っていると、頭に重い何かが乗っかってくる。
「何を楽しそうに話しているんですか~?」
聞こえてきたのは楓の声。座っている俺に組んだ腕を乗せてのしかかってきているようだ。
「か、楓。入学予定の子と話していたんだよ。顔見知りでさ・・・・。」
「へぇ・・。そうなんですね・・・。」
楓の表情はここから見えないが、沖田の表情からするにどうやら睨みつけて敵意を示している。
「龍穂さんにあこがれるのは良いことですが、しっかりと段階を踏まないといけないじゃないですか?」
「・・どういうことですか?」
楓は自らが俺の従者であることを明かし、挨拶をする。
「なるほど、あなたを倒してから挑めと・・・。」
「そういうことです。ですが・・・・。」
いつの間にか一年生達が楓の元へ集まっており、俺の沖田の間に立ちはだかった。
「最上級生に挑む前に我々を倒していくのが筋でしょう?」
どうやら俺と戦うことに対して楓だけではなく、他の一年生も異議を唱えに来たようだ。
バチバチと視線をぶつけ合っている所に割って入ろうとするが
こちらまで来ていた綱秀が俺の肩を掴み止めに入る。
「こっちはどうにかしてやるから向こうを収めてこい。」
小さく指を差した先には俺の方を強く睨む純恋の姿があった。
桃子も止めに入らず呆れたようにこちらを眺めており、
千夏さんも静かな怒りを露わにしながら見つめていた。
あれは俺しか対処できないので綱秀も頼んで来たのだろう。
分かったと席を立ちあがり純恋達の元へ歩いていく。
「なんや。」
歩いてきた俺に対して不愛想で不機嫌な一言をぶつけてくる。
「いや、なんかこっち睨んできているから・・・。」
「えらい若い女と楽しそうに話したやん。何を話しているのかと気になってな。」
俺と沖田が話していた所をしっかりとみられていたようで、
それを見た三人はあまりに不機嫌な態度を取っている。
「前に一度戦ったことがある子なんだよ。だから挨拶をしていたんだ。」
「ふーーーーーーん。」
筋は通っている。一度会っただけなので別に親しい中ではない。
「・・まあええわ。」
説得をしたら何とか受け入れてくれるが不機嫌なのは相変わらず。
(こりゃ・・・後で機嫌取らないとな・・・・。)
少し話しただけだと言いたいところだが、それは純恋の逆鱗に触れる。
ひとまずここは許してもらい、綱秀の元へと戻る。
「いいじゃねえか。それぐらい気合い入れて行けよ。」
上手く収めてくれていると思っていたがなんと綱秀は沖田と楓を煽っており、
二人はバチバチの状態になってしまっている。
「おい!綱秀!」
「ん?ああ、龍穂。解決してやったぞ。」
「解決してないだろこれ。対立しちゃってんじゃん。」
一触即発とまではいかないが、二人は負けられないと視線を逸らすことはない。
「あの場をどうやって収めるんだよ。むしろ対抗心を煽ってればお互いのいい刺激になるだろうが。」
沖田は後ろにいる四人とも視線を交えており、
どうやら入学してきた時点でどちらが上かケリをつける気だ。
「いやだからって・・・・。」
「龍穂、これが国學館なんだよ。
入学してきた奴らが争い、そして上級生達に食って掛かるような奴らじゃないと生き残れない。
下の奴らは慕ってくれているからそんな騒ぎは起こらなかったが、
入学式後なんて普通はバチバチなんだぞ?」
木下や火嶽、真田や武田と楓は確かに俺達に反抗する気はなく、
むしろ鍛錬などを共に行うような仲だ。
俺達の平穏は彼らのおかげだったのかもしれないが、礼儀がなっていない年下には容赦はしないようだ。
「・・・・・・・・・。」
色々なことが起きて頭がぐちゃぐちゃになる。
既に入学が決まっているがこれから一体どうなるんだろう。
胸を不安が支配している中、予鈴が食堂に鳴り響いた。
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