第百十五話 荒削りの黒い原石
高野を挟み込んで対峙する。奴が持っている力、神の力は相当なものだ。
「奴の一挙手一投足を警戒しろ。幼い見た目だが扱う力は本物だ。」
禍々しい力を持つ目の前にいる男は明らかな殺意をこちらに向けてきている。
今まで戦ってきた敵の殺意は不純ではないが、どこか別の感情を含めた殺意を向けてきていた。
だが奴は殺すことだけを考えている純粋な殺意が俺達に向けていた。
「手加減はしねぇ・・・”カタノゾーア”!!」
聞いたことの無い名を叫ぶ。
奴の体から神力が溢れていくと、神の形を模したように形へと変わっていった。
「・・向こうも力を制御しているわけでは無いようだな。打ち取る好機だぞ。」
イタカが人の姿になって俺から大太刀を持つ。
「各々出し惜しみはするなよ。少しでも手を抜いたら死ぬと思え。」
高野の力が増していくと、敷かれている石畳がまるで生きているように蠢き始める。
何が起きたのかと驚いたが、上手く動くことが出来ない
綱秀と涼音を守るために空気で体を押し上げ空壁で囲う。
「ここは俺のフィールドだ!!」
石畳どころか舗装されていない地面から石や岩を取り出して宙に浮かせる。
どういった神か未だに分からないが、石や岩を操ることできるようだ。
「・・全員、俺が奴の攻撃を処理する。その間にできるだけ近づいて戦ってくれ。」
この森が奴に取って戦いやすい場であることは確かなのだろう。
だが奴が支配できるフィールドとは言えない。何故なら空気を操る俺と・・・
「阿保が。わしがおるじゃろう。」
木々を操ることに長けている青さんがいる。俺達がいる限り易々と支配されるわけにはいかない。
青さんは周りの木々を操り枝を鞭のように使い、岩を破壊していく。
「前任者はもっとうまく力を使っておったぞ。まだまだ未熟じゃな。」
コンクリートに包まれた東京の地では青さんの能力は発揮しずらかった。
だがこのような自然あふれた地では青さんは無双できるほどの力を発揮できる。
中途半端な力をぶつけたとしても太刀打ちできないだろう。
「バカにすんなよ・・・!!」
煽ってくる青さんを目の敵にして、さらなる岩を取り出しぶつけようとして来る。
体の大きさと精神年齢がほぼ同じだ。あれだけの力を持っているが本当に幼いのかもしれない。
「青さんが気を引いてくれている今が好機だ。行こう。」
だが俺達にしてみればつけこめる絶好の隙だ。
青さんが意識を引いてくれている今の内に攻め入るしかない。
「わかった。行くで・・・!!!」
桃子が魔王の力を解放する。
日頃の鍛錬のおかげで今まで分からなかった魔王の名前が判明した。
「山本五郎座衛門!!」
妖怪達の統領とされている三つ目の烏天狗の姿の魔王。
玉藻の前と比較すれば被害の数は少ないが、非常に強い力を持っているとされている。
「よし・・・こっちだ。」
名を知らないでどうやって式神契約を行っていたか不明だが、魔王が故の力で契約をしたのだろう
依然の様に鎧に身を包み、俺と共に駆ける。
青さんの方を向いていた高野は俺達に気付くが、
縮地でとんだ桃子は既に間合い内に到達しており豪快な一太刀が振り下ろされた。
青さんに苛立っているとはいえさすがに桃子に反応を見せており、
肌に掠めそうになりながらも体を逸らして交わす。
「そんな攻撃・・・!?」
桃子の隙を突こうとした高野は桃子の影に隠れた俺の存在に気付くがもう遅い。
大振りの一撃を避けられることなんて想定内。
魔王の力を解放した桃子の存在感は純恋に負けないくらいに大きいので、
その影に隠れる事は容易だ。
「一兎流・・・居待月。」
俺の居合。暗殺用の居合との相性は抜群。居待月を準備し、隙だらけの高野の体を切りつけた。
「ん・・!?」
だが手に伝わってくる刀身の感触は柔らかい皮膚を断ち切ったものではなく、
固く刃が通っていない骨まで響く感触。
見ると高野は体全体を黒く染め上げており、岩より硬い何かに変形させていた。
「クソッ・・やるな・・・!!」
切れ味鋭い六華はここら辺にある岩を簡単に断ち切ってしまう。
変形した石、あれは一体何なのだろうか?
俺達の攻撃をいなした高野は反撃の拳を放ってくるが、体の動きが鈍く後ろに跳ねながら避ける。
どうやら体を変形させることによって防御力は非常に高くなるが移動速度が落ちてしまうようだ。
明らかな弱点が見つかるが決して付け入れるような大きな隙ではない。
「潰れろ!!」
俺達が離れたのを確認すると奴が両手を勢いよく合わせる。
するとうごめいていた石畳が動き出し、左右に大きな壁を作り上げる。
そして俺達を押しつぶそうとこちらに迫ってきた。
「面倒になって終わらわせようとするな。」
勢いよく迫ってきた石畳だが徐々に勢いを失い、
まるで歯車がかみ合わないような軋んだ音を立てながら止まっていく。
よく見ると石畳の隙間に草の根が複雑に絡み合っており、地面からも木の根で引っ張っている。
碌に手入れをされておらず、飛んできた種により植物が成長していたのだろう。
「純恋さん、私達の番ですよ。」
「分かっとる!!」
俺達が稼いだ時間で後衛の二人が魔術の準備を済ませている。
前衛、後衛の基本的な連携だ。
純恋はいつも通り太陽の魔術を唱えているがいつもより小さく、力を抑えている。
千夏さんが準備している風の魔術で空気を取り込む前提で作られており、
取り込んだ時に一番効果のあるサイズだ。
「金鵄天翔!!」
俺との契約で黒い風の魔術を使えるようになったが、それはあくまで俺の魔力を取り込んだ時のみ。
それをしなければ通常の風の魔術を扱える。
作り上げられた空気の通り道を通った太陽は強い光を放ちながら高野へ向かっていく。
呪文の通り空を駆けるトビのように姿を変え、滑空する様に一直線に向かって行った。
「ぐっ・・・!!!」
自らの攻撃を簡単にいなされ、
しかも反撃が続く状況に高野は体を固める事しかできず再び黒い岩石に身を包み四肢を折りたたむ。
完全な防御態勢なのか足を完全に止めて純恋達の攻撃を受け止める。
これはチャンスだと強力な至近距離から強力な魔術を打ち込もうと踏み込むために足に力を入れた時、
(止まれ。)
イタカの指示により一度退く選択を取った。
「なんでや!あいつ叩くチャンスやん!!」
俺が踏み込まなかったことに対して純恋が文句を言ってくるが、すぐにイタカがその理由を述べる。
「奴は俺達を殺す気はあったようだが、頭の中に様子見と言う言葉が強く残っていたのだろう。
自らが操れる力の中で俺達を殺すように立ち回っていたが
それでは勝負にならないと”ギア”を上げるようだ。」
先ほどまでは体を岩に変えていたが今回は岩を繭の様に覆っており、
自らの姿を何かに変えようとしているように見える。
「あの状態の奴に何をしようとも今の俺達では何もできないだろう。
無駄な体力を使わずに距離を取るべきだ。」
「それに・・・奴は時間を使っている。これはわしらにとって悪くない状況じゃ。」
ここまで圧倒していると言っていい状況なのに、二人は高野に強い警戒を向けている。
青さんが言っていた前任者。そしてこの二人は元々俺達の両親に使役されていた。
高野が使役しているカタノゾーアと言う神。どれだけの力を有しているのだろうか?
「龍穂・・・・。」
守るために風で囲んでいた中から声がする。
綱秀の声だ。
すぐさま近くに呼び寄せ、声を通すために穴を開ける。
「どうした。」
こちらを覗く綱秀の背中には涼音の姿があるが力なくぐったりとしており、
まだ意識が戻っていないようだ。
「毛利先生から連絡があった。もうすぐこっちに来るみたいだ。」
「そうか・・涼音は大丈夫か?」
「意識が・・戻らない。息は乱れていないから・・・大丈夫だと思いたい。」
首を掴まれていたので下手をすると今後に関わるような怪我をしている可能性もある。
綱秀も出来れば病院に連れて行ってやりたいと思っているだろうが
俺達が戦っているこの状況に言い出せないのだろう。
「お前達、ここからは奴の強さが変わるぞ。
イタカもわしもずっと言っておるが出し惜しむなよ、死ぬぞ。」
黒い岩の繭の中の神力の質が変わっていく。
すると青さんに阻止され、地面に崩れ落ちた石畳も黒く変色し始めた。
「龍穂の風みたいやな・・・。」
「あれも宇宙の力なのでしょう。
龍穂君は風。そして奴は・・・宇宙の”岩”を扱う神を使役している様です。」
奴の黒い固い岩。あれも俺と同じく宇宙の岩の力なのだろう。
周りを黒く変色させている奴の岩の繭、
何が起きてもいいように警戒を強めているとその色が翠に変色し始めた。
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