第百二十九話 本来の姿
「さて・・・・。」
隙を作るのなら俺が目立たないといけない。だがそのまま出てもあの光の束の餌食になるだけだ。
(位置は・・・バカでかい神力でわかるな。)
俺が作り上げた黒い風の壁でお互いの位置は分からない。
だが強い神力を持っている八咫烏様は、眼で見なくても位置は手に取るようにわかる。
「流星領域。」
この位置が分からない状態はお互い同じ。
であれば少しでも有効に使うべきだと魔力操作をし、壁から無数の黒い風の塊を放つ。
無造作に撃ち込んだ風の弾を八咫烏様は翼から光の束を放つことを止め、
回避に集中することで完ぺきに避けている。
「・・・ん?」
反撃を受けてどういう対応をしてくるか様子を見てくると、
再度神力を高めてこちらに光の光線を放ってこようとしているが、
俺が予想していたよりか神力は高まっていない。
向こうは一度反撃を受けただけだ。長期戦も考えてある程放つ神力を抑えているのだろう。
だがそれでは俺が考える結末には辿りつかない。
どうにかして強力な太陽の一撃を放ってもらわなければ。
流星領域から空弾を放つのをやめて手を伸ばし回転を加える。
すると中心に風が集まっていき、大きな渦巻きが出来上がった。
光の束を跳ねのけるために広範囲に作り上げた風の塊達が
回転の影響の中心に集まっていき、質力が高まっていく。
「・・・・何をするつもりだ?」
小さくなっていく風の渦の隙間から光が差し込んできており、そこから八咫烏様の姿も見える。
感じ取った通り俺達への反撃を準備をしていたようだが、俺の動きの意図が分からず困惑していた。
「何をしようとも・・・・全て焼き尽くせばいいだけだ。」
困惑を続けることこそが悪手であると八咫烏様は理解しており、
自らが用意した術を黒い渦に向けて放つ。
「太陽の霊鳥。」
自らの名を冠した技をこちらに向けて放ってくる。
太陽を背にし、自らが放った光が炎に変わり烏の形となってこちらに飛んできた。
純恋と比較しても太陽の力を柔軟に扱って来ている。
この言葉が無礼なのかもしれないが、純恋は太陽の形をした炎しか扱ってきたのに対して
様々な逸話を持つ八咫烏様の術のバリエーションは豊富だ。
「回れ・・・・。」
だがそんな攻撃にも対応できなければ賀茂忠行、ひいては千仞に勝利することはできないだろう。
どんな攻撃でも受け止められる術。
千夏さんから頂いた宇宙の本からアイディアを引っ張ってきたとある星を模倣した術を放つ。
「縮退星。」
回転を増した風は辺りの空気を吸い込んでいき、中に強力な重力を生む。
そして中に巻き込んでいった物体を黒い風が削り取っていった。
その姿はまるで本の中で見たブラックホール。
俺の力ではまだ本物に近づける事は出来ないが、これでもあの太陽の鳥を破壊できるだろう。
俺の縮退星を目の前にした太陽の鳥は警戒してその場にとどまり、
嘴を大きく開き雄たけびをあげて威嚇する。
だが途中まで勢いよく飛んできていたのでかなり間合いを詰めてきており、
風の引力が既に相手の太陽を飲み込み始めていた。
「なんだあれは・・・?」
八咫烏様も見たことのない魔術を見て思わず声をこぼす。
現世で活躍していた時代は宇宙と言う概念は存在していなかったので
そんな言葉をこぼすのは当然だろう。
未知との遭遇に対処法が分からず一度太陽の鳥を引かせようとするが時すでに遅し。
逃げるためにどれだけ翼を羽ばたかせようとも
引力が翼を引き込んでおり、体がどんどん縮退星に近づいていく。
光さえ通すことない漆黒の風に太陽の輝きが失われ、最終的に全て飲み込んでしまった。
「・・・・・・・やるな。」
神力を制御していたとはいえ自信のある攻撃だったのだろう。
驚きながらも俺の魔術に対して素直に賞賛の言葉を送ってきた。
「お褒めいただき感謝します。ですが・・・少し拍子抜けですね。」
無礼を承知であえて煽る。
八咫烏様が持つ最大の一撃を放ってための誘導だ。
「ほう・・・言うな。」
勝利を導く神様である八咫烏様。
ただ導くための道を教えるだけではなく、本人で切り開くほどの実力もあるだろう。
「勝利の道が消えた。お前がその黄衣を身にまとった瞬間からな。」
格下だと思っていた俺に対して煽られたのに対し、冷静に語る八咫烏様。
「お前の言う通り、実力を隠していた俺が悪かったようだ。ここからは・・・・。」
翼を広げ、眩い炎を身にまとう。
「・・本気で行かせてもらおうか。」
自身の体を燃やしたかと思ったが炎の形が人の姿に変わっていき、
輝く炎がまるで燃やし尽くしたように徐々に消えていくと冠、袍、袴、靴と
まるで絵にかいたような日ノ本の神の姿の細身の男が現れる。
通常白い衣装のはずが漆黒に染まっており、まるで烏の様に細い眼でこちらを見つめてきた。
「久々だ、この姿になったのは。」
自らの体をまじまじと見つめ腕や足を動かす。
まるで自らの体を毛繕いを行う烏の姿様であり、
体の動作の確認が終わると背中から大きな漆黒の翼が現れた。
「私は八咫烏鴨武角身命。
民を導くのには烏の姿が一番だからな。こうして自らの力を本気で扱う事など何時振りか。」
背中から見える太陽がより一層光り輝いているように見える。
これが八咫烏様の本気の姿か。
「さて、これでまた”導きの光”が見える・・と思っていたが、それでも見えないか。」
導きの光と言う単語は初めて聞いたが、見える、見えないという事は
おそらく八咫烏様の眼には俺達とは違う何かが見えているのだろう。
「ここで引けば導きの神の名が廃る。
勝利とは自らの手で勝ち取るものだと生意気なお前に教えてやろう。」
まさか本気の姿があったとは思っていなかった。
『龍穂、どうする?』
流石の青さんもあの姿の八咫烏様を見て作戦の進行をどうするか確認して来るが、
俺の中に予定変更の択はない。
『やりましょう。あの人に見せつけてやるんです。二人の実力を。』
この調伏の儀で見られているのは俺の実力だけではない。
俺の式神である青さん達の実力も当然みられている。
『俺は必ずあの人を調伏させます。
その時に同じ式神となる青さん達が舐められることが在ってはいけない。』
複数の式神を従えている際、一番気を付けなければならないのは式神同士で軋轢が生まれる事だ。
伝説の龍である青さんやハスターの配下であるイタカであっても、
八咫烏様ほどの有名な神様となれば名声や信仰に差が出てしまう。
だからこそ、この二人で八咫烏様を驚かせるような一撃を加え、下に見られない必要がある。
『・・分かった。』
俺の意図を汲んだ二人は素直に了承してくれる。
『こちらの準備は出来ている。あとはお前次第だ。』
俺が戦う前に念で指示を送った通りに二人は準備を済ませてくれている。
後は俺次第、失敗すれば二人に危険が迫るどころか命を落とす可能性もある。
失敗は許されない。
「では、行くぞ。俺に敗北を叩きつけてみろ。」
人となった八咫烏様が翼を羽ばたかせこちらに近づいてくる。
俺の前には縮退星があるのにも関わらずにだ。
きっと何か策があるのだろうと縮退星の風を強めていくと同時に、
俺の青さん達の間にもう一枚の黒い風を置く。
これで青さん達の姿が隠れ俺達の意図が読み取れない。
「ここでも受け身か。少しは歯向かってくると思っていたんだがな。」
俺の姿を見た八咫烏様は拍子抜けだと罵ってくるが、狙いがバレていない証拠だ。
後は強力な一撃を放ってもらうだけ。
俺の作戦に導かれるように八咫烏様の体に強い神力が集まってくる。
「わが名は八咫烏鴨武角身命。
国津神の人柱であり、太陽の化身にして勝利へと導く神なり。」
自らの名の詠唱。これはこの日ノ本で名の通った神であることを示すことで、
自らを信仰する信者の思いを力に変えている。
縮退星に近づいていく八咫烏様だが、背に負う太陽が一瞬眩い光を放ったかと思えば
手に光り輝く弓を持ち、自らが作り出した炎の矢を引いていく。
「・・導きの丹塗矢!!!」
至近距離で放たれた太陽の矢は縮退星をいとも簡単に貫いてしまう。
まるで光の速度と勘違いしてしまうほど目に負えない速さで下にいる俺の元に近づいてくるが、
何とか体を逸らし避けると、下にある黒い風の塊に向けて突っ込んでいった。
避けるかと残念な表情を浮かべる八咫烏様だが、
隠していた切り札を披露するために敷き詰めたある黒い風を晴らす。
「・・・・!?」
その瞬間、眩い光が八咫烏様を襲う。ここからは・・・俺達の時間だ。
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