第百三十話 隠した策の威力
引き出せた八咫烏様最大の一撃。それは何とか躱し、青さん達の元へ届ける。
『今です!!』
準備は既に整っており、実行に移すだけ。
後は青さん達がどれだけうまくやってくれるかにかかっている。
「なっ・・・・!?」
黒い風が晴れた瞬間、眩い光が八咫烏様を襲う。
それは・・・自らが照らした太陽の力によるものだった。
「清明の氷面鏡!!!」
俺が隠した先にあったのは大きな湖のような磨かれた氷面鏡。
自ら放っている光を真っ向から受けた八咫烏様は、思わず手を前に出す。
氷面鏡は八咫烏様に光を集めるため緩やかな楕円になっており、
自らが光を放っている八咫烏様と言えど目くらましは受けてしまうだろう。
(まずは・・成功だな。)
完全な不意打ちで相手の隙を突いた。
だが光の矢は止まることなく、氷を貫いて青さん達を襲おうとしている。
「夜の箙。」
俺達の作戦はまだ先がある。
あの氷を壊されると続行が厳しくなってしまうと、
先程晴らした風を再び集めて光の矢の周りに集めて覆う。
縮退星の時は真っ向から受けたため破壊されてしまったが、
俺の風は光を通さないので光の矢を黒い風で削っていく。
「くっ・・・!!」
多くの風と魔力を込めて何とか光の矢の威力を弱めることに成功した。
これなら光源として使うことが出来る。
「さあ行くぞ!イタカ、心の準備が出来ておるな?」
「誰に言っているんだ?すでに準備は出来ている。」
今は冬だ。空気中の水分は少ないが結露が多く、青さんであればそこら中から水を集められる。
気付かれないように集めた水分を八咫烏様の周りに集めるとイタカが冷たく固める。
鋭くとがった氷柱が辺りを包むと、一斉に八咫烏様に向けて放たれた。
「やるな・・・・!!」
光には強い八咫烏様は失明してもおかしくない光度だったのにも関わらず既に視界を取り戻しており、
自らが放つ光によって氷柱を溶かそうと試みるが背中に暗闇が現れ光を失う。
「なっ・・・!?」
太陽を背負った時、八咫烏様は呼び名の通り自らを太陽の化身として輝きを放った。
「黒い空。」
であれば太陽を隠してしまえばその輝きは失われる。
背中に黒い風で作り上げた空を敷くと氷柱は解けることなく八咫烏様の体に刃を突き立てた。
「ぐっ・・・!!!」
俺達の怒涛の攻めに対応が出来ず、体に出来た傷からは赤い血が流れている。
強力な力を持つ者は汎用性が高すぎるがゆえに一度弱点を突くと脆い部分がある。
それは俺にも言える事だが、大きな違いは仲間がいる事だ。
二人の頼れる仲間。この中に八咫烏様が加わってくれれば千仞、
そして賀茂忠行との戦いにも勝機が見えてくるだろう。
「・・まだだ。」
無数の傷を負った八咫烏様だがそのどれもがこの人の翼を、
そして心を折るには程遠い一撃であり太陽のような光を宿す眼差しでこちらを睨みつける。
すると体に刺さっている氷柱が不自然なほどに早く溶け始めた。
太陽を失い、先ほどより確実に弱いはずだが手負いの虎ほど怖いものはない。
『止めを刺しましょう。油断していると一気にやられそうだ。』
不利を簡単に覆す力を持っているのは始めの攻めで嫌と言うほど見せられた。
このまま倒し切らないとマズイ、俺の脳が決着へと自然と舵を切っていた。
『分かった。では参ろうか。』
氷柱が溶け始めたという事は体に熱が帯び始めているという証だ。
太陽を背にした時、太陽の化身としての力を発揮できるのだろう。
そんなことをさせては決着をつけられないとイタカが辺りを空気を冷やしていく。
そしてそれに合わせて青さんが八咫烏の背中に生えている漆黒の翼に水を集めると、
冷えていく体と共に翼が凍り付き始めた。
撥水効果を持つ鳥の羽だが、まとわりついた水が凍り始めると羽にくっ付いてしまい
それだけ重くなってしまう。
冷えた体で翼を動かそうともいつも通りに羽ばたかせることが出来ずに
八咫烏様は地面へと落ちていった。
黒い空の影から逃れて再び太陽の力を持たせないように風を動かしつつ、
決着をつけるため八咫烏様と共に落ちていく。
「・・日鳥!!」
このまま好きにはさせないと純恋も使う太陽の魔術を放ってくる。
自らの逸話を模した神術ではなく、あえて魔術を放ってくるところを見ると
神力があまり残っていなかったようだ。
小さな太陽をこちらに向けるが黒い風で包み込むと太陽は光を失った。
八咫烏様は抵抗虚しく地面に叩きつけられてしまう。
近くに着地し、兎歩で近づくと六華で首元に刃を近づけた。
「・・あまり力を残されていなかったようですね。賀茂御祖神社から離れた影響ですか?」
肝心な所でのガス欠。
八咫烏様にとって不本意な結果になってしまっただろう。
「・・・・・・・・。」
俺の問いに八咫烏様は答えない。
だが、振り返ると八咫烏様の神力があまり残っていない事は戦闘に大きく現れていた。
「これは俺の予想ですが・・・あの光輝く姿が本来の姿なのではありませんか?
太陽の化身と謳われたあなたにふさわしい姿だと思います。」
初めてあった時から少し大きな烏の姿だった。
古木さんから聞いた話しでは賀茂御祖神社は途中から賀茂忠行の根城として使われており、
神社としての機能を失ったことから信仰を上手く体に取り入れることが出来なかったのかもしれない。
ただ太陽を背負った時のみ、
謳われた化身としての姿を取り戻せるのだとしたら今までの姿に辻褄が合う。
「俺であれば・・・あの姿を維持できるほどの神力を持っています。
契約をする価値は十分にあると思いますよ。」
青さんとイタカ、そしてハスターと契約していてもまだ俺の神力には余裕がある。
八咫烏様ほどの神様を使役するのは相当な神力な神力を消費するだろうが、何とかなるだろう。
「・・・・・・・・。」
それでも首を縦に振ることはない。
このまま誰とも契約せずに現世に留まっても
上手く信仰を受けられないのでは力を失っていくだけであり、
下手をすると神としての格を落とすことになる。俺との契約は悪い選択じゃないはずだ。
「龍穂、お主分かっとらんな。」
八咫烏様に刃を付いている所に青さん達がやってくる。
「お主・・・これが調伏だという事を忘れてはおらんか?」
青さんに言われて思いだす。これは調伏、力で相手を圧倒して無理やり使役を結ぶ儀式だ。
今やっていたのは式神契約への勧誘、契約のメリットを提示して契約を持ちかけていた。
力で契約を勝ち取る・・・となればやることは一つ。
あまりしたくはないが八咫烏様も調伏を受け入れていたので大丈夫だろう。
六華の刃を首筋に軽く押し付ける。
切れ味鋭い刀なので引かずとも肌を傷つけることが出来、赤い血が刃に沿って滲んでくる。
そしてそのまま親指を噛んで血を出すと青さんに視線を移した。
「うむ、それでいい。」
すると納得した表情で青さんが式神使役の儀を執り行ってくれる。
このまま刀を離せば逃げられるかもしれないと刀を離し、
すぐに首を掴み動かせないようにしたまま傷ついている首筋に血の付いた親指を押し付ける。
すると体液が交わった事、お互いが契約に納得しているという条件を踏んだことで契約が結ばれた。
八咫烏様が調伏を望んでいたこともあって勝負がついた後に契約に応じてくれたが、
相手をしっかりと叩き召した後に式神契約を強要するのが調伏の基本であり、
それが式神契約の主流であった平安時代は精霊や妖怪、そして神様にとっては嫌な時代だったのだろう。
「これで契約成功だな。」
イタカと青さんは安心したようにこちらを見つめてくる。
俺達の反撃が成功したとしても八咫烏様なら戦闘継続するかもしれないと
ある程度の長期戦を覚悟していたが、力を失っていたことが功を奏した。
「うわっ・・!!」
刀をしまい、倒れている八咫烏様に手を差し伸ばすが突然光出して思わず驚いてしまう。
何も言わずに光出すのは勘弁してほしいが俺の神力を上手く使ってくれている証拠だ。
「不本意ではあるが・・契約は結ばれた。
俺としても我が社である賀茂御祖神社を奪われた恨みもある。」
薄めで手を前に出して光る姿を何とか見ようと努力する。
「今後とも、よろしく頼むぞ。」
名のしれた神様との契約の姿を一目見たいと思っていたが視界が白く全く見えない。
これは負けた腹いせなのだろうか?
見るのを諦めて視線を逸らすと、戦いを見守っていたみんながこちらに近づいてきている姿が見えた。
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